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第42話 星宮もの始まりました?

 午後は浜巡りの予定だったけれど、天チュウさんたちの浜遊び(宇宙遊び?)観賞で一旦幕は閉じた。

 星導せいどう教会本部と魔法通信を終えたルーシアが、「話があるの」って呼びに来たからだ。

 わたしは、天チュウさんたちに手を振って、ルーシアと共に絨毯部屋へと向かう。

 わんぱくにホラーな遊びの仲間に入れず、うすら寒さと疎外感を感じていたから、その時は呼び出しがものすごくありがたかった。微妙なホラーから離れられて、正直ホッとした。

 だけど、絨毯部屋に入って、宙に浮いているだけの足のない絨毯机にルーシアと差し向かいで座って。


 前門の微妙ホラー、後門のシリアスだったことに気づいた。


 ルーシアは、ガチの仕事モードだった。

 ドラマでしか見たことのない、患者さんに余命宣告をするお医者さんみたいな顔をしていた。

 四つん這いで宇宙に頭を突っ込んでいた天チュウさんを目撃した時以上の戦慄が背筋を駆け上っていく。

 ルーシアは、重々しい口調で、こう切り出した。


「ねえ、ステラ? あなた、星導せいどう教会に所属する気はない?」

「…………へ?」


 わたしは、目を瞬いた。

 え? この流れで!? まさかの勧誘!?

 え? いや、仲間に入れてもらえるなら、嬉しいけど。

 え? なんで、そんな余命宣告みたいな雰囲気なの?

 一度入ったら出られない系のヤバめな宗教団体に信者として潜り込んで情報を探って来い……みたいな覚悟を迫る感じで勧誘されてるのは、なんで?

 星導教会は、ルーシアさんも所属している宗教団体なのかどうかは、ちょい微妙だけど、所属団体ではあるんですよね?

 ラピラピ楽しそうに星導語りしてましたよね?


 ……………………は!?


 もしや、生贄として捧げるために、一旦星導教会に所属させるって感じの話とか?

 ほ、ほら?

 異星界からの渡り人を生贄にするのは、無理矢理みたいで体裁が悪いけれど、一旦教会の人間になってからなら、教会もしくは星のために自ら生贄に志願したとか、そういう美談に出来るとか…………ってゆー感じの小説を、この前読んだばっかりなんだよ!

 え? ええ?

 大人たちの汚い欲望の犠牲として美談にされるのは、嫌なんですが!?

 キュピーンと思考が走りまくって、恐れおののいていたら、ルーシアが「あー! もう!」と自分の頭を鷲掴んで叫んだ。

 びっくり慄いて思考を手放し、ルーシアをまじまじと凝視……してたら、ルーシアは「ふーっ」と大きく息を吐き出してから、ヒタリとわたしをロックオンした。

 そして、今度は質問が飛んできた。


「まどろっこしいのは、向いてないわ! ねえ、ステラ? ちょっと聞きたいんだけれど、答えてもらえる?」

「は、はい」


 質問……というか、質問してもいいかのお伺いだけど、完全なる強制イベントだった。

 わたしは大人しく頷いた。

 まどろっこしいのを回避しようとして、本題の前に質問を挟むのはまどろっこしくないのかな、なんて質問はもちろん封印だ。


「ある夜、鍵の力と思われる白い光が星宮せいきゅうから天の海きょむ外へ流れていきました。翌日、星宮から、星女せいじょレイシア様が病に倒れ療養することが発表されました。しかし、母君であらせられる星妃せいひ様ですら、療養中の星女様には会えていません。そして、本日。白い鍵の力の持ち主は、星女レイシア様であることが、ほぼ確定しました。ここに事件性がある場合、犯人は誰だと思いますか?」

「…………え? 普通に考えたら、王様じゃない? えーと、星様ほしさま? それとも、星王せいおう様とか?」

星王せいおう様よ……。というか、普通に考えて、そこに辿り着いちゃうのね。そうよね、渡り人だものね。そうじゃないかなとは思っていたけれど、やっぱり、そうなのね……」


 一度聞いた話をベースにした質問だったから、さして考えなくても、すぐに答えが出て来た。

 いや、だって。

 星妃様以上に権力を持っているのって、やっぱり王様……星王様じゃない?

 星王様が邪魔をしているから、星妃様は、お母さんなのに病気で倒れた娘に会わせてもらえないってことだよね?


 ――――なーんて、ドラマの次回予想を聞かれた時みたいなノリで答えちゃったけど。


 えーと、これ。不敬罪に問われちゃったりは、しない、よね?

 ほら、王政国家バリバリなヤツだとさ、あるじゃない?

 あ、でも。ルーシアも、犯人は星王様だと思ってるっぽいよね?

 この感じからして、なんとなく。

 でも、その、なあに?

 ワード解説の後、予想はしてたけどやっぱりそうなのね的に遠い目になるのは、なに? なんなの?


「…………星導教会は、星を守るための組織なの。星を守るために、星府せいふと協力することもあれば、対立することもある。星府の方針が、星に害を成すものではないかを審議する立場でもある。だから、盲目的に星王様を信奉したりはしない」

「は、はい」


 えーと。三権分立、みたいな?

 いや、今の話だと二権しかないけど。

 でも、そういう感じの話? なの、かな?

 少なくとも、星府一強ってわけじゃなくて。

 星導教会は、こと星に関することなら星府とか星王様にも口出しできる立場だってことだよね?


「でも、一般の星の民たちは、違うわ」


 あー、察し。

 つまり、たとえ星の安寧に関係することであっても、一般の人たちが星王様とか星府の決めたことに異を唱えたら、やっぱり不敬罪になっちゃうってことなんだよね?

 それをするのを許されてるのは、星導教会だけってことだよね?


「そもそも、一部の過激派を除く、本当の意味での一般の民たちは、星王様のすることに間違いはないって信じ切っているもの。犯人は誰かと聞かれて、普通に考えて星王様だと答える民はいないのよ」


 や、やっべ。

 普通に考えて、それしかないって思っちゃったよ。

 あ、待って? つまり、そういうこと?

 普通に星王様犯人説を考えついちゃうわたしは、このまま一般の星の民の間に放ったら、危険な思想犯扱いになっちゃうから、星導教会に所属してもらうしかないよね、とかそういう話だったりする?


 ……………………そういうことなら、その話。謹んでお受けします。

 わたしが異星界人だってことを分かってくれている人たちのところで、一から絨毯星界の常識を教えて欲しいです。

 みんなと仲間になりたいなーとは思っていたから、生贄案件じゃなければ、願ったり叶ったりな申し出ではあるし。


 ――――と思ったんだけどね?


 どうやら、話はそう単純ではないらしい。

 更なる質問がやって来た。


「それでね、ステラ? 星王様が犯人だと仮定するとして、星王様はなぜ、犯行に及んだのだと思う? ステラの考えを聞かせて欲しいの」


 いや、ね?

 ファンタジーな王宮物のラノベなんかも読んだりはするからね?

 テンプレかもしれないけど、思いつく展開はある。あるよ?

 でも、それ。

 リアルで巻き込まれた一般人の立場で、口にしてもいいものなの?


 というか、その質問。

 どういう意図があってのものなのかな?

 わたしは、ルーシアにそれを聞きたい。


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