「やはり、今季のアニメは例のネオペ(ネオページ)出身の作品が選ばれましたな〜。さてはて、今回は我らの審美眼に適うか否か…」
「ふむ。サトウ氏。安易なアニメ化による劣化作品が多い中、プロモを見た限りだと期待大ですぞ。原作遵守の神作画に興奮が今から止まりませんな」
「然り然り。しかし本当に観たいのは『ロマキャてへ☆(ロリロリ、魔法少女キャミーだ・よーん…てへ☆の略)』の第89期にござるよ」
「ヤマダ氏。それには激しく同意ですな。しかし異世界転生、ロボット化、悪役令嬢、百合萌と……いささか『ロマキャてへ☆』はやり尽くした感じもありますなぁ〜。あ! これはヘイトではない故、原作を愛するが故の辛口コメントですおすし」
「漏れもそう思っていた時期がありますた。原作小説も止まってしまった為、漫画は別路線になってしまいましたしな。あれは頂けない。ウンモモッターで我らファンが『更新マダー?』を連発する他ありませぬな」
「『ファンは不安よな。松田動きます』」
「ドゥフドゥフ♡ サトウ氏、似すぎてテラワロス!」
「あれですな、某作品126話の前半、ファンの期待を裏切る横暴監督に反旗を翻すアイドルたちの再現にござるな! オマージュ! クオリティ高スギィ!」
超日本経済を超回している超消費者(生産者にはなりえないニートであるが)たちが、楽しくお喋りをしながら横断歩道を渡ろうとした時であった!
ブォーンッ!! ブォッブォーーーンッ!!!
地響きのような超大音量のクラクション!
そしてそれが鳴ったかと同時に、巨大トラックが超消費者たちの横を爆速で走り抜けた!
超消費者たちは、そりゃびっくり仰天してその場に尻もちをつく。
しばし唖然としていた彼らだったが、次第に怒りが込み上げ、憤慨して猛然と抗議し始めた!
「な、なんて非常識な(小声)…!」
「危うく轢かれるところだったでござるぞ(小声)…!」
「まだ見終わってないアニメもあると言うのに(小声)…! ここでタヒんだらどう責任取ってくれると言うのか(小声)…!」
小声でボソボソと聞き取れない音量で怒り狂っていた彼らだったが、過ぎ去ったかと思われた件のトラックがすぐ近くに停止していたのを見て怪訝そうにする。
あれほどの勢いで走っていたのだから、そのまま排気ガスと共に過ぎ去りぬしてしまうかと思い、つい声を荒らげたのは失策であった(しつこいようだが小声である)。
ネットの上と、お母さんの前でしか強気になれないのに、今日はお友達と一緒にいたから、ついつい調子こいてしまったのであーーる!
もしかして、今の苦情(ちょい強め)を聞かれたんじゃなかろうかしら……と、心境は顔面は蒼白のドッキドキである。
ほんの数秒時を戻せれば……そんな彼らの祈りも虚しく、トラックの運転手側の窓が開いた。
「ゴラァ! 道のど真ん中でボヤボヤしてんじゃねぇよ! ッ轢きッ頃すぞッ!!」
激しく怒り狂って中指をおっ立てる運転手の顔を見やり、彼らはびっくらしこたま驚いた!
コワモテのオッサンだったら、すかさず投身土下座を試みる小心者たちであったのだが、そうならなかったのは運転手が若い女性だったからであーる!
彼らのネット上では孤高の論破王を名乗り、親の前では破壊神と呼ばれ、でも外にでたらフライドチキン……そんな米粒くらいのカス以下のプライドが、土下座を思いとどまらさせたのであーった!
