もふもふは、何時如何なる時も癒しだ。
たとえそれが、わたしの腰のあたりまであるでっかいネズミのもふもふだとしても。
四つ足じゃない。
立って歩くんだよ?
言葉は通じないけれど、レイジンたちは、何となく意思の疎通が出来るみたいだった。
チュウチュウ語と人間語で、やり取りをしている。
『ま。何となくだけどねー☆』
って、ルーシアが言ってたから、何となくなんだろう。
たぶん、ペットと飼い主くらいの意思疎通なんじゃないかな?
えー、さて。
わたしは、今。
浜にいます。
こっちでは『天チュウ』って呼ばれているネズミさんたちの住処にお邪魔しています。
そして、わたしは、ルーシアと浜でお留守番です。
何故、そうなったのかというと……。
まあ、順を追って話そうか?
あの後。
骨浴の後。
天浴用絨毯を脱ぎ終わったところで、レイジンとエイリンの二人が帰ってきたんだよね。
レイジンは、目敏く脱いだばかりの絨毯に気づいた。
そして、なんかすっごい盛り上がって、声を弾ませた。
「ステラ! 天浴をするのか?」
「え? いや! あの! するっていうか、もうしちゃったっていうか……!」
「え? 俺のいない間に? なぜ?」
なんだか嬉しそうなレイジンに真実を告げると、レイジンはあからさまにショックを受け、大きく目を見開いて固まった。
え? それ、そんなにショックを受けるとこ?
そ、それって、もしかして、わたしの骨姿を見たかったってこと?
そーゆうこと?
え? それは、嬉しいけど、ちょっとまだ、恥ずかしいっていうか。
レイジンが、わたしのプロポーズを正式に受けてくれたのなら、もちろん前向きに考えてみるけど!
ともあれ、わたしは思わぬレイジンの反応に慌てて、あたふたと言い訳……じゃない、理由を説明した。
「え? いや、その、だって! お、男の人に、骨姿を見られちゃうとか、恥ずかしいしっ!」
「……………………そういう、ものなの、か?」
すると、レイジンは目を丸くした。
青のような紺のような紫のような、不思議な色合いの瞳。
吸い込まれそうというか、いっそ吸い込まれて囚われてしまいたい。
まあ、ある意味、もうすでに囚われちゃってるんだけどね。
で、それから、レイジンは不思議そうに首を傾げた。
緩い三つ編みで一まとめにした長い銀髪が、レイジンの胸の前を滑り落ちる。三つ編みは、左の肩から胸の前に流されていたのだ。三つ編みは濃紺の紐で素っ気なく結わえられている。
ん、んん。怜悧な印象の美貌のせいで、黙っているとすごくクールに見えるけど、意外と表情は豊かなんだよね。レイジンって。
垣間見る度、胸がキュンキュンする。
それを見ることが出来るのは、わたしだけ――――とかいうの、最高に憧れるんだけど。
普通にルーシアやエイリンの前でも披露しているし、たぶんその他の星導女子も見たことあるんだろうなー……。
見とれつつ思考を横道に反らしていると、ルーシアがフォローを入れてきた。
「レイジン。それが、乙女の恥じらいというものよ」
「乙女の恥じらい……」
あ、よかった。
レイジンが、めっちゃショックを受けてるから、ちょっと不安になってたんだよね。
でも、骨姿を恥じらう感性は、こっちでも普通のことみたいだね。
そういえば、レイジンがいない間に骨浴したいって申し出た時も、ルーシアは「どうして?」なんて聞かなかったもんね。うんうん。
でも、レイジンは何か微妙に納得がいかないらしく、物申したげにルーシアに視線を投げかけている。見つめているというよりは、投げかけている。こう、質問ごと。
「失礼ね! 言っておくけど、星導女子が特別にあけすけなわけじゃないわよ! 星導女子にだって、恥じらいはあります! 初めての天浴は、私だって、女子だけでやったわよ! でも!
「分かった。悪かった。個人の恥じらいよりも任務の効率を重視するその姿勢を俺も尊重する。だから、もう、その辺で…………」
言葉にしないレイジンの疑問を察したルーシアは、ガッと眦を吊り上げた。
腰に手を当てて、猛然とまくし立てる。
レイジンは、タジタジだった。
そして、わたしは、今さらのようにショックを受けていた。
だって、今の話からするとだよ?
レイジンとルーシアは、お互いの骨姿を見せ合ったことがあるってことじゃない?
ついでのおまけに、エイリンもじゃない?
だって、三人はチームで
その間に骨浴をしていたとしたら……。
ルーシアとエイリンは、もしかしたら女同士で骨になりあったかもしれない。
でも、レイジンの時は?
骨浴は、一人じゃできない。
引き上げ役の鍵使いが、必ず一人は必要になる。
つまり、星導女子二人の内、少なくともどちらか一人は、レイジンの骨姿を見たことがあるってことだ。
なにそれ、羨ましい。
骨姿を見られるのは恥ずかしいけど、レイジンの骨姿は見てみたい。
でも、一度恥じらってみせた手前、殿方の骨姿を見てみたいなんて破廉恥な事、とてもじゃないけど、言えないよ!
なーんて、ジダモダしていたら、薄茶の小生意気がスーッと隣にやって来て、ポソッと囁きを落としやがった。
「ちなみに、レイジンが残念がっていたのは、別にあなたの骨姿を見たかったからじゃありません。レイジンは、天浴推進派なんです。だから、天浴を勧めた自分を差し置いて、他の誰かに天浴をさせてもらったことにショックを受けていたのです。あなた自身が特別なんじゃありません。その辺を、勘違いしないように。ちなみに、ここにいる三人は、それぞれお互いの骨姿を見たことがあります」
言いたいことだけ言うと、薄茶のチリチリツインテールは、スイッと離れていった。
く、釘を刺したうえに、自慢まで!
う、うう!
わたしも、仲間に入りたい!
でも、破廉恥な女子だと思われたくない!
新たに湧き上がって来た問題に頭を悩ませていたら、星導師三人はパトロールの結果も踏まえて今後の方針を話し合うってことで、わたしは絨毯部屋の中へ放り込まれた。
まあ、その話し合いの結果、浜行きが決定したわけで。
要約してしまえば、それで終わる話なんだけど、もう少し回想に付き合って欲しい。
浜行き決定には何の関係もないけれど。
でも、乙女的には重要案件。
絨毯部屋で一人考え巡らせたことを振り返って。
乙女心を整理したい。