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みんな一緒

数時間後、幼なじみ3人が俺の前に揃っていた。

「……どういうことだよ」

ピリピリと張り詰めた空気が辺りに満ちる。

トォルは拳を握りしめて俺を見据える。

「果物がたくさん成ってる場所があるって言ったのに! なんでこいつがいるんだよォ!」

「ま、まぁまぁ……騙したのさ謝るからさ」

「騙した……? じゃあなにかい。もしかしてこいつがいるだけで果物さえもないっていうのかい?」

トォルは膨らんだ頬を揺らしながらフレイに迫る。

「ご、ごめんって……」

「もおおぉぉおぉう! 後でパフェ奢ってよ!」

ギャルみたいな妥協で納得したようだがこいつにとっては仇より食べ物の方が優先順位が高いのかな?

「そう! そうだ! こいつ! マークをよくもォ〜!」

食べ物の悩みが解消されたから次のタスクにあった仇への怒りが呼び起こされたらしい。

なんて単純なヤツ……。

「待って待って。トォル、いい?こいつはマークなの」

「……はァ?」

振り上げた腕を空中で止めたままトォルは怪訝そうな顔をする。

「信じ難いとは思うが、この魔法生物らしき存在、中身はマークだ。だが見ての通り危害は加えない。安心してくれ」

「いやいや! ぼく吹っ飛ばされたもんよォ!」

トォルは俺の方を指さして喚く。

「あれはだな……簡単に言えば事故だ。身体を動かしたら思ったよりかなり強い力だったようだな」

「あたしも信じられなかったけど、こいつ面白いポーズであたしを笑わせてきやがってね。その時もばっさばっさ周りのもの吹き飛ばしてたから間違いなく力が強くなりすぎちゃったんだろうね」

「ふぅん……そうか。じゃあほんとにマークなんだな」

それを聞いて比較的あっさりとトォルは納得する。

「物分りいいじゃん」

「ふたりが言うなら信じるさ。それにマークは生きてるって思ったら、そっちの方がいいしなァ」

のんびりしてる割には情に厚い。こいつの良いところだ。だからこそ俺を殺そうとした時のこいつの顔を思い出すと複雑な気持ちになる。

こいつがあんな顔をすること、そしてそうさせてしまったこと、俺のために怒ってくれることを知れたのは嬉しかったが、その原因を作ったのも間違いなく俺なのだ。なんだかマッチポンプのようで気が引ける……。

「それで、なんでぼく呼ばれたの?」

トォルはよくわからないといった様子で額に手を当てる。

「いやいや、マークのこと。あんただけ知らないでいるわけにいかないし」

「あぁ、そうか……果物はもう、ないんだっけ……」

食い物に囚われすぎて話が噛み合わんな……。

「そ、れ、で! マークをどうしたら元に戻せるのかなぁって話!」

フレイは無理やり話をもとの路線に戻した。

「うーん……でももう今ほとんど何も残ってないじゃないか。これじゃあまるで食べ終えた後のフライドチキンだよォ」

「きもちわるい喩えしないでよ……」

「でも……確かにマークにはもう骨と皮しかない。これをなんとかできれば……」

そう言ってレベッカは俺の空っぽの部分に容赦なく手を突っ込む。

「ちょ、ちょっとやめなって……」

もちろん何も無いからには俺には何も触られている感覚はないが……確かになんかいやだな……。

「アンデッド系列の魔法生物に分類されているのなら、それに詳しい人がいればいいんだけど……」

「専門家を訪ねるってのは、いいかもなァ」

「それならアンシェローに行けばなんとかなるかもしれない」

レベッカの口から出てきたアンシェローというのは、魔法生物に対して様々な対策を講じている機関だ。

「でもよォ、それって確か都にあるんだろ?こっからじゃ結構遠いよなァ」

俺の村が魔法生物の標的になりやすかったのもアンシェローから離れていたのが理由のひとつだ。

アンシェローから派遣される戦闘隊員たちが治安を維持してくれているかどうかで村の安全度は大きく変わる。

俺が改変した影響でこの村はアンシェローからの距離に対して不自然なほど安全なことになってしまっているが……。

「でも学校あるよ?」

「うーん……」

現実的に考えて1日や2日で向かえる距離ではない。

学校の休日を利用して都へ行ったとしても手がかりが手に入る保証もない。

「手詰まり……かなぁ」

「そんなことない」

フレイの言葉にレベッカがすぐさま否定を入れる。

「じゃあどうしろってんのよ」

「それを探してるんだろう」

「や、やめなってふたりともォ」

再びケンカが始まりそうになったがトォルが仲裁する。

「とりあえずは、ってこと。またなにか状況が変わるかもしれないだろ」

「じゃあマークをこのままにしておくっていうのか」

「それは仕方ないだろ……数日間こうだったんだろ?」

「そうだけど……」

「安心しなレベッカ。あたしらはいつだって一緒なんだ。途中で投げ出したりしないよ」

「それも……わかってる」

「な。それならいいじゃねぇか。だろ?トォル」

「もちろんだよォ」

トォルは胸とも腹ともわからないとこを叩く。

不安そうな顔を残しながらもレベッカは渋々と了承した。

「じゃあ……マーク。また来るからね」

別れを告げてからみんなは去っていった。

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