永禄十年(1567年)――
尾張の風雲児、織田信長が、天下統一への野望を胸に、京の都へと進軍を開始した。
「信長… 恐るべき男だ…」
山奥の寺に隠遁する老陰陽師・白雲斎は、信長の動きを、鋭い眼光で見つめていた。
彼の弟子である東雲宗則は、今、信長の家臣として、尾張にいる。
「宗則、お前は、わしのような過ちを繰り返してはならぬぞ」
白雲斎は、宗則に託した言葉の意味を、改めて噛み締めていた。
かつて、白雲斎は、禁断の陰陽術に手を染め、愛する者を失った。
彼は、宗則が、同じ過ちを繰り返さないことを、心から願っていた。
一方、京の都では…
「信長を利用するのです」
藤原家の若き公子・蓮は、冷酷な笑みを浮かべ、都を揺るがす陰謀を企てていた。
彼の叔母である春蘭は、蓮の野心に気づきながらも、藤原家を守るために、苦渋の決断を迫られる。
「宗則様、どうか、ご無事で…」
春蘭は、宗則の無事を祈りながら、運命の歯車が、大きく動き始めたことを、感じていた。
【主要人物紹介】
東雲 宗則(28歳): 没落した下級武士の三男。
白雲斎の弟子となり、陰陽師としての修行を積む。
剣術や武芸は不得意だが、類まれな知略と、八咫烏の導きによって未来を予知する能力を持つ。
信長の家臣・柴田勝家の軍師として、美濃攻略に貢献するが、都の陰謀に巻き込まれ、自らの運命と向き合うことになる。
「私は、必ず、陰陽師として、この世の闇を打ち払い、そして、人々を苦しみから救う。それが、私の使命だ」
藤原 漣(28歳): 公家の名門・藤原家の次男。
美しい容姿と優雅な物腰とは裏腹に、冷酷な野心家。
宗則の能力を利用し、信長をも欺き、藤原家を権力の頂点に導こうと企む。
「信長を利用して、二条家を倒し、そして、その信長をも利用して、近衛家を、この都の頂点に導く」
花山院 春蘭(39歳): 蓮の叔母。
才色兼備で、宮廷で絶大な影響力を持つ。
宗則の才能を見出し、彼を藤原家に招き入れるが、蓮の野心と、信長との同盟の間で、苦悩する。
かつて、白雲斎に恋心を抱いていたが、身分の違いから、その想いを諦めた過去を持つ。
「信じています、宗則様」
【用語解説】
陰陽道: 古代中国から伝来した、天体の動きや自然の法則を研究し、吉凶を占ったり、災いを避けたりする術。
日本では、平安時代から貴族社会に広まり、政治や生活に深く関わってきました。
陰陽師は、陰陽道の専門家として、朝廷や貴族に仕え、様々な儀式や祈祷を行い、時には、政治的な助言も行っていました。
泰山府君祭: 冥界の主宰神である泰山府君を召喚し、その力を借りて寿命を操る、禁断の陰陽術。
術者自身の寿命を削ることで、対象者の寿命を延ばしたり、逆に縮めたりすることができる。
しかし、その代償は大きく、術者の精神に大きな負担をかける。
この物語は、陰陽師・東雲宗則が、戦乱の世を生き抜き、自らの運命と向き合いながら、愛する者たちを守るために戦う、壮大な物語である。