さて、雉四郎による軽率な行為、つまり世界転移装置の破壊により、世界はおかしく奇妙奇天烈な改変がなされてしまったところで、前回終わってしまったわけであーった!
現在、超地球にはゾンビビスに溢れ、性府機関は性的機能不全に陥り、某世紀末物語のごとく、モヒカンどもが改造バイクで走り回る、そら生きずれー荒廃しきったものと相成ったのであーる!
そんな中、彼らこと、畜生どもがどこにいるかと言うと──
それは、『月』だ!
『THE・MOON』であーる!!
月の一番高い標高5,500メートルのホイヘンス山の上で、柴犬が二本足で仁王立ちになり、青く見える超地球に向かって鉄球を振り回している姿があった!
2つの鉄球は互いに相反する方向へ、亜光速を超えて、超地球上を彗星のように飛び回っていた!!
これは何をしているのか?
簡単な話だ!
大魔神の陰嚢玉で、その……あれをして、これが、ほら、あれ、あれが……そうなって、こうなるから──ええっと、とにかく! 陰嚢玉を振り回すことで、超地球が崩壊することを防いでいたのであーーる!!
「Mr.Inujiro!(犬次郎くん!)」
流暢な英語で呼ぶ声があり、鉄球を振り回すので忙しい犬次郎が声のした方を向く。
「ん? なんだ。イー〇ンか」
スラリとしたイケメソが、にこやかに歩み寄ってきて、犬次郎とガッチリと握手する。
「貴様が月に連れてきてくれて助かった。礼を言う」
「No problem at all(全然問題ないよ)」
そう! 犬次郎は、かの超有名企業家に助けを求め、スペース〇の助けを借り、この月まで送り届けて貰ったわけである!
「I'm counting on you. You're the man for the job!(期待している。君はやる男さ!)」
イー〇ンは犬次郎の肩を軽く叩くと、親指を立てて去って行く。
「……爽やかで、実に感じのいい男だ」
いつもブチギレていた犬次郎が、珍しくも高評価する。
「……さて、それよりも」
犬次郎は冷たい眼をして、後ろを向く。
そこには、猿三郎、雉四郎。そしてその後ろにはゴリッポ、ベンザー、ドドリアーン、ザボボンといった畜生の面々、畜生シリーズ・オールスターズが勢揃いしていたが、全員が土下座をして、神妙な顔をしていた。
「貴様ら……。クズカスどもが。いい加減にしろよ」
犬次郎の眉間と鼻頭周辺に、グワッとシワが寄る。
「わ、ワシだって一生懸命だったんじゃ!」
「そ、そうよ! アタシだって、それなりによくしようと…」
言い訳をしようとする猿三郎と雉四郎だったが、犬次郎の鋭い牙を見て押し黙る。
「猿三郎。一生懸命やった結果が、ソイツらとの下ネタの連発なのか?」
「⋯むっ」
猿三郎は俯き、ゴリッポとベンザーはさらに縮こまる。
「雉四郎。それなりによくしようとした結果が、世界の大崩壊なのか?」
「…くッ」
雉四郎は唇(クチバシ?)を噛み、ドドリアーン、ザボボンがさめざめと泣く。
「俺のストーリー(犬次郎編)だけなら、書籍化、アニメ化、ハリ〇ッド映画化間違いなしだったのに……貴様らのせいで全てが台無しだ」
「ちょ! 待てや! オメェの話も大概やったろがい!」
「そうよ! 無実な町人だって、理不尽に虐●してたじゃないの!」
「黙れ。全員ちゃんと復活させただろう。それにあの後、あの町では犬族をペットとして飼うことはなくなり、“お犬様にご奉仕させて頂く”ようになったらしいじゃないか。犬族の権利向上のためにも必要な行為だったのだ」
どこまでも自分の行為を正当化する犬次郎に、猿三郎も雉四郎も鼻水をくったらかせる。
「でもでもでも!」
「だってだってだって!」
「黙れ!!」
「グアーッ!」「キャーッ!」
柴犬の怒気に当てられ、猿三郎と雉四郎は後ろ向きに吹っ飛ぶ!
「……しかし、だ。過ぎたものを言っても仕方ない。今は俺の大嫌いな飼い主がなんとかしているが……」
犬次郎はチラリと超地球の方を見やる。
実は超地球の下では、ギリシア神話に登場する巨人アトラースのごとく、超和菓子職人ことマーマーレードじいさんが超巨大化して支えている姿があったのだ。
そう! 押さえてないと、某ギャグ漫画のごとく超地球がパッカーンと真っ二つに割れちまうからだ!
