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雉四郎編11 さらば! 涙のゴッデム!

 キジシロッティこと雉四郎が最期に見たのは、勢い余って飛んできた鉄球だ。


 そう。怒り狂った犬次郎の鉄球の巻き添えを喰ってあの世へと旅立ったのである。


 そして、彼女は長い長い眠りの中で、ひとつの夢を見たのだった──




★★★




 グラサンをつけたマッチョな男が、豪華な金ピカなリングにと上がる。


 ガチャンッ! と、彼に照明が当たり、マッチョな男は全方向にその逞しい筋肉を見せつけ、観客たちに向かって手を振る。


 そして、左手首を右手で押さえつつ、空に向かって拳を突き出す!


「ゴッデムッ!!」


 よく日焼けした大胸筋が引き伸ばされ、乳首が浮き立ち、魅惑的な脇が顕になる。剃り残しはない。つまりパーフェクトなポーズだ!


「「「ゴッデムッ!!」」」


 男のポージングと低い叫びに呼応するように、観客たちも声を上げる!


「ゴッデムッ!!」


「「「ゴッデムッ!!」」」


 ツバが飛び、熱狂的なファンはその場で失神する!


「もう、みんなも知っての通り、俺は武神ゴッデム! 創生神ニューワルトの双子の妹の隣に住んでいたババアの知り合いの家電屋の息子だ!」


 お決まりのアメリケン風ジョークに、観客はドッと笑う。掴みはオッケーだ。


「最近疲れ気味でねー。なにやってもかったるくてかったるくてー。つい、暇つぶしにアニマルを転移させちゃったんだけど、コレって大失敗だったよね?」


 そんな今さらのネガティブ発言に、観客からわずかにブーイングが漏れ出す。


 それをゴッデムはチチチと舌打ちで黙らせた。


「そう! 失敗なんてない! 人生には息抜きが必要だ! この小説はそういう安らぎを与えるためのものだ! そう俺は判断した! ゴッデムッ!」


「「「ゴッデムッ!!」」」


「……神故に〜?」


「「「ゴッデムッ!!」」」


「あ、あの意味が……」


 これを読んでいる読者のひとりが、空気の読めない質問をする。


「意味? 意味なんて考えて転移なんてできんだろう?」


「そ、そんな……まるで本当に意味が……」 


 混乱だ。混乱の極みだ。


 ここまで読んでくれた人のよい読者は、「おかしいだろ!」とは言えないのだ。


 おかしいヤツにおかしいと言えない、おかしい世の中。


 悲しい。あまりにも悲しい。


 しかし、これが世界の本質でもある。誰も望む通りなんてなりゃしないものだ。


「ゴッデムッ! ゴッド故にゴッデムッ!!」


 ゴッデムは、良い子が真似をしてはいけない両手中指を立てて、この凝り固まった常識人ばかりのつまらない世の中に挑む!


「俺を! 俺を見続けろ! ゴッデムッ!!」


「「「ゴッデムッ!!」」」


「い、いや、本当に意味が……」


 理性が、常識が、真面目ぶった読者がこの作品の暴走を止めようとする。


 しかし、ゴッデムはもはや聞いてもいなかった。


「今日からはマッスル体操をこれから毎日行う! 神故に! マッスル故に! ゴッデムッ!!」


 ゴッデムは、どこからか現れた猛牛の首根っこを捕まえて合掌捻りで抑え込む。武神だからこそできる、最高のポテンシャルな一撃だ。


「俺は誰だ!?」


「「「ゴッデムッ!!」」」


「世界最強は!?」


「「「ゴッデムッ!!」」」


「皆に愛されているのは!?」


「「「ゴッデムッ!!」」」


「感謝! ここにいる皆に感謝!!」


 両手を頭上で振る!


 猛牛も感動して鳴く!


「「「ゴッデムッ!!」」」


 落涙するゴッデ厶。


 いま彼は幸せの絶頂にあった。


「ありがとう! ありがとう!! ありがとう!!!」


「「「ゴッデムッ!!」」」


 彼らの感謝の雄叫びは永遠とも思われるほどに、おかしな世界に木霊したのであった。




 こ◯ま・ひ◯き師匠でしょうか?



 いいえ、ゴッデムです────




★★★




「なによこれ! ふざけてんじゃないわよ! 夢が荒唐無稽にしても、おかしいでしょーが!!」


 雉四郎は暗闇の中でカッと目を見開く!


「こんな変な世界はゴメンよ!! 今回はアタシが主人公なのよ!! だから、アタシが望む世界へ転移するのよ!!」


 暗闇の中、雉四郎は鳥なのにバタフライ泳法で混沌カオスの海を泳いで行ったのであーーった!!

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