「ゴラァー! 謝らんかーい!!」
それはガラの悪いヤンキー系の女である。
彼らな姑息な脳味噌は考える。こっちは3人もいる。仮に暴力沙汰になったとしても、なんとか対処できるであろう(希望的観測)。
それに大の男が、そう自分とは年端も変わらぬひとりの女性に、自分たちが非があるわけでもない、そんな理不尽な言いがかりをつけられて安々と折れてしまう……そんなことは、彼らの爪楊枝よりも細く脆いプライドが許さなかった。
いや、オブラートに包むのはよそう。
ただ単に、若い女に言い負かされるのが悔しかったのだ!!
それに相手は大型トラックの運転手だ。普通免許どころか原付免許も持っていない彼らからすれば、そういったよくわからん僻み感情マシマシだということも悪い方向に作用していたのであーーる!!
「あ、危ないでござろう! いくらなんでもスピードを出しすぎでござる!」
「いま拙者らが歩いてた信号は、歩行者側が青信号だったでござる!」
「そ、そうだそうだ! ど、道交法をそ、遵守したま…へ!」
「ハァ〜ァン!? あに言ってっかサッパリわかんねーんだよ! 喋るならハッキリ喋りやがれ! 聞こえねぇんだよ! 玉無し共が!!」
悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!
なかなか威勢のよいことを言っているようだったが、実は口の中でモゴモゴ言ってて何を言ってるかまったく伝わらなかったのだ!
「いいか! 童貞ども! 働いてない非納税者たる童貞に、超日本で存在する権利なんてねぇーんだよ!」
「な、なんだと。拙者らはちゃんと消費税を納めて…」
「テメェが汗水流した金じゃなくて、親の金だろうが!!」
ブォーンッ!!
低音の地響きのようなクラクションが鳴らされる。男たちはぐうの音も出ない。
「せ、拙者たちだって、働けるならば働きたい気持ちはなくはないと言いますか…」
「然り然り。しかし、賃金は安く、ブラック企業が多い今の社会。ここで働いたら負けと思われますな」
「そ、そうだ! 検討や国民の気持ちが解らないとかばかりで、私腹を肥やす上級国民や国会議員が、働きにくい社会を作り出したんでござる! いわば拙者らはその被害者! 救済できない今の政府が全部悪い! そこが改善されぬ限り、働く気は毛頭ないでござる!」
「サトウ氏! よく言った!」
「悲報! 漏れ氏、感動で画面がよく見えぬ!」
ブォッブォーーーンッ!!!
「黙れ! マ○かきと能書きだけはいっちょ前にかく蛆虫どもが!! そーいうことはな、自分がやるべきことをやってから言うんだよ!!」
「な、なに……」
ブォッブォーーーンッ!!!
反論しようとした声は、出端をクラクションで挫かれる。
「社会に対する不満を口にしたってなんも変わんねぇんだよ! 指先ひとつで楽に綺麗に楽しく稼げる仕事なんてあるもんか! 汗水たらして、大変な思いをして働くことを厭おってんじゃねぇ!! ネオペ小説(ネオページ小説)で書籍化して、あわよくばアニメ化までして、ゆくゆくは映画化して一発当ててやろうなんてそんなこと考えるんじゃねぇ!!」
そう。彼女は長距離ドライバーだ。
時間制限がある中、神経を張った長時間の運転をせねばならなく、しかもわずかにとれる仮眠もとても心身ともに完全にリラックスできるわけじゃない車内の中であり、道が空いている夜中や早朝に運転するので、昼夜逆転の生活を余儀なくされる。
加えて、トラックの荷台の積荷はほぼ自分で荷降ろしをし、すべてがフォークリフトで運べるわけじゃないので、真夏の炎天下、真冬の極寒の中、手作業で重い荷物をパレットに積み込むこともごく当たり前のようにあった。
ただ運転していればいい……そんなわけあるまい。とんでもない過酷な重労働なのである。
