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アミィの言葉を聞いた皆は、一斉に顔を見合わせる。

「は、はぁ!? さっきと言ってることが違うじゃねェか!」

「そんなことができるというのか!?」

「……アミィ・ユノンのチカラは、何もかも理解が追いつかないものです。悔しいですが、人の身である私にも、彼女のすることには敵いません……」

ルルーさんは本当に悔しそうな顔で絞り出すようにそう言う。

……本当はジェイクに良いところ見せたかったんだろうな……。

『アミィ、詳しく訊いていいか?』

「うん! あのね、ボクが得意な擬態の魔法を使うよ! これを使えばキミは以前の姿に戻ることができるし、その極大なチカラも抑えることができるのであ〜る!あ、でもさっきも言った通り人間に戻るわけじゃないよ。姿だけ、ね」

ふんぞり返って説明するが、今はそれすらも神々しく感じる。

「まさかそんなうまい話があるとは……」

「うまい話だよね〜。だから当然裏があるんだよ?」

アミィは怪しげな笑みを浮かべる。

『な、なんだ?』

「アンシェローには協力してはいけないよ」

アミィははっきりとそう言う。

「く……やはりそれが狙いですか」

ルルーさんは渋い顔でアミィを睨む。

「困るんだよねぇ。ボクたちのチカラを横取りしようとするのは。アンシェローはいっつもそう」

そう言ってカラカラと笑うが、その笑いはさっきまでの無邪気な印象よりも、邪悪に感じられた。

「な、なぁ……アミィは……味方なのかァ?」

「ん〜?味方……味方ってなんだと思う? キミたちの望みを叶えるって意味なら、味方だよ?」

「ボクたちのチカラ、って、そう言ったよな? それはどういう意味だ?」

フレイが拳を握りながら問う。

「あ、失言失言〜忘れて?」

「ふざけるなッ!」

場の雰囲気に合わない発言を繰り返すアミィに、とうとうフレイが憤慨する。

「こ、こいつ……さっきジェイクが言ったのは本当だったんだ! 友だちなんて生易しい言葉で片付けるな! お前は魔法生物の味方なんだろう! だからアンシェローから武力を削ごうと……」

「あのさぁ。キミたちだって、そうだろ」

終始微笑むような顔をしていたアミィが、苛立ったように表情を変える。

「魔法生物は、確かにヒトを殺してまわったかもしれない。でもそれがなぜだか、キミたちにわかるかい?」

「わかるものか! 人殺しの理屈なんて!」

フレイの言葉を受けて、アミィは悲しそうな顔をしてまた少し笑った。

「……そうだよね。ごめんね、みんな」

多分、一番辛いのはアミィなのかもしれない。

彼女がもし本当に魔法生物の側にいる立場なのだとしたら、それを討伐して回るアンシェローは明確に敵であり、それに加わろうとする俺も敵のはずなのだ。

しかしそれを武力を伴わずに会話で解決しようとしに来ている。

アミィはきっと和平の使者としてここに顔を出したのだろう。

「アミィは……悪くないからね」

ジェイクはきっとアミィと何か深い繋がりがあったのだろうか。

励ますようにアミィの頭を撫でる。

ルルーさんはそれを見て見ぬふりをしている。

……多分ルルーさんもアミィを討伐しなければならない立場なのかもしれなくて、この子に優しくできないのかもしれない。

なかなか複雑な関係なんだな……。

「アミィ、お前にマークは渡せない」

きっぱりとフレイが勝手に断りを入れる。

「マークに人殺しなんてさせない」

『おい、アミィは……』

「いいの!」

俺のフォローを遮るようにアミィが叫ぶ。

「ボクは……悪いヤツなんだ。だから、キミを利用しようとしただけ……。ふふ、面白くなると思ったのになぁ〜それじゃ、バレちゃったしボクは消えるね。ばいば〜い」

一方的にそう言うと、アミィは素早く去っていった。

「あいつ……まさか魔法生物の刺客だったとは……」

フレイはそれを見てもまだアミィのことを本当に敵だったと思っているらしい。

「……マークさん。物事の見方は人それぞれです。何を失ったか、どれほど恨んでいるか。それぞれです。だから、あなたが彼女に対して思った気持ちを人に押し付けないことです。あなたがヒトの味方でありたいのならば」

ルルーさんもまた、俺の気持ちを見透かしたようにこっそりそう言ってきた。

「僕からも、お願いだよ。マークさんはきっと、アミィとは逆だから……もしかしたら、魔法生物ともわかりあえるかもしれない……。話が通じる相手だったなら、耳を傾けてあげて欲しい。みんながみんな戦いたいわけじゃないと思うんだ……」

ジェイクは懇願するように俺に言う。

……アミィが守ろうとしていたものは、きっと彼の言うような不本意な戦闘に巻き込まれて人殺し扱いを受けている魔法生物のことなのだろう。

だったら俺は、それに背く理由もない。

『わかった。俺もアミィを尊重する。多分あいつは、苦しんでいたんだろう』

「マークさん……!」

「……まぁ、司令には従ってもらいますが、ひとまず今のことは聞かなかったことに致しましょう」

ルルーさんも暗にそれを肯定してくれたようだ。

「じゃあ、マークさんはこれからアンシェローの特別遊撃隊の傘下に入ることになります。他のみなさんも大丈夫ですか?」

ジェイクが状況を説明する。

「でも、村のみんなは納得するかな……?見た目もやっぱり魔法生物みたいだし……」

「ご心配なく。こちらで適切な軍装を用意致しましょう」

不安がるフレイに対してルルーさんは明確な答えを用意する。

「でもよォ……それってやっぱりマークは危険な戦いに参加するってことだよなァ」

「彼にはどんな攻撃も届きませんよ。それほど強大なチカラを持っています」

トォルの疑念さえもすぐに解決する。

どうやらもう俺にはそれ以外の選択肢は無さそうだ。

『ルルーさん、今一度頼みます! 俺をアンシェローの隊員にしてください!』

「……おかしな人ですね。そうすると言っているじゃないですか」

『あ、いや……その、雰囲気っていうか、決め台詞っていうか……』

「私の部下になった以上は、甘いことは言わせませんからね」

とんでもない人の部下になってしまったかもしれないな……。

「マークさん……ルルーさん部下からはほんっとに恐れられてるから……ね」

なんで今更そういうこと言うの。

「ではマークさん。何かありましたら連絡致しますので、この付近の魔法生物の掃討に励んでくださいね。待遇につきましては明日までに色々と用意致しますので今日はこのままここで過ごしてください」

用件を伝え終えると、ルルーさんはくるりと後ろを向いて去っていった。

「じゃ、じゃあみなさん……ありがとうございました」

ジェイクがぺこりと頭を下げてルルーさんについていく。

「……行っちゃったね」

「でも、まさかマークが政府直属の討伐隊になるなんてなァ……」

『俺だって信じられない。色々とありすぎたな……今日は』

「喋れるようになったのすら驚くべきことだったからな……」

激動の時間に疲れ果てたように皆がその場に立ち尽くす。

数分の沈黙の後、別れを切り出して皆がそれぞれ帰路についていく。

アミィの提案を受けていた方が、俺たち幼なじみにとっては良かったのかもしれないよなぁ……。

そんな過ぎたことを思いながらも、明日にルルーさんが準備している何かに備えるためにも意識を手放した。

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