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第二十八話 上洛に向けた準備

「宗則、そなたはどう思う? 六角を討ち、上洛への道を開くには、いかようにすればよいか?」


信長は、静かに尋ねた。

その声は、静かだったが、宗則の心に、重くのしかかった。

信長は、美濃の斎藤龍興を追放し、美濃を平定した。

そして今、天下に最も近い男として、上洛を決意したのだ。

その最初の標的が、近江の六角家。


「はっ!」


宗則は、信長の鋭い視線に、緊張しながら答えた。


「六角義賢は、老獪な武将でございます。彼は、必ずや、堅固な城に籠城し、持久戦に持ち込もうとするでしょう」


「そこで、それがしは、調略を用いるべきだと考えます」


宗則は、地図を広げ、信長に、近江の地理と六角家の勢力図を説明した。


「六角家の家臣の中に、信長様に内通する者を…作るのです」


「具体的には?」


信長は、興味深そうに、宗則に問いかけた。


「六角家筆頭家老、蒲生賢秀殿に接触いたします。賢秀殿は、野心家でありながら、義賢殿からは冷遇されております。信長様のお力と、それがしの陰陽術を使えば、必ずや、彼を寝返らせることができるでしょう」


「ふむ」


信長は、宗則の言葉に、深く頷いた。


「良いだろう、宗則。その策、実行せよ」


信長は、宗則に、期待を込めた眼差しを向けた。


宗則は、信長の言葉に、身が引き締まる思いがした。

同時に、彼は、信長に仕えることへの不安と、戦という殺し合いに自らの能力を使うことへの葛藤を、改めて強く感じた。


(信長様は、本当に、この乱世を終わらせることができるのだろうか?)


(それとも、私は、ただ、彼の野望に加担しているだけなのだろうか?)


宗則は、自らの使命と、信長への期待の間で、葛藤していた。


その時、宗則は、春蘭の言葉を思い出した。


(信長様は危険な人物です。しかし…藤原家にとって必要な存在でもあります…)


そして、白雲斎の言葉を思い出した。


(宗則、お前は、わしのような過ちを繰り返してはならぬ。お前の力は人々を救うためにある。それを決して忘れてはならぬぞ!)


宗則は、深呼吸をし、心を落ち着かせた。


(私は、信長様の天下統一が、この乱世を終わらせる最善の道だと信じています。そして、そのために、私は、自らの力を、使うことを恐れてはならない!)


宗則は、決意を固めた。


「必ずや、ご期待に応えてみせます!」


宗則は、信長に、力強く答えた。


宗則の隣に控えていた綾瀬は、静かに信長を見つめていた。

彼女の表情は、相変わらず能面のように無表情だったが、その鋭い眼光は、信長の言葉の一つ一つを、逃さず捉えていた。

そして、彼女は、時折、宗則に視線を向け、彼の心の揺れ動きを察知していた。


(宗則様、あなたは、本当に、それで良いのですか?)


綾瀬は、心の中で、宗則に問いかけた。


信長は、他の家臣たちに、上洛の準備を命じた後、宗則と綾瀬に退出を許した。


宗則は、綾瀬と共に、清洲城を後にした。

そして、蒲生賢秀に接触するため、近江へと向かった。


「綾瀬、そなたは、信長様を、どう思う?」


道中、宗則は、綾瀬に尋ねた。


「信長様は、強いお方です。そして、恐ろしいお方です」


綾瀬は、静かに答えた。


「強い…そして…恐ろしい…か…」


宗則は、綾瀬の言葉に、深く頷いた。

彼は、信長に仕えることへの不安を、改めて強く感じた。


(私は、信長様の力を借りて、都を救うことができるのだろうか?)


(それとも、私は、信長様の力に飲み込まれてしまうのだろうか?)


宗則は、自らの運命に、不安を感じながら、近江へと歩みを進めた。


(続く)

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