「……今、なんとおっしゃいましたか?」
ルルーさんの冷たく低い声が響く。
『……ですから俺は、魔法生物を倒すことに反対です』
ルルーさんに会いに来た俺は、宿を訪ね開口一番そう切り出した。
「出会い頭にそんなことを言われても混乱しますが……何でしょうか。そういうお年頃ってことですか?」
『違いますよ! フィーナを見てください。魔法生物にだって心がある! それなのに勝手に決めつけて殺していいわけがない!』
「あぁ……なるほど」
ルルーさんは俺の熱弁を受けても顔色ひとつ変えずに頷く。
「勘違いしているようですが、私たちは別に虐殺をしているわけではないですよ」
『え?』
「魔法生物の中には有用なものもいる。それ自体は否定しようのない事実です。それどころか今となってはありとあらゆる生物が魔法生物になりかわっているわけですから……その全てを駆除というわけにもいかないでしょう?」
『それはまぁ……確かに』
「おそらくですが、人類も遠くないうちにそうなりますよ。その先駆けがあなたのような……転生者として現れたのかもしれません」
『じゃあ……』
「そうですね。あの……アミィの言うことも間違ってはいません。ただし私たちがそれを決断する権利もまた無いのです。所詮はお役所仕事。私がどれだけアミィに肩入れをしたとしても人類の重鎮が魔法生物との共存ではなく家畜化を目指すのならば、みんな仲良くとはいきません。その時に……親しい間柄の友人を虐げることになるくらいなら……」
「ルルーさん……」
「……このこと、いっくんにはあまり言わないでください。私がアミィ・ユノンのことを大っぴらに認めてしまうと、もしもの時に……斬れなくなるんです」
『それは……』
「いえ、私だって斬りたくはないですよ。……しかし、これでも私はフリディリアの中枢機関アンシェローの所属。司令があったならそれもありえない話ではないということです……」
ルルーさんにも事情がある……それはわかってはいるのだが……。
『ルルーさんも……大変なんですね』
「今の時代、誰だって大変ですよ。それを認めながら生きるしかないんです」
『それは確かに……』
「ですから、あなたも敵に情けをかけている暇はないということです」
『……はい』
「……と、言いたいところですが。あなたは別に隊長でもなんでもありませんから、それに遵守する必要もありません」
『それって……!』
「私から言えるのはそれだけです」
そう言ってルルーさんはまたヘタクソなウインクをしてみせる。
この人も話より随分甘いよな……。
『生意気なこと言いました。全部の魔法生物が悪くないわけでもないですしね……。それを見極めるためにも、もっと経験を積まないと……』
「期待していますよ。あなたは特別ですから」
そう言って俺の肩をぽんと叩くとルルーさんは部屋に戻って行った。
『特別……か』
普通になりたかった。それだけだったのにな。
変わり果てた自分の身体を見回し、ひとつため息を吐いた。