まさに超地球の命運は、独りの超和菓子職人の腕によって文字通り支えられていたのであーる!
「そろそろアンコの補給の時間だ。そう長くは持たないだろう」
体力とかの限界じゃなく、マーマーレードじいさんの身体はアンコを練れないという禁断症状により小刻みに震え、それによって超地球にも振動が伝わり、地表のモヒカンたちが右往左往しているのがなんとなしに見えた(こっから見えるわけねー!)。
「なんとか手を打たねばならんな」
犬次郎はそう言うと、畜生どもに向き直る。
「その為には、この『大魔神の陰嚢玉』の“真の力”を使う他あるまい」
「真の…」「力…」
畜生たちは驚いた顔を浮かべる。
「そうだ。この武器は、1つだけなんでも願いを叶えてくれるという力がある」
「そ、そんな今取ってつけたような設定が……」
余計なことを言いそうになった猿三郎に向かい、犬次郎は地面をドンッ! と、踏み鳴らせて牽制する。
「とにかくだ。この2つの大魔神の陰嚢があれば、どんな願いでも叶うんだ」
「「「「「「それ、ドラ〇ンボールじゃーん!」」」」」」
畜生一同から総ツッコミが入る。
「なに? これは“竜”じゃない。“大魔神”の玉なんだぞ?」
「そういうことじゃないわよ! でも、それなら7つ必要になるでしょーが!」
「7つも要らん。男には2つあれば充分だ」
イケメソ柴犬の玉袋を想像し、雉四郎、ドドリアーン、ザボボンがポッと頬を赤らめる。
「だから! そういう話じゃないわーいッ!」
「チッ。いちいちウルサイ連中だ」
犬次郎はここにいる全員を鉄球で始末したい気分になった。
「で、でも、犬次郎」
鉄球制裁を警戒しつつ、雉四郎がおずおずと挙手(挙翼?)する。
「なんだ? 殴られたいのか?」
「イヤよ! 違うわよ!」
「ならなんだ?」
「願いをなんでも叶えられるって……それを知っていたのに、犬次郎は今の今まで使わなかったの?」
「……ん?」
犬次郎は少し考える。
なんでも願いが叶う……それなら、たぶん迷わずに最高級のドックフードを頼んだはずだ。それも速攻でだろう。
もしくは、ここ最近なら、飼い主(超和菓子職人)をブチ頃して、無限に餌をくれる新しい飼い主を求めてもいいかもしれない。
「ッ! で、でも、いいのよ! 別にそれは大した話じゃ……ちょっと不思議に思っただけで…」
犬次郎が考え込んでいるのを、怒りを溜め込んでいると勘違いした雉四郎は慌てて言い訳する。
「……いや、7つにしよう」
「「は?」」
犬次郎がそう言うのに、猿三郎と雉四郎は首を傾げた。
「願いを叶えるのは7つ必要だ!」
「「「「「「ええーー?!」」」」」」
畜生一同から、びっくら仰天の声が上がる!
「いや、さっき自分で2つでいいと言ったじゃろうが!」
「うるさい。事情が変わったんだ。7つだ。7つ必要だ」
「いや、設定がコロコロ変わるのは読者が望む展開じゃない気が…」
余計なことを言いそうになった雉四郎に向かい、犬次郎はドドンッ! と、地面を踏み鳴らせて牽制する。
「……次、つまらん話をしたヤツは問答無用で殴るぞ」
「ガルルルルッ!」と低い唸り声を上げている最強柴犬に逆らえる畜生はここにはいなかった。
なにやら、超地球の方から「アンコ練らせろ〜」とか言う声が響いている。
「な、なんか言うとるぞ」
「俺には聞こえん。ここから超地球までどれだけ距離があると思ってるんだ。そもそも真空空間なんだから、声なんて聞こえるわけがないだろう」
なら、なんで我々は大気のないはずの月で呼吸ができるのだと畜生たちは思ったが、そんなことを言ったらマーマーレードじいさんが超巨大化してるのや、宇宙空間でどうやって超地球を支えてんねん……なんて問題が浮上してきてしまうので、そこら辺は「まあ、そんなもんなんだ」と思ってくれればいい。
つまり、畜生の物語に科学なんて不要なのだ。
再び、「アンコを練らせろ〜」という声がして、超地球の振動も若干強まった気がする。
「い、犬次郎よ…」
「チッ!」
犬次郎は飼い主の方を見て強く舌打ちする。
「とにかく、時間がない。さっさと用意しろ」
「よ、用意しろって言われても……陰嚢玉なんて…」
雉四郎が困った顔をするのに、猿三郎はハッとする。
