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専門家の来訪

数日間は相変わらずの調子で他愛もない話をしに来ていた幼なじみだったが、今日は様子が違った。

「マーク! 大ニュース!」

フレイが来て早々騒がしく張り付いてくる。

「アンシェローの専門家が学校に来たんだよ!」

この間の課題が解決するというのか!?

「話は通してあるから! ここに来てくれるって!」

遅れてあとのメンバーも到着する。

「フレイ、はやい。私が言いたかったのに……」

「早いもん勝ち〜」

不機嫌そうなレベッカを煽るようにフレイはピースサインをつきつける。

「この……」

「ま、まぁまぁ……いつものことだろォ」

フレイに組み付こうとしたレベッカはトォルに諌められる。

「それで、今から来るぞ。そのすごい人が」

何事も無かったかのようにもう一度俺にその説明をしてしたり顔をする。

「んで、いつくんの?」

「もう来るはず」

その言葉通り、草をかきわける音が近づいてくる。

「あら……」

顔を出したのは、落ち着いた雰囲気の女性だった。

「これが噂の……魔法生物、でよろしいのですか?」

「それが……」

フレイはその人に事情を説明する。

「……なるほど。もともと人間だったのに魔法生物になってしまった……ということですか」

「アミィなら何かわかるかも……」

もう1人誰かの声が聞こえる。

「え、誰かいる?」

「あぁ、ちっさくて見えなかったかもしれません」

「ちっちゃくないよっ!」

声を上げて女性の後ろから少年が飛び出てくる。

言葉通りではなく小さい男の子だ。

「これでもこの子も冒険者なんですよ」

「ふふんっ」

得意げに胸を張るがそれが逆に子どもらしい。

みんなも微笑みながらその子を見守る。……信じていなさそうだ。

「えーっと、ボクくん、なんてお名前なの?」

フレイがしゃがみながらその子に声をかける。

「な、なんかすごい子ども扱いを受けている……。ぼ、僕はジェイク。ルルーさんの許で特訓を受けているんだよ」

「へぇ〜そうなんだぁすごいね」

「絶対信じてないっ!」

そう言って手をばたつかせるジェイクはやはり子どもじみているが……腰に着けた短刀や重厚な装備品を見る限り本当に冒険者のようにも見える。

「……今いっくんに言われた通り私はルルーと申します。大切な名乗りのタイミングを奪われてしまったことに関しては後で問いただすとして……」

ルルーさんがジェイクを一瞥すると彼はびくりと肩を跳ねさせる。

「私もいくつか魔法生物と相対する機会がありましたがこのような強大な力を持つ魔法生物はそうそういるものではありません」

「そ、そうですよね……動くだけで周りが大変なことになるからマークは動かないでいてくれるんです」

「……意思の疎通は可能ということですね」

「はい」

「では、腕を上げるように言ってもらえますか?」

俺はその言葉通りに腕を上げる。

上昇気流が発生し、周囲の草花がその身を散らしながら飛び上がる。

「これは……」

「うわっ! 急だねマーク!」

「ルルーさん……」

ジェイクが何か合図のようなものをルルーさんに送る。それを受けてルルーさんはハンドサインを返すと、ジェイクがいきなり俺の身体に何かを巻き付けてきた。

「なっ、なにするんですか!?」

それを見たフレイが驚いた声を出して俺に駆け寄る。

「……規定に則りまして……ある一定以上の危険度を有す魔法生物には討伐命令が出ることがあるのです」

「そ、それって……」

「私はアンシェロー特別遊撃隊部隊長……魔法生物が現れてからは、その駆除を担当している者です」

「ちょ、ちょっと! 専門家って言ったでしょ!」

「えぇ……そうです。プロフェッショナルですよ……?」

そう言ってルルーさんはにこりと冷たい笑みを浮かべる。

「ま、待ってくれ! マークは悪くない!」

「それってあなたの感想ですよね……?」

有無を言わさない雰囲気でルルーさんは腰の剣に手を当てながら俺に迫る。

「何する気!」

「やめろよォ!」

みんなは進行を阻止しようとルルーさんの前に立ち塞がる。

「……ふぅ。子どもたちからの切実な願い、果たしてあげようとしたんですが」

「果たすって何よ! マークを討伐しようとしてるんでしょ!?」

ため息をつくルルーさんにフレイが噛み付く。

「……? 討伐? なんのことでしょう」

「……へ?」

肩透かしを喰らったようにフレイは間抜けな声を上げる。

「……ルルーさん。ちゃんと説明した方がいいかも」

「えぇ。そうでしょうね」

「えっと、どういうこと……ですか?」

「結論から申し上げますと、私たちはこのマークさんに危害を加えるつもりはありません」

「そ、そうなのか」

レベッカがほっと一息吐く。

話してる時にも剣から手を離さないあたり、剣に手を当てていたのも動く時のクセらしいな……。

「ただし、先程述べた通り、このままでは討伐命令が出てしまう可能性があります」

「……というと?」

「マークさんにはアンシェローに所属してもらいます」

「はぁっ!?」

周囲のみんながざわつく。

「あ、あなた本気!?」

「何がですか?」

ルルーさんは平然とした顔で聞き返す。

「魔法生物をスカウトする……ってことですよね?」

「現在、魔法生物が多く、強大な力を持っていることからも私たちだけでは対処が難しいのです。なので、力を持て余しているようならば、役に立って欲しいと思いまして」

「アンシェローの人達は、そんな風に民を利用するの?」

「利用……? ではあなたたちはどうするつもりなんですか? この方をずっとこの村に押し込めて秘匿し続けるつもりですか? おともだちにしておきたいと利用しているのはあなた方の方では?」

