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第36話 浮遊したけど意気消沈

 自転車じゃなくてお馬さんということならば、名前を付けた方が、愛着がわくのでは?

 ――――ということで、絨毯3号のことは、みっちゃんと呼ぶことにした。


「みっちゃん。わたしは、ステラだよ。仲良くしてね?」


 わたしは、3号改め、みっちゃんの前でしゃがみ込んで、みっちゃんをナデナデしながら話しかけた。

 まずは、スキンシップから、だ。

 …………でも、やってから、ちょっと恥ずかしくなって、チラッとルーシアを窺ってみたら、ルーシアは突然のわたしの奇行を笑ったりせず、「その調子よ」って感じで頷いて見せてくれた。

 よかった。方向性としては、間違っていないみたい。

 ルーシアが、吹き出したり、笑いを堪えたりしていたら、心が折れるところだった。

 一安心したところで、「さて」と心を切り替える。

 後顧の憂いを断てたのであれば、後は目の前に集中するだけよ!


 んー。まずは、ルーシアのアドバイスにもあった通り、ファースト成功例であるおトイレ使用魔法を使った時のことを参考に…………。

 んんー、でも。あの時は、とにかく必死だったからなぁ。

 高校入試の合格祈願で神社にお参りしに行った時よりも真剣に祈って念じてたかもしれない。

 んー、んんー。つまり、ガチ祈願の時みたいに本気で念じろってこと?

 でもって、わたしのガチ思念が届いて心が通じ合えば、お願いした通りにしてくれるってこと?

 なるほど。絨毯は、お馬さんでもあり、呼びかければ応えてくれる便利な電化製品のようでもあると?

 うちも導入を検討したことあったんだけど、おばあちゃんが、妖怪と一緒に暮らすみたいだねぇとか言い出して、何となく立ち消えになったんだよね。

 ふむ? しかし、そう考えると、お馬さんというよりはお便利電化製品の方が近いのかな?

 生き物じゃなくて、人が作った道具なんだもんね。

 電気じゃなくて、魔法で動かす。

 物理スイッチじゃなくて、心スイッチ。

 心の周波数を合わせて繋がった状態が、すなわち起動状態ってこと。

 便利な魔法製品であり、頼れる暮らしのパートナーでもある。


 ……………………そういえば、一反木綿とかいう妖怪、いなかったっけ?

 白くて長細い布がヒラヒラしてるヤツ。


 …………や、やばい!

 みっちゃんが妖怪に見えてきた。

 絨毯妖怪みっちゃん!

 なんか、都市伝説っぽい!

 乗ったら異界へ連れ去られたりしそう!


 ………………………………いや、待てよ?

 もうすでに、連れ去られているな?

 絨毯に乗って、異界じゃなくて異星界だけど、連れ去り完了してるよね?


 えーと。

 一旦落ち着こうか、わたし。

 おばあちゃんに影響されすぎ。

 大丈夫。絨毯星界には、きっと妖怪なんて存在しない。

 妖怪は、ほら!

 地球にはいても、絨毯星界には存在しないんだよ!

 そういうことにしよう!

 だから、みっちゃんは、みっちゃんは妖怪じゃなくて、なくて…………!


 閃いた!


 みっちゃんは絨毯の妖精さんなんだよ!

 それなら、怖くない!

 だって、妖精さんは綺麗で可愛いもん!

 可愛いは正義!

 だから、大丈夫!


 さあ! 想像してみようか!

 妖精さんが宿っている絨毯と仲良くなり、自由自在に空を飛び回るわたし!

 うん! いい! それは、すごく、いい!


 よーし!

 なんか、うっかり脱線して遠回りしちゃった気がしなくもないけど、終わりよければすべてよし!

 絨毯妖精みっちゃんとなら、仲良くなれる!


(みっちゃん! わたしと一緒に空を飛ぼう! さあ、浮くんだ!)


 わたしは、みっちゃんに意識を集中し、心で語りかける。

 なんか、手ごたえを感じた。

 スイッチをいれたらライトが点滅したみたいな、手ごたえを感じた。

 いや、心ごたえって言うべき?

 とにかく!

