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第35話 ルーシア先生の絨毯講座

 絨毯特訓をするにあたって。

 小型絨毯3号を貸してもらえることになった。

 当面の間は、この子がわたしの専用機ならぬ専用絨毯になるらしい。

 青地に白い星が散っている、ちょっと複雑な柄の絨毯だった。

 柄が複雑ってことじゃない。

 心情的に複雑ってことだ。


 青は、レイジンの鍵と同じ色だから嬉しい。

 でも、白は。

 白い星は、わたしじゃなくてレイシアさんのイメージだ。

 わたしじゃなくて。

 レイシアさんの。


 青地に白い星が散っているのって、それは何だか二人のホニャララな感じで。

 わたしからしたら、不吉な恋の先行きを象徴しているみたいで、大変好ましくないのだけれど、チェンジとか無理だった。

 だって、ルーシアが笑顔で、


「この絨毯が、一番癖がなくて、初心者にも扱いやすいと思うの。それに青はレイジンの鍵の色だし。白は…………ほら、骨の色だし、いいかと思って。ね?」

「あ、はい…………?」


 って言うから。

 前半の理由は、もっともすぎて「柄が好みじゃないからチェンジでお願いします」とか、ちょっと言えないし。後半は、ちょっと意味がよく分からなくて、うっかり疑問符付ではあるけど頷いちゃったんだよね。

 うん。本当にどういう意味?

 しかし、というか、しかも。

 ルーシアは、さらにトンデモナイことをやっぱり笑顔で仰いました。


「白骨模様じゃないのは、残念だけれど、その星を骨だと思って、ね? どっちも色は白だし」

「……………………はい?」


 さすがに首を傾げたよ?

 どういう感性?

 なあに? その骨柄リスペクト?

 もしかして、骨浴に馴染み過ぎて?

 骨に対するイメージがバグってる?


 わたしは、大人しく絨毯3号を受け取った。

 白は骨の色がパワーワードすぎて、細かいことはどうでもよくなった。

 だって、ほら?

 人類はみんな骨を持っているわけじゃない?

 ならば、骨の色である白は人類共通のイメージカラーということになるよね?


 ということは、つまり。


 絨毯3号は、レイジンとレイシアさんの未来を象徴しているのではない、ということになる。

 絨毯3号は、レイジンと骨浴の未来の象徴なのだ!

 ……………………と思うことにした。


 そんなわたしの胸の内なんて露知らずなルーシアは、太陽のような輝かしさで、わたしならすぐに乗りこなせるようになるって太鼓判を押した。そして、絨毯ノリのコツについて伝授してくれた。


「大丈夫よ。ステラには、絨毯の素質があるわ。ほぼ一発でトイレも使いこなせるようになったし。それに、ステラはチキュウの守り神であるオジゾウサマーと心を通じ合わせていたのだもの。絨毯も同じことよ。いい? トイレを使いこなしたことを思い出しながら、オジゾウサマーと心と通じ合わせた時と同じように、絨毯と心を一つにするのよ!」


 お地蔵様がいつの間にかオジゾウサマーになってるのは、まあ、置いておいて。

 トイレを使いこなした時っていう言い方はやめて欲しい。

 絨毯開閉魔法をマスターした時って言って欲しい!

 わたしのモチベに関わるから!


「いい、ステラ? 体じゃない。心を一つにするのよ? 絨毯と心を繋ぎ合わせるの。そうすれば、すぐに乗りこなせるようになるわ。じゃ、一旦床に降ろすから、心を繋いで、浮かせるところから始めましょうか!」


 ルーシアは、人差し指をクイクイと動かして、わたしの前でプカプカしていた絨毯三号をデカ絨毯の上に降ろした。

 言い忘れてたかもだけど、空の飛び方講習会は絨毯部屋の中で開催中です。

 練習用の絨毯3号を取りに戻っただけかと思ったら、そのまま部屋の中で練習するって言われたんだよ。

 土浜で練習すると、落っこちた時に汚れちゃうし、あと、絨毯の方が衝撃を吸収してくれるから安全なんだって。

 ちなみにデカ絨毯は、乗り降りしやすいように先っちょの方だけ浜に乗り上げていて、本体はほぼ宇宙の上に滞在中です。

 水面……じゃない、宇宙の上ギリギリくらいのところで、停泊中なのだ。

 絨毯は船とは違うのに何でだろうって不思議に思って理由を聞いてみたら、ルーシアは曖昧な笑みを浮かべながらトイレ用の絨毯個室へ視線を流した。

 わたしは、察した。

 つまり、宇宙は広大な下水処理施設なのだ。

 トイレに開けた穴の下は、浜ではなく、宇宙でなければならないのだ。

 そうでないと、ほら、ね?

 …………陸を移動している最中のトイレはどうなるんだろう?

 サービスエリア的な場所があったりするのかな?

 途中の民家のおトイレを借りたりするのかな?

 それとも、垂れ流…………。いや、今は止めておこう。


 目の前の絨毯に集中! 集中!

 というわけで、わたしはルーシアに倣って指クイして絨毯を浮かそうとして、あれ、そういえば?――――と首を傾げ、浮かんだ疑問を口にした。


「そういえば、レイジンは指でクイクイするんじゃなくて、何号来い!――――みたいに声で命令というか、指示を出していたような?」

「ああ。んー。心と心の通じ合わせ方って、人それぞれじゃない? だから、決まったやり方って、ないのよね。こう、上手い人のやり方を見て、色々試してみて、しっくり合うやり方を見つけて、自分なりにアレンジしていくって感じかしら?」

「あ、決まりきったお手本みたいなやり方は、ないんですね?」

「そうねぇ。割と感覚で覚えていく感じかしら? ステラはステラのやりやすい方法でいいわよ? で、ダメだったら、他の人の方法を真似してみるとかすればいいし」

「な、なるほど?」


 わー。アバウトだなー。

 ルーシアが、なのか。星導教会が、なのか。この星界が、なのかは、分かんないけど。

 うーん。何とか教会って言うと規律に厳しいっていうイメージがあるけど、こっちの星界の星界観のせいなのか、星導教会って割と緩めで大雑把……んん、大らかだよね?

 わたしとしては、その方が親しみやすくて助かるけど。

 なんか、レイジンたちとの関係も途切れさせたくないし、出来れば星導教会に入れて欲しいかも、ではある。


「ま、ともかく、やってみてちょうだいな?」

「は、はい」


 おっとっと。

 今は、絨毯に集中!――――なんだった。

 しっかし、始める前は、こう。

 初めて自転車に乗る時の練習をイメージしてたんだけど。

 どっちかっていうと、ペットっていうか、うーんと……。


 ……………………あ、そう!


 お馬さんに乗る、みたいな感じなんだろうか?

 なんか、そんな気がしてきた。



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