ルルーさんは静かながらにみんなが言い返せないほどに鋭い言葉を突き刺してくる。

「ル、ルルーさん、言い過ぎです……」

ジェイクがそのフォローに回るが、みんなの顔は重たい。

「利用なんて……」

「今こうして話を聞かされていることも本意じゃないかもしれませんよ? 本当はこんな姿になってひとりになりたくてこんな場所にいるのかもしれません。それなのに勝手に暴かれて、付き合わされて……」

俺はその言葉を遮るように手を振った。

みんなとルルーさんの間に突風が走る。

「……ふふ、どうやら違うみたいですね」

ルルーさんは妖しく笑う。

「どうです? 大切なみなさんを護るために、その力を使いませんか? アンシェローに所属するといっても都であるフリディリアまで来てもらうつもりはありません。ただあなたには戦う許可を与える必要があるのです」

「マークさん、多分大丈夫だよ。ルルーさん、やることはめちゃくちゃだけど間違ったことはあんまりしないから」

「……ナマイキですね」

その言葉を受けてジェイクは苦笑するが、確かに嘘を言っている様子ではない。

「戦うって……どうなるの? マークは……」

「マークさんに取り付けたのは、通信装置の一種です。これを装着しておけばあなたの居場所は私たちに筒抜け……もとい、どこにいるかわかって安心です」

「おい」

「ごほん、それに加えてこちらから指示を送ることもできますので何か異常事態があった場合にはそちらに向かってもらえれば」

「でも……それってマークは応答できないよねェ?拒否権無しってコトォ?」

「ふふ、それがですね……」

ルルーさんは不敵に笑うと俺の方に向き直った。

「マークさん、心の中で応答、と言ってください」

……言われた通りにしてみる。

『応答』

すると、声が反響したような気がした。

「えっ!」

「おいおいおい!」

みんなは驚いたような声を上げてる。

『一体どうしたんだ……』

「どうしたもこうしたもねぇ!」

『え……?なんで俺の思ったことを……』

「出てんだよ! 声が!!」

フレイが震えた声で叫ぶ。

「発話のできない状況に陥ることは稀では無いんですよ。なのでこの程度の機能を備えた機器は既に開発されています。これを用いればあなたは我々の要請に応答することが……」

『あーもう今は長い話はたくさんだっ!』

「む……ナマイキですね。いっくん、後でおしおきです」

「ええっ!? なんで僕が!?」

とばっちりを喰らったジェイクが愕然として肩を落とす。

『声が出せるなら試したいことがあるんだ! ノーマライゼーションッ!!』

機械音声が周囲に反響するが、特に何も起こらない。……肉声で無ければダメなのか?

「な、なにそれ……」

「……詠唱、ですか?」

ルルーさんが何かに気づいたように呟く。

『知ってるんですか?』

「何人か見ました。魔素を機械を介さずに使うことの出来る……魔法を使える存在。ただの村人であるあなたがなぜ?」

『ただの村人で悪かったな。……いや、今はそうなりたいのか』

少し気に障る言い方だったが今はそんなとこで揉めても仕方がない。

『ひとつ言っておかなきゃならないことがある。みんなもだ』

「そ、そうだよ! なんか様子おかしかったもんマーク!」

「喋れるようになったのなら……教えてもらおうか」

『俺は動けなかったが、お前らの言葉はずっと聞こえてた。お前らの言う通り、俺は別の世界のマークだ』

「やっぱり……」

レベッカは予想を当てたからかやけに満足気な顔をしている。

「……どういうことですか?」

『さっきの……ノーマライゼーションは、"普通にする"魔法なんです。もともとこの村……マロンはこんな平和な村じゃなかった。いつ魔法生物に襲われてもおかしくない、そんな不安定な村だった』

「……言われてみれば、地形的に考えてもこの村がここまで平和なことは違和感を覚えますね……」

「ウィスプみたいに周囲の認知を無理やりねじ曲げたんだろうね……」

よくわかんない話をしているがとにかく俺は自分の話を続ける。

『俺の村は、魔法生物の襲撃を受けて……終わってしまった。みんなも、レベッカも死んで……俺も死ぬんだと思ってた。だけどその時、声がしたんだ。さらにややこしいんだが……結論から言えばその声の主は俺自身で、勝手にその魔法を使ったんだ。そうしたら村は"普通"になって、お前たちも生き返っていた……。でもそのチカラは俺の身に余ったらしく……こんな身体に……』

「そんなことが……だからマーク、あんなに驚いてたんだ」

「でもなんでマークさんの中のマークさんはそんなスキルを知ってたのかな?」

『それが……俺はさらに別の世界の人間が生まれ変わった存在らしいんだ』

「はァ?」

『だからややこしいって言っただろ!』

「……わかりました。とりあえず状況を整理しましょうか」

ルルーさんは冷静に俺の話を聴き始めた。

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