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転生の記憶

「……では、あなたは別の世界の人間が生まれ変わった存在でもあるのですね」

話を聞いたルルーさんは簡潔にそれをまとめる。

「でも、天使サマって、ほんとにいるんだ」

「……この話がせん妄や催眠の類で無ければ、ですがね」

やはりというか完全に全てを信じきったわけではないのかもしれないが、それでも一通りの事情は察してくれたようだ。

「ま、スキルとやらを持っている以上は妄想で終わらせるわけにいきません。おそらく他の特殊な能力を持つ人たちもその……転生っていうのを経ているのかもしれませんね」

『俺以外にもいるのか?』

「噂程度に聞くくらいです。まだ魔法生物が現れてからそんなに長い時を経ていないですからね……」

ルルーさんはちらりとジェイクの方を見る。

なんだか切なそうな顔をしながらジェイクは目を逸らした。

「あの〜……じゃあマークは結局マークじゃないってこと?」

フレイがおずおずとこちらに質問してくる。

『いや、俺はマークだよ。多分環境が違っても俺とお前たちは一緒だったんだろ。昔の思い出とかはそりゃ違うかもしれないけど……それでも俺たちは友達だ。変わらない』

「良かったよ〜!」

フレイは嬉しそうに俺に抱きつく。

「おい、調子に乗るなよ」

「じゃあレベッカも来なよ〜」

「ちょ、おいっ」

フレイに引っ張られてレベッカも俺にもたれかかる。

『なにやってんだよ……』

「マーク、冷たいね」

レベッカが呟く。

『あ、悪い……』

「あぁ、そういう意味じゃない。……しばらくこんな日も当たらないような地面に居させたから……」

俺の身体は確かに冷えていることだろう。

こうしている間も俺自身が熱を発することはなく、彼女たちの抱擁による温かさすら感じることができない……。

『俺は、大丈夫だよ』

無理にでもそう言ってやることがこいつらのためでもあり、俺のためでもあった。

「それで、たかしさんとしてのあなたはこの状況を知ってはいなかったんですよね?」

ルルーさんは少し間を置いてから俺に問う。

『あ、あぁ。まさかもらったスキルを使ったらこんなことになるなんて……』

「その、もらった時の状況について詳しく教えてもらえますか?」

『なんか変なふたり組がいて……金髪の兄妹みたいなやつら。頭に輪っか、背中に羽根があったから多分天使だと思ったんだけど……お兄さんの方はかっこよかったけど妹の方は腹の立つガキだったんだよなぁ』

「口が悪いぞ」

『いやだってほんとに!』

「全く、子ども嫌いじゃ困るからな……」

『なんでお前が困るんだよ?』

「……い、色々とだよっ!」

何故か赤面しながらレベッカはそっぽを向く。

「さて、痴話喧嘩は他所にしておいて……話の続きをきいてもよろしいですか」

『あ、はい……。えっと、そのふたりが俺を何にするかって決めてるみたいで。俺はどんな能力を持っていて、次は何に生まれ変わるのかをそこで決められたんです。それから別室にいた魔女みたいなお姉さんが身体を用意してくれて……そこからはもう記憶を失ってマークとして生まれ変わっていました。その記憶が戻った時ってのは、俺が16の誕生日を迎えた日の夜だった……って感じです』

「嘘はないですね?」

『は、はい……』

ルルーさんはじっと俺を見つめて数秒黙る。

「わかりました。しかしそのチカラはどう抑えたものでしょうか……」

「ねぇルルーさん。アミィにきいてみようよ」

「またあの子の話ですか……」

『アミィってのはなんだ?』

「あぁ……なんでもないです」

「ルルーさん!」

ジェイクは必死そうに訴えるが、頑なにルルーさんはそれを無視しようとする。

『……ジェイク。話を聞かせてくれないか』

「マークさん……!」

「……はぁ。あまりあの子のチカラは借りたくないのですが……」

ルルーさんが額を抑えて頭を振る。……この人がここまで嫌がるなんて、一体何者だ?

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