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ハッピーバースデイ!

「おーし!来たな!」

俺たちを出迎えたのはやはり、あのフレイとトォルだった!

「お前ら!」

「ん?なにィ?」

「あ、いや……」

こいつらに言っても仕方ない……夢の話だもんな。

ひとまず家の中に招き俺の部屋に集める。

「なんか怖い夢見たらしいぞ」

「はははは! ガキかよっ! ねぇ〜まーくんいくつぅ?オムツ取れたかなぁ?」

バカにされていいとは思ってたけど……こいつにやられるとムカつくな。

「ほら、そこまでにしてよォ。今日の主役なんだからァ」

「あぁ、そうだった。ふふ、じゃ、まずは家にいることだしこれから!」

そう言ってフレイは懐から何かを出した。

「じゃっじゃ〜ん! ハッピーバースデーィ! おめでとうマーク!」

そこにあったのは"ハッピーバースデー"と書かれた札のついた煌びやかな箱だった。

「お、フレイから? あけてみてよォ」

トォルが急かしてくる。

「は、恥ずかしいな……」

さっきまで調子に乗ってたくせに、フレイはちょっと目線を逸らしてもじもじしている。

「あ……開けていいの?」

「……うん」

了承を得たのでその箱の包みを外して開封する。

その中から出てきたのは、銀色に輝く時計だった。

「こ、こんな高価そうなもの、いいのか!?」

「そんなに高いものじゃないってぇ」

謙遜なのか知らんがフレイは手をぱたぱたと扇ぐ。

「時計って……だって村の広場にひとつあるだけじゃ……」

俺がそう言うと、周りのみんなが一斉に吹き出すように笑う。

「あっはは!なにそれ!どういう世界の話?」

「ぶふ、いくらなんでもそんなわけないよォ」

「えっ?いや……だってみんな鐘の音で時間を……」

「マーク。寝ぼけているの?」

レベッカが不思議そうな顔をしてじっとこちらを見つめる。

「……あれ、おかしいな。……俺が、おかしいのか……」

なんだか自分で自分が信じられなくなる。

全部夢だったなんて思えない。

あの灰色の村も、吐き気を催す鮮血も、そして……レベッカの死も……全部夢なら、確かにそれが一番良いとは思うけれど……じゃあここにいる俺はなんだ。こいつらはなんだ。

「なぁ、お前らは、レベッカに、フレイに、トォル……だよな?」

「ん?当たり前じゃん。どしたのほんと〜」

きょとんとした顔でフレイが返す。

どうやら本当にそれ以外の事実は無さそうだ。

「だ、だよな。うん……」

「ほら、じゃあ次誰?誰がいく?」

「はいっぼくゥ!」

トォルが勢いよく手を挙げる。

「ほら、これこれ」

トォルが提げていたカバンから素朴な包みを出す。

「開けてみ?」

フレイに言われるがままにその包みを開けると、中からは茶色くて光沢のあるゼリー状の物質に包まれた塊が出てきた。

「なっ……なにこれ?」

「チャーシューだぞォ」

「あははは、トォルそんなの持ってきたの?せめてケーキとかでしょ!」

フレイが腹を抱えて笑う。

「えっと……これは、一体なんだ……?」

俺の言葉を聞いてトォルが固まる。

「え、マーク、チャーシュー食べたことねェのか?」

「そんなわけないでしょ〜」

「いや……ない。なんだよこれは……」

「あ……あれよ? トントを焼いたヤツ。わかる?」

「トントだって!?」

俺はフレイの言葉に食いつく。

「な、なによ……」

当たり前のようにそう言っているからには、それも事実に違いない。

つまり彼らは、肉を食べているというのだ。

村の中でも限られた階級の者が、どこかの村から仕入れられて来た物をとんでもない額で取引しているらしい。

その肉を、トォルは持ってきている。そしてみんなも食べたことがあるというのだ。

「いいのかよトォル……こんなもの……」

「んー、べ、別にいいけどよォ。そんなマジになられると思って用意してねェんだけど」

苦笑している様子からして、トォルも笑いを取るつもりでこれを持ってきたような印象だ。

「ねぇマーク、あんたほんと大丈夫?」

フレイも困ったような表情で俺の顔を覗き込み始める。

「……大丈夫、ではないかもしれないけど……わからない」

「なにそれ」

「……ある日、突然世界が変わってしまったなんて言ったら……信じるか?」

俺の問いかけに、みんなが首を傾げる。

「それこそなにそれだよ〜。だってあたしたちはずっと一緒にこの村で育ってきたんだよ?マークだっていつも通りの見た目じゃん」

「中の人が違ったりして。ぶふふ」

トォルもふざけて笑っているが、それが妙に核心を突いているような気もした。

「でも、マークはマークでしょ?私たちのこと知ってるってことは」

そう言いながらレベッカが急に俺の首に何かを巻き始める。

「レベッカ……?」

「この世界のマークだって、違う世界のマークだって関係ないよ。私は全部のマークの味方だから」

言い終えるとともに、レベッカは手を離す。

「ん、できた」

俺の首には真紅のスカーフが巻かれていた。

「えーなにそれなにそれ!かっこいいじゃん!」

フレイが興奮気味に俺の首ごとスカーフを引く。

「あ、こら。そんな乱暴に扱うな」

それを見てレベッカが目をつり上げる。

「おっと、そうだね。レベッカのプレゼントだもんね」

「ふん」

「はは、ありがとなレベッカ」

「……ん」

どこか別の方向を見ているが、その頬が緩んでいるのは見逃せなかった。

「さてぇ、じゃあ全員プレゼント渡したことですし!行きますかー!」

フレイが急に手を叩いて移動を促す。

「どこに行くんだ?」

「んー?ふふ、どこかなぁ」

そう言いながらずんずんと進んでいく。

「まぁついて行こうよ」

顔を見合せながら3人で彼女に従って歩き出した。

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