フレイはしばらく泣いた後に落ち着きを取り戻し、再びレベッカに向き直る。
「……ごめんね、レベッカ。あんたの言うことも否定したいわけじゃなかった。でも、こんな姿になったマークを認めたくなくて……」
「言ったはずだ。私は全部のマークの味方だと。姿形が変わっても、マークはマークだ。それを私が誤るはずがない」
そう言ってレベッカは俺の肩をさする。
触れられているはずなのにほとんど感触がないのが寂しかった。
「……それで、これからどうするつもりなの?」
フレイの問いかけに対してレベッカはしばらく間をおいて答える。
「やっぱり、方法を探さないといけない。マークは何かに呪われてしまったのかもしれない。その原因と解呪の方法さえわかれば……」
「そもそもマークはどうして呪われたのかな?」
「皆目見当もつかない……私はマークの全てを知っているが、彼がここ最近で何か禁忌に触れるようなことをしたとは思えなかった」
さらっととんでもないこと言ったなこいつ……。
「そう言えば気になることはあった。マークはなぜか当たり前のことにやけに驚いていたような……」
「それはあたしも思った! ギャグのつもりでやってるのかとも思ったけど、そんな様子ではなかったし……」
「……となると、やはりあの時のマークは別の世界のマークだったのかも……」
「別の世界?」
フレイは不思議そうに首を傾げる。
「本で見たことがある。そうじゃなかったらこうなってたっていう可能性の世界がいくつかあるの。そのうちのひとつのマークがこっちのマークと入れ替わったのかもしれない……」
「そんな嘘みたいな話ある?」
「みんなそう思ってたことが、現実になった例がある」
「魔法生物……ね」
魔法生物は、かつてこの世界に存在しないものだったらしい。魔素とともに地上に出現し、世界の常識は覆された。
物語の中の幻想の存在であったようなものが、現実世界で弱者を蹂躙する。
悪夢のような状況だが、それはこの世界での共通の現象だった。
俺の改変によりこの村はその襲撃を免れている村のひとつになっているようだが……相変わらず他の村はそうでないはずだ。
「で、もし仮に別の世界のマークだったとして、そしたらどうなる?」
「私の知らないマークが何かをしてしまったのなら、それはもう私にはわからない。だからそれをなんとか探れないかって……」
手段がないことはわかりきっているため、自信はなさそうだがレベッカはそれを口にする。
「なんとかってのが一番重要なとこなんだけどねぇ……」
それに関しては俺もわかっていない。
あの転生の際に言われた器を超えたチカラ、それを行使した結果がこれだ。
もし他の転生者でもいたならスキルでなんとかしてもらえたかもしれないが……生憎今の俺は喋ることもできないし身動きを取ることも簡単にするわけにいかない。
「ひとまずは本当に打つ手なし……か」
フレイが両手を上げる。まさしくこの状況はお手上げだ。
「……このこと、トォルには」
「言うさ」
フレイは即答する。
「あたしが話を通す。だから必ず上手くいくさ」
「味方だと心強いな」
そう言ってふたりは顔を見合せて笑った。