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第30話 間借りの天使

 ふわふわの金髪。

 クルクルの睫毛。

 翡翠に輝く、うるうるのお目目。

 透き通るような白い肌。

 薔薇色の頬。

 毛穴レスなツルスベ肌。

 華やかなのに可憐な、とんでもない美少女。

 アニメを越えた美少女。

 まさしく天使。

 羽は生えてないし、輪っかの代わりにミニ地蔵様を頭にのせているけれど。

 まごうことなき天使級美少女。


 なのに、なんで?

 なんで、わたしとおソロのセーラー服を着てるの?

 やめて?

 引き立て役なんて必要のない極上クラスの美少女でしょ?

 やめて?


「ふふ。ずっと一緒にいたのに、こうして、面と向かってお話をするのは、これが初めてですね」

「……………………え?」


 ずっと一緒に?

 いつから?

 もしかして、地球にいた頃から?

 つまり?

 うちの高校の制服を着ているってことは、この子はうちの高校の留学生?

 不慮の事故か何かでお亡くなりになって、浮遊霊になって、なぜかわたしに憑りついていたってこと?

 え? こわ!

 ……………………いや、待って?

 じゃあ、なんで?

 なんで、ミニ地蔵様を頭に乗せてるの?

 はっ!? まさか、ミニ地蔵様が悪霊化するのを抑えてくれているとか!?


「その……不可抗力? とはいえ、勝手にあなたの中に間借り? ヤドカリ? 寄生? することになってしまって、ごめんなさい。どうして、こうなってしまったのかは、わたくしにも分からないの。気づいたら、あなたの……星灯愛すてらの中にいたの」


 天使な美少女は、綺麗にお辞儀をした。

 わたしは、言葉を返すことが出来なかった。

 さっきまで、留学生の浮遊霊に憑りつかれたのかと思ってガクブルしてたのに、今は。

 むしろ、そうであって欲しいと思っている。


 とある閃きが、電撃のように脳天を貫いたからだ。


 美少女のイメージカラーは白だった。

 凛と立つ白百合でも華麗な白薔薇でもなく、白く仄かに輝く小さな花で作った大きな花束っていうか可憐にして豪奢なブーケっていうか、なんかそんな感じ。

 流暢な日本語。

 間借りでヤドカリで寄生。

 一人称「わたくし」。

 ねえ? もしかして、この子ってさ?


「ずっと、夢を見ていました。夢の中で、わたくしは、一庶民としての生活を体験させていただきました。星灯愛、あなたの目を通してみる世界は、新鮮な驚きに満ち溢れていて、とても楽しかった」


 ああ。やっぱり、やっぱりぃ。

 わたしが、夢でこの子の過去を見ていたように、この子は夢で、わたしの日常を体験していたんだ。

 し、知りたくなかった!?

 てゆーか、どの程度?

 まるっと追体験なの? それとも断片的に?

 一から十まで問い質した気持ちと、聞かなかったことにしたい気持ちがせめぎ合う。

 ねえ? あなたは、どこまでわたしのことを知っているの?

 わたしが、あなたの過去夢を前世だと勘違いしてたことまで知ってるの?

 だとしたら、恥ずかしすぎるんですが!?

 いっそもう、このまま昇天したいんですが!?

 今にも気を失いそうなわたしの前で、天使はもう一度お辞儀をした。

 お姫様っぽくはない。

 日本人っぽいお辞儀だ。

 礼儀作法を弁えている、日本のお嬢様的なお辞儀だ。

 前世だと思い込んでいた夢で見たあの子よりも、どことなく日本人らしさを感じるのは、わたしの中で睡眠学習していたから?

 どのくらい、学習しちゃってたの?


「巻き込んでしまって、ごめんなさい。あなたが、地球のすべてを捨てなければならない状況に追い込まれたのは、わたくしが星灯愛に間借りしてしまったせいだわ」

「え? いや、えっと。わ、わざとじゃないみたいだし、き、気にしないで?」

「…………ありがとう、星灯愛。ふふ、知っていましたけれど、あなたは優しい人ですね」

「ふ、ふわっ!?」


 黒夢事情がどこまで筒抜けなのか問題に囚われていたらガチの謝罪をされてしまった。

 悪意でしたことなら、わたしだってさすがに怒るけど、そういう感じじゃなさそうというか、この子も何が何だか分からないままに巻き込まれた被害者っぽい感じがしたから、気にしなくてもいいよって伝えたら、天使の笑みと共になんか褒められてガチ動揺。

 いろんな意味で動揺。

 知ってますよ、みたいなお見通し感に動揺。

 白い星の花束がほわっと光り輝いたみたいな笑みに動揺。

 これ、反則じゃない?

 全米どころじゃないよ?

 全人類が落とされちゃう笑みだよ?


「こうして、あなたに会えて、お話が出来て、よかった。でも、もう、時間みたいですね。あ、大事なことを伝え忘れていたわ。わたくしは、レイシア。古い星の言葉で、星の……」


 肝心なところが音になる直前で、重力が戻って来た。

 肉と骨の重みを感じる。

 わたしは、デカ絨毯の上で仰向けに寝転がっているみたいだった。

 青空が見える。

 星の天使が消えて、代わりに。

 青空と、太陽の女神が見える。

 小麦色の肌。燃えるような赤毛のゆるフワサイドテール。


「どうだった? 疲れが取れて、スッキリしてない?」

「……………………ルーシア」


 ルーシアが鍵の力で引き上げてくれたんだろう。

 骨浴タイムは無事終わったようだ。

 とりあえず、身を起こす。


「…………あ、ホントだ。お風呂上がりみたいな爽快感。毛穴までスッキリって感じ」

「でしょー?」


 ルーシアは快活に笑いながら、天浴衣絨毯の紐を解いていく。

 されるがままになりながら、自分の体を見下ろす。

 絨毯の下に着ているのは、見慣れたセーラー服。

 ちゃんと手も足もある。

 幽体から生身を取り戻したばかりの時は、肉と骨の重みを感じたけれど、馴染んでしまえば体はむしろ軽かった。

 コリとか疲れが吹き飛んでいる。

 炭酸系入浴剤よりも、ずっとずっと効果が高い。

 これは、安全さえ確保されているのなら、病みつきになる人が現れるのも頷ける。

 肉体的には、ものすごくリフレッシュ&デトックス。


 だけど、精神的にはどうなんだろう?


 え? あれ? 何? どういうこと?

 夢…………見てたわけじゃないんだよね?


 わたしが、さっき会ったあの子は、誰?

 いや、レイシアさんだってことは、名乗ってもらったから分かってるよ?

 そういうことじゃなくて。


 わたしの中に宿っているのは、推定この星の王女様の鍵の力なんだよね?

 でもって、その鍵の色は白なんだよね?

 えっと、つまり?


 鍵の力には、持ち主の人格が宿っているってこと?


 …………いや、違う。

 そこじゃない。

 最大の問題は、そこじゃない。


 レイジンは、失われた白い鍵を追い求めていた。

 でもって、その鍵の持ち主は、持ち主は…………。


 反則級の天使級美少女ってことだよね?

 おまけに、なんか性格も悪くなさそうだった。

 鍵の本来の持ち主が、あんな人智を越えた美少女で中身もいい子だって分かったら、レイジンは、レイジンは…………。

 ヤバい。

 ヤバいよ!

 これは、紛れもなく。


 ――――――――恋の大ピンチ!


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