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第40話 チョーコー見回り組

1970年代半ば 夏頃 深夜 東京中高級学校 周辺


1人の男が、周りを警戒しながら、チョーコーを見ていた。

頭に黒のニット帽をかぶり、黒色のジャージ姿でチョーコー周辺を歩いていた。

右手にはアルミ製のハシゴを持っていた。


スタスタスタ。


少し早歩きで、朝鮮中高級学校の校舎裏辺りまでやってきた全身黒ずくめの男。

チョーコー校舎とその男の間には、ブロック塀と金網があり、男はそのブロック塀を仰ぎ見た。

数十秒見ていた男は、おもむろに持っていたハシゴをブロック塀へと立てかけた。


東京都心とはいえ、今は深夜の時間帯。

人も車も通る気配はなく。

男の不審な行動に気づく者はいなかった。

令和の時代になら監視カメラやセンサーライトなど、便利な防犯グッズが格安で手に入るのだが、昭和の1970年代は、高額な上にとりつけるのも繁雑な防犯カメラは世間に一般化しておらず(一般化するのは80年代に入ってから)、都心にある朝鮮中高級学校も例に漏れず、それらの事情により防犯カメラによる不審者対策は講じていなかった。


ブロック塀を超え、金網に手をかけた男は、そのまま左右を確認。

面した道路に人がいないことを確認した男は、勢いよく金網を登り、校舎裏へと侵入した。


校舎裏から、校舎の表付近へとこそこそと移動した男は、校舎の入り口辺りで足を止めた。

入り口は、既に深夜という事もあり閉まっていた。

また、前後左右を確認した男は、右ポケットにいれていたトンカチを取り出し、校舎入り口のガラス窓を割ろうと右手を振り上げた。


「オソワ~!(いらっしゃい!)」


背後から不気味な男の声が聞こえてきたと同時に、トンカチを持つ右手を掴まれる。

続けざまに、トンカチを持っていた右手を思いっきり引っ張られ、ニット帽の男はそのまま尻餅をついた。


「テメー誰や!右翼か!?サカンか!?」


尻餅をついたニット帽の男は、その状態のまま上を向いた。


「うっまぶし!」


白いシャツ、下は黒の長ズボンの制服を着た男が、持っていたライトで、座った状態でこちらに顔を向けているニット帽の男を照らした。


「まぶしいじゃねえか!?」

「ま、いいじゃねえか。校内は暗いから明るくした方が転ばなくてすむだろ?」


ライトを持った学生の隣にいた身長183cmほどのゴツイ男が、ニット帽の男の襟首をつかむ。


「て、てめぇ!なにしやがる!」

「ここじゃあ暗いだろ?今よりもっと明るい場所まで連れてってやるよ」


そう言ったチョーコー柔道部2年のゴツイ男・キムトウジは、ニット帽の男の襟首をつかみながら歩いて行った。


「て、てめぇ、離せチョン公!」

「おーおー!俺たちのテリトリーなのに威勢がいいな~」




朝鮮中高級学校 グラウンド


グラウンドの真ん中で、チョーコー校内に侵入した男が、ニット帽を脱がされ正座させられていた。

その周辺を20名のチョーコー生が囲んでいた。

ニット帽の下は、パンチパーマリーゼントで、見るからに近所の一般人が好奇心でチョーコーに侵入した、という様相ではなかった。


「で、お前誰やねん」

「だ、誰が言うか!?」


侵入者は、急に態度を変えあぐらをかきながら腕を組んで徹底抗戦の構えをとった。

それを見て呆れる、チョーコー生たち。


「見た感じ、右翼かチョッパリの不良ってところか」

「どうせ、度胸試しにチョーコーの窓ガラスか何か破壊して逃げようって算段だったんだろ」

「あほやこいつ」


亀の様に口を閉じた侵入者に近づくチョーコー生2年・カン・ソンジュが近づく。


「どうする?今土下座すれば五体無事で校門から出させてやる」


侵入者はその言葉に生唾を飲んだ。


「・・・・・・」


グラウンド上の21名に沈黙が流れる。


「も、申し訳ございません!」


その沈黙に耐えられなくなったのか、ついに侵入者が土下座して謝罪した。


「そうか、そうか。反省したか。謝罪は大事だよな。どこぞの国みたいに口だけじゃなくしっかり態度で表すあたり立派なチョッパリじゃないか。日本人の鑑だ」


そうカン・ソンジュは、侵入者を褒めた。


(ホッ・・・捕まったからにはどうなるかと思ったが・・・・・・)


侵入者・内藤は内心ホッとした。

今までチョーコーに不法侵入して捕まった奴らがどんな目にあうかをこの耳で聞いてきたからだ。

だが、俺は何とかなりそうだ。

そう安堵していた。


ドカッ!


「ぐえぇ!」


内藤の後頭部に衝撃が走った。

カン・ソンジュが、ゲソで思いっきり内藤の後頭部を踏んだのだ。


「パ~ボ!(ば~か!)誰が不法侵入者を生きて返す馬鹿がいるか!」


後頭部をゲソで踏みつけながら、カン・ソンジュは内藤を小ばかにしながら高笑いをした。


「おらぁ!やっちまえ!」


それを合図とばかりに、周辺を取り囲んでいた19名のチョーコー生が声をあげながら内藤に襲い掛かった。




ドサァ・・・・・・。


校門の外に、意識不明になった内藤が放り出された。

パンチパーマリーゼントはグチャグチャ、片目は完全に塞がり、服も所々破れて、右足は曲がってはいけない方向に向いていた。



昭和時代のチョーコーには、右翼やサカン含めた日本人の不良たちが度胸試しや破壊を目的とした校内への不法侵入が度々発生していた。

侵入してくる時間帯は大体、生徒がいない深夜などに行われ。

学校も何度か被害にあっていた。

警察に被害届を出そうにも、警察が相手にしてくれないので、しょうがなく自警団としてチョーコーが交代で校内をパトロールするようになった。

深夜パトロールする生徒は、主にチョーコー1年と2年の男子生徒で構成され、2人1組で校内を複数の組で巡回。

侵入者を見つけ次第、捕まえて「丁重」にお帰り頂いていた。

もちろん、その「丁重」が侵入者にとっては逆の意味に聞こえたかもしれないが(笑)。


ここは天下の喧嘩最強高校チョーコー。

防犯カメラなどに頼る必要性など、どこにもなかったのである。


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