「まず、いま犬次郎のヤツが振り回しちょる大魔神の玉袋が2つ……」
超日本猿でも、指の本数を合わせた10以下の数ならなんとか数えられた。
「ええと、犬次郎の“自前”の玉袋で2つ……これで4つ」
イケメソ柴犬の玉袋と聞いて、雉四郎、ドドリアーン、ザボボンがポッと頬を赤らめる。
「そして、ワシの玉袋2つ……これで、えーと、ひい、ふう…みー、あー、うーん…と、6つか!」
超日本猿の玉袋と聞いて、雉四郎、ドドリアーン、ザボボンが焼き鳥になった顔をする。
「6つか。足りんな」
「任せてくれだぜ!」「玉袋ならワシたちも持っちょるぺ!」
ゴリッポとベンザーが、やっと活躍の場が与えられたと意気揚々と立ち上がった。
「待てぃ! それはできん!」
猿三郎が、まったく無意味な名探偵ポーズを取る。いわゆるディスコ・ポーズというヤツだ。
「できん? なぜだ三郎?」「そうだっぺ! 理由を言ってみい! 言うてみいよ!」
「簡単な話じゃい! この特別なキャン玉袋は、犬次郎か、ワシでないと扱えんシロモノ! つまりは主役級か、もしくはワシみたいな準主役級でないといかんのじゃい!!」
猿三郎がそう言うと、ゴリッポもベンザーも「はぁ?」という顔を浮かべた。
「勝手なルールを付け加えるな」
「え? ウンバァッ!」
犬次郎の強烈なビンタを喰らって、猿三郎は宙に舞い、そのままの勢いでトリプルアクセルを決めつつ、頭からクレーターに突っ込んだ!
「……まあ、しかしそうだな。そこら辺の奴らじゃできないのも事実だ。主役級の陰嚢玉が欲しいところだな」
鼻血を滴らせつつ、ヨロヨロと地面から這い出してきた猿三郎は(え? なら、なぜいま殴ったの?)と思いはしたが、また殴られたくはなかったので黙っていた。
「えー、とりあえず、犬次郎と猿三郎のタマタマを合わせて…」
「タマタマとか言うな」
犬次郎は不快そうにする。
「4の5、6……6個よ! 1個足んないわ!」
指(羽?)で勘定していた雉四郎が叫ぶ!
「しかし、他に主役級と言えば……」
犬次郎の言葉に、自然と全員の視線が雉四郎にと集まる。
「あ、アタシは雌よ! 玉袋なんて標準装備でないんですけどォォォッ!!」
「いや、持ってるじゃないか」
「は? 持ってるって……」
「世界を崩壊させても、平然と生きていられる面の皮の厚さ。それだけ度胸が据わっている鳥類もそうはいない」
「い、犬次郎……それって」
「まさかじゃけぇ……?」
「そうだ。“肝っ玉”がある」
雉四郎は衝撃を受ける。
いや、それなら、最初から玉袋じゃなくてもいいんじゃねぇの? と、誰もがそう思った。
しかし、もう考えても無駄だ。
主役の犬次郎がそう言うんだから、そうなんだ。
畜生たちは考えるのを止めた。
「決まったな。さあ、力をパゥアーに集めろ!」
犬次郎の合図で、願いを叶える陰嚢玉が輝き始める!
振り回している大魔神の陰嚢玉、犬次郎の陰嚢玉、猿三郎の陰嚢玉……そして、雉四郎の肝っ玉が黄金に輝き始める!!
「よし! これで願いが叶うぞ! 俺たち畜生の願いはひとつ! それは……」
「金じゃぁッ!」「男よぉッ!」「オ〇ホだ!」「エロ本だっぺ!」「世界一周旅行ザンス!」「タワマンなのね!」
それぞれ畜生たちが己の欲望を吐き出すのに、飛び上がった犬次郎は、胴回し回転蹴りで馬鹿どもを一掃する!
スタッと華麗に着地を決めた犬次郎は大きく息を吸い込み──
「俺が望むのは、新しい畜生の世界だ!!!」
犬次郎が願いを言う!
それに呼応するかのように、7つの玉の光は強くなり、それは全宇宙を呑み込んでいった──
そう。これで畜生たちは終わりではない──
新たな世界が形作られ、そこに向かい畜生たちは旅立つ──
これこそが、本当の『畜生転移』──
物語はまだ始まったばかりなのだ──
──A new realm has been unlocked.
(新世界への扉が解放された)
──Prepare yourself... Are you ready?
(その身に刻め…その覚悟はできているか?)
『SHIN CHIKUSHO SHIFT』
(シン・畜生転移)
──They will be back before you know it !!!
(近日中に、彼らは再び戻って来る!!!)