「ブラック企業が不満なら、テメェらが社長にでもなんでもなって、ホワイト企業量産してみろや! 社会をよくするってのはそーいうことなんだよ! それができないのなら、まずは労働者になって、下から突き上げて社会を変えるしかねぇだろ! 地道な草の根運動だよ! それすらやらねぇで、親に頼って、経済回しているフリして何様のつもりだァッ!! アアン!?」
言いたい放題に言われ、男たちは何も言えずに黙りこくる。
「とりあえず働け! 出会いを求めろ! 仕事はなんでもいい! 無職歴の長さを考えろ! 高待遇、高賃金なんて選べる立場か! それに空から飛○石持った女の子が降ってきたり、突然押しかけてお前をヒーローにしてくれる女子校生なんていねぇんだよ! 出逢いの基本は職場だ! そして他人に注文つけるまえに直向きに努力して、その姿を見せつけてやれ! お前のそんな魅力に気付く女性がいたら、くだらねぇ選り好みしてねぇで、とりあえず仲良くしろ! そんでもってママ以外の女抱いてみろや! 話はそれからだ! そこがテメェらのスタートラインなんだよ!」
なんで通りすがりの運転手にそんなことを言われなきゃならないのかと3人は思ったが、彼らは図星を突かれて酷く傷ついた。
傷ついたということは、その言葉になんかしらの正しい指摘があり、無意識のうちに認めてしまっている何かがあったからに他ならない。
彼らは親兄弟、ましてやお友達たるネット住民たちの忠告すら聞かない筋金入のニートだ。
小学生以来、彼らは誰かに怒られるという経験がなかった。もちろん怒られて楽しいと思う人は少ない。嫌な経験がトラウマになってしまうこともあるだろう。
しかし、自分で目をそらしていた出来事に気付かさせてくれるのはいつも他人の言葉だ。
内省ができない者は、そこで立ち止まって他人の言葉に一度でいいから耳を傾けるべきである。
そのすべてが正しいとは言わない。だが、そこから汲み取れることもきっとあるだろう。
それが、きっと成長なのだ。
「わかったか!? わかったら返事しろ! 負け犬のままで終わるんじゃねぇよ!」
「「「は、はい」」」
「バカヤロウ! 返事は『サーイエッサー』だ!」
「「「サーイエッサー」」」
「声が小さい!!」
「「「サーイエッサー!」」」
「よーし。それならがんばれよ。アタシのトラックの荷台を見ろ!」
運転手が親指をクイッとさせて後方を示す。
トラックはいわゆるデコトラというやつで、荷台の側面には『男尊女尊』と書かれてあった!
「いいか。アタシはアンタらを決してディスったわけじゃない。男を立てるからこそ厳しいことを言ったんだ。これは愛のムチウチというヤツだ」
厳しく言ったあとにはフォローを入れる。極悪人が捨て猫を拾う時のようないわゆるギャップ萌……ましてやお母さんしか異性を知らぬ3人はその優しさにまんまと丸め込まれてしまった。
「あ、あなたのお名前は…」
「アタシかい? アタシはキジ姐と呼ばれている女ドライバーだよ!」
ビッビー! ビッビー!!
「じゃあかしゃあ!! どくよ! どきゃいいんだろ!!」
信号が青なのにもかかわらず、道のど真ん中を塞いでいた為、けたたましいクラクション音が鳴り響くが、キジ姐は後方に中指をおっ立ててそのまま走り去って行った。
残された3人はその場で呆然と立ち尽くす。
そして、互いの顔を見合わせた。
「……とりあえず」
「……職安に」
「……求人広告を見に」
「「「行くか!」」」
腐って3週間くらいした魚のような淀みきった眼をしていた3人だったが、まるで生まれ変わったかのような輝いた眼で顔をキリリと上げた!
さてはて、こんないい話ならば、きっと無事に就職したかと思うだろうが、三つ子の魂百までとはよく言ったもので、結局初っ端の面接でコケ、そのまま元の生活に戻ったのでなんも変わりはなかったのであーーった!!
畜生!
まさに畜生!!
まさしく畜生なのであーーる!!!
さて、なにがどうなっているかわからない読者もいることだろうが、このままの勢いで次回につづーーくぅ!!!
それでは、キジ姐と共に次話へ爆進ーー☆!