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第33話 天のネズミは宇宙に詳しい

 わたしが、恋の悩みにモヤモヤ&モダモダしている間に。

 星導師たちは浜行きを決定し、そして、なんと。

 浜に到着していた。


 いや…………。


 決定した後、その決定を伝えてに来てくれたみたいなんだけど。

 その時、わたしは――――。

 卵を抱えて、卵に向かって、なんかブツブツ喋りかけてたんだって。

 邪魔したらいけないと思って、そっとしておいた――――って、ルーシアに言われた。


 …………ふっ。

 表面上は、ぎこちない平静さを保っていた(はずだ)けど、内心では頭を抱えまくったね。

 うーん、もうっ!

 気まずいっ! 恥ずい!

 そして、何より、もったいない!


 浜への移動中は、周囲に注意を払いつつも、ちょこっと雑談するくらいの余裕はあったみたいなんだよ。

 一人を見張り役にして、残りは他の雑用をこなしたり、一休みしたりする余裕はあったらしいのよ。

 でもって、その時。

 レイジンは、わたしに骨浴の感想を聞きたそうにしていたって、ルーシアが教えてくれてっ。

 もう、本当に、わたしのばかっ!

 せっかく、レイジンがわたし(の骨浴)に興味を持ってくれたのに!

 誓ったばかりの好感度アップ大作戦を実行に移すチャンスだったのに!

 自らふいにしちゃうとか!

 血の涙が出そうっ!


 残念ながら、わたしがモヤモダから脱却できたのは、浜についてからだった。

 浜と言っても砂浜じゃない。

 土浜だ。

 草浜のところもある。

 あまり背の高い雑草じゃなくて、芝生みたいな草浜。

 草浜の中には、花浜になっているところもあった。

 白とか黄色の名もなき花って感じの小花が集まってるところがあるのよ。

 天の海きょむには、波がないみたいだから、そういうのも関係しているのかな?

 よく分かんないけど。

 でもって、浜の向こうには、そんなには高くない崖があった。

 崖の上は、森っぽい。

 そして、崖の壁には、おっきなお口がアーンしていた。

 洞窟ってヤツだ。

 その洞窟の中が、天チュウさんたちのお住まいだった。


 ルーシアに肩をガクガクされて我に返ったわたしは、ルーシアに促されるままに絨毯部屋の外へ出た。

 外に出たら、そこはもう浜で。

 天チュウさんたちが、ずらっとお出迎えしてくれていた。


 可愛さにノックアウトされた。

 ノックアウト……ノックダウン?

 ん、どっていでもいいや。

 まあ、とにかく何か、そういう感じにやられちゃった感じ。


 某夢の国のネズミとは違う、リアル寄りのネズミ。

 でも、二足歩行。

 普通のネズミよりは大きいけど、人間よりは小さい。

 わたしの腰の辺り。お子様サイズ。

 つぶらな瞳で見上げて来るんだよ。

 白いの。茶色いの。黒いの。グレーの。混じったの。

 いろんな色のもふ毛がある。

 みんな違って、みんないい。

 毛並みはツヤツヤでお手入れバッチリ。

 たぶん、骨浴で清めているんだろう。

 木の実とか葉っぱとか花とかで作ったアクセサリーでおめかしもしている。

 みんな、手をわちゃわちゃしながら、「チュウチュウ」話しかけてくるんだよ。

 すごい、人懐っこい。

 ものすごい歓迎されてる感じ。

 というか、ルーシアたちとは顔なじみっぽいし、関係も良好っぽい。

 ルーシアたちは人間語で普通に話しかけている。

 天チュウたちは、ルーシア御一行の連れであるわたしにも友好的だった。

 なんか「チュウチュウ」ご挨拶をしてくれているみたいなので、わたしも人間語で自己紹介をしてご挨拶を返しておきました。

 うっかり語尾に「チュウ」をつけるところだったけれど、誰もやってないので、思いとどまっておいた。

 みんなもやってるなら乗っかるところだけれど。

 一人で先陣を切るのは、ちょっと恥ずかしい。


 浜に出て来た天チュウたちは、ちゃんと数えたわけじゃないけど、30匹……匹でいいのかな? ん、まあ、30ごにょごにょは、いるみたいだった。

 洞窟の中から、チラチラ顔だけ見せてる子もいるので、実際には、もっといるんだろうな。

 天チュウたちは、遠い昔に他所の星界からやって来た種族らしく、一応お仲間ということになるわたしに興味津々で、割と好意的だった。

 なんか、次から次へとご挨拶に来てくれるんだよ。

 わたしの他にも、この星界で暮らしている異星界人がいることには勇気づけられたけれど、すぐに「あれ?」ってなった。

 もしかして、異星界人だから、こんな辺境に追いやられてる?――――って、ちょっと心がヒュッなったけど、そうじゃなかった。

 ある意味、滅びの象徴でもある天の海きょむだけど、でも。

 彼らは、その天の海きょむを通じて、この星界にやって来た。

 だから、故郷と繋がるこの場所で暮らすことを、彼ら自身が望んだのだそうだ。

 あと、なんか普通にこっちの星界の絨毯文明よりも天の海きょむとの共存生活の方が肌っていうか毛並みにあったらしい。

 天の海きょむ近くの浜で暮らしているから天チュウって呼ばれてるのかと思ってたけど、それだけじゃなくて。

 天の海きょむ知識が豊富なんだそうだ。

 なんかね?

 揺らぎが起きそうな場所も、なんとなく毛並みで感じられるんだって。

 地球へ繋がる揺らぎの場所も、天チュウさんが大雑把な場所を探り当ててくれたんだって。

 今朝は、昨日立て続けに大きな揺らぎが発生したから、念のため周辺のパトロールを念入りに行ったけれど、とりあえず落ち着いているみたいだし、だったら浜に戻って天チュウに天の海きょむ予報を聞いて対応を決めようってことになったんだって。

 天チュウは、天気予報みたいに揺らぎ予報が出来るらしい。

 天チュウさんがいるおかげで、少人数でも広い天の海きょむでの迅速にして的確な揺らぎ対応が出来るんだそうだ。

 天チュウは、可愛いだけじゃなくて、すごいネズミさんなのだ。


 まあ、そんなわけで。


 天チュウから身振り手振り付きのチュウチュウ語で「危ないそうだから気をつけて見て回った方がようさそうな場所」情報を聞き出したレイジンとエイリンは、小型絨毯でさっそく宇宙へ旅立っていきましたとさ。

 お昼には戻って来るって言ってたけど、午後はまた宇宙でお仕事かもしれない。

 お昼の時間も、報告とか話し合いとかあれば、星導師じゃないわたしは蚊帳の外。


 恋のタイムリミットまで、あと数日あるはずだった。

 それだって、短すぎて、焦っちゃうのに。

 実際に、好感度上げに仕える時間は、きっともっと少ない。


 だからこそ、本当にものすごく悔しい。

 デカ絨毯で浜移動中の時間を逃してしまったことが、ほんっとうに悔やまれる。


 逃した得物(時間)は、デカかった!


 でも、負けない! 諦めない!

 レイジンがいない間に、短い時間でわたしを印象付けて好感度を上げる方法を考えるんだ!

 でもって、戻ってきたら。

 尻込みせず、積極的にいかねば!

 まずは、骨浴談義だよね!

 ここは、落としてはならないポイントだ。

 ここは、絶対、何としても。


『またステラと二人で骨浴について語り合いたい』


 と、レイジンに言わせてみせるのだ!

 頑張れ、わたし!


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