正直に思いついた考えを話すべきか、それとも「ステラ、一般人だから分かんなーい」って誤魔化すべきか迷ったけれど、ルーシアは誤魔化しを許さなかった。
「その顔、何か思いついたことがあるのね?」
「う、いや、それは、そのぉー……」
鋭い眼差しで言い当てられて、わたしは視線を泳がせる。
そんなわたしの様子に「やっぱり」と瞳を光らせたルーシアは、追及の手を強める。
「さあ? キリキリ白状しなさい?」
「ひ、ひぃーーーー!?」
わたしは、涙目で悲鳴を上げた。
まさしくヘビに睨まれた……というかお腹ペコペコ涎ジュルジュルのヘビに狙われている腰の抜けたカエルさん状態(カエルに腰があるのかは知らない)!
丸呑みまで秒読み開始!
…………と思ったんだけど、ルーシアは怯えるわたしを見て、ハッと我に返った顔をした後、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい、ステラ。これじゃ、尋問よね。少し、気が急いていたみたいね」
「…………へ?」
恐ろしいヘビの着ぐるみの中から、いつも通りのルーシアが現れた。
覚悟を決めていたわたしは、驚いて目を瞬く。
…………ビビりすぎのわたしを見て、正気を取り戻したってこと?
「それに、よく考えたら、話の流れ的にもこれはないわよね。本当にごめんなさい、ルーシア。あなたを嵌めて不敬罪扱いにして身柄を拘束して、いいように扱おうとか、そういう意図は一切ないの」
「…………は、はひ……」
顔を上げ、真摯な表情でおっそろしいことを言うルーシアに、わたしは神妙に頷いた。
いや、不敬罪になるかもくらいは、わたしも考えたけれど。
その後の展開は、全然思いもよらないヤツなんですが……?
現実は、ラノベよりも恐ろしいんだな。
なんていうか、そういう展開もあり得るんだなっていう現実が恐ろしくもうすら寒い。
ちょっと気が引き締まった。
…………キュッ。
「大丈夫よ、安心してちょうだい。ここには、私たち二人しかいないし、私も疑っているから! 公には言えないけれど、個人的には不信感抱きまくってるから! 同志だから! だから、ステラの意見、ぜひ聞かせてちょうだい! いろんな視点からの意見が欲しいのよ! だから、ね?」
「え? いや、たぶん、疑いの視点を持てる人なら、誰でも考えつくようなことだと思いますよ?」
「構わないわ! それならそれで、私たちと近い考え方をしているのねって、親近感が持てるし! 初めて聞く考えなら、すごく参考になるし! ね?」
「う、分かった! 分かったから、もう少し、離れて?」
「あっと、失礼!」
絨毯机に両手をついてグワッと身を乗り出してきたルーシアの熱量に圧されてたじろいで、近づきすぎのご尊顔を離してもらうことを条件に話すことを承諾。
ルーシアは口元に手を当てて、大人しくススッと元の位置へ戻っていった。
でも、その目はギラギラ光っている。
知りたい教えてって、強く訴えかけてくる。
ま、まあ。
ルーシアも
というか、完全にロックオンされてて、逃げられそうもないしね?
というわけで、わたしは覚悟を決めて。
ラノベ読みで培った今後の展開予想に基づく星王様の犯行理由予想をご披露申し上げることにした。
ちなみに勝率は半々くらいだ。
予想ドンピシャで「やっぱ、そうだよねー!」ってなるのも気分がいいけど、読みが外れて「ええ!? そうだったの!?」ってなるのも楽しいよね?
「えーっとね? 失礼なのは百も承知で言うんだけれど、星王様は鍵の力を持っていなんじゃないのかなーって。でもって、だからこそ、鍵の力を欲しているんじゃないのかなーって」
「…………!」
とはいえ、一応。一応、悪あがきっぽく前置きは挟ませてもらった。
ちなみに、この推測についての根拠は何もない。
ありがちな展開じゃなーい?……ってのをそのまんまペロッと口にしただけだ。
でも、星王様が鍵の力を持っていないっていうのは正解みたいだね?
それを言った時、ルーシアが「どうして分かったの?」って感じにおっきく目を見開いたんだよ。
それにちょっと気をよくして、わたしは調子に乗った。
「んー……。星の救済に関しては、
「……………………ステラ」
ルーシアの声が低く響いて、わたしは我に返った。
やっべ……!
調子に乗って、かんっぜんにラノベの展開予想のノリで、これが本当なら星王家のスキャンダル間違いなしなことをペラッペラと喋ってしまった!
オブラートは一切仕事してない!
背筋にヒヤンとしたものを感じながら、恐る恐るルーシアの顔を見る。
喋っている間は、自分の世界に入っちゃってて、視線というか視界が疎かになっていたんだけど、ちゃんと意識してルーシアの顔を見る。顔色を、窺う。
ルーシアは真顔だった。
オブラートなしのスキャンダル(……で、済む話なのかな?)疑惑を遠慮なくぶちまけたわたしを責めているって感じじゃない。
「すごいわ、ステラ。与えられた少ない情報から、そこまで導き出すなんて。私たちの見解と、ほぼ一致している」
ほぅ……とため息を吐きながら、ルーシアが言った。
ひとまず、安心した。
ルーシアたちも同じようなこと考えていて、それをここでカミングアウトしてくれたってことは、さすがにわたしだけが咎められることは、ないよね?
そんな思いを込めて、ルーシアを見つめる。
すっかり気を緩めたわたしの視線の先で、同じように表情を緩めていたルーシアは、けれどまたしても真顔になった。
「でも、だからこそ。もう一つだけ、質問をするわ」
え? また質問?
な、何を聞かれちゃうの?
え? 全然、思いつかないんですが?
え? 他に何か、聞くこと、あるの?
予想不可能なんですが?
わたしは絨毯机の下で汗ばむ拳を握りしめながら、おそらく最後になるっぽい次なる質問を待つ。
「さっきの予想が真実だと仮定して、あなたがレイシア
………………………………!
どうして思いつかなかったんだろう?
他人事じゃない。
ものすっごく、わたくし事なのに。
ルーシアの質問は、矢となってわたしにクリティカルにヒットした。
矢には毒が塗られていた。
状態異常をもたらす毒だ。
ステラの頭は、グルグルになった。