 わたしは、今!

 みっちゃんと繋がった!

 わたしたちは、繋がっている!


(さあ! みっちゃん! 浮くんだ!)


 わたしは、床絨毯の上で横たわっているみっちゃんの手前で両手の手のひらを上に向け、指を折り曲げる動きを繰り返す。

 みっちゃんんは、応えてくれた。

 みっちゃんの体が、ふるふると小刻みに震え、それから、そして。

 わたしの指の上向き折り曲げ運動に合わせて、ゆっくりと離陸を開始する。


(き、来たーーーー! みっちゃああああああん!)


 わたしは、指をうごうごしながら立ち上がる。

 みっちゃんも、わたしの指について来てくれた。

 グッと両手を握りしめ、思わずガッツポーズ!

 すると、みっちゃんもそれに応えるみたいに、わたしの周りをクルリと一周して、また正面に戻って来る。

 ええー!? なんか、ワンコみたいじゃなーい?

 じゅ、絨毯とは、ペットだったのか…………!

 これから、仲良くしようねぇーーーー!

 ――――と、感涙しながら「よくできました」とみっちゃんを撫でてあげていたら、誰かがわたしの肩に手を置いた。

 誰かっていうか、ルーシアしかいないんだけど。

 わたしは、ルーシアとも喜びを分かち合いたくて、涙交じりの笑顔をルーシアに向け、「出来ました!」報告をしようと思ったんだけど。

 その前に、釘を刺された。

 褒められもしたけど、しっかり釘を刺されました。


「うん。よくできました。絨毯との接続に問題はないみたいね。でもね、ステラ? 絨毯は、生き物じゃないの。一つの絨毯に、あまり過剰に感情移入しすぎちゃダメよ?」

「…………え? だって、こんなに可愛いワンコなのに? 可愛がっちゃ、ダメなんですか?」


 笑顔付きで褒めてもくれましたが、その後、盛大に釘を刺されました。

 でも。でもでもでも。

 わたしは、納得できずに食い下がる。

 すると、ルーシアは困ったようにため息をついて、聞き分けの悪い子に言い聞かせるみたいに、こう言った。


「絨毯は道具であって、意思はないから。今のも、絨毯が勝手に動いたわけじゃなくて、たぶん、あなたが無意識にそうするように命じていたんだと思うわよ?」

「……………………え?………………………………ええ!?」


 わたしは目を見開いて、ルーシアとみっちゃんを交互に見る。

 え? そんな、ことが?

 いや、でも、言われてみれば?

 そうなったら可愛いなー、って思ってた…………ね?

 えっと、つまり?

 呼びかけに応えてくれる系便利な家電製品が、ひとり言にも反応しちゃったみたいな感じ?

 心で繋がって稼働するタイプのお道具だから、心のひとり言まで拾われちゃった感じ?

 え? それ、まずいのでは?


「接続に問題はないし、第一関門は突破ね。でも、接続が良好すぎて、制御が甘いのが問題ねぇ。ちゃんと意識して絨毯を操らないと、大事故に繋がりかねないから、絨毯に乗ってみる前に、絨毯制御についてお勉強しましょうか?」

「は、はい…………」


 う、うう。

 これで、絨毯を自由に乗り回せると思ったのに。

 わたしは、意気消沈して頷いた。

 まあ、でも確かにおっしゃる通りではある。

 体の周りをクルンと一回転するくらいなら可愛いもんだけどさ?

 絨毯に乗っている状態で、例えばだよ?

 自分一人で宇宙の上を飛行中に、このまま宇宙の海の潜ってみたら……とか、ふと思いついちゃったそれを敏感にキャッチされちゃったら、本当にそのまま、宇宙にダイブされちゃうかもってことだよね?

 そうなったら、わたしは間違いなく白骨化。

 誰も引き上げてくれる人がいない状態で白骨化したら、体は白骨状態で宇宙の遭難者だし、魂は下手したら永遠の浮遊霊ってことじゃない?


 い、いやだ!


 あうー。

 あんなに楽しみにしてたのに。

 ちょっと一人で絨毯に乗るの、怖くなってきちゃったよ……。


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