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ガレフへ

ガレフには、多くの魔法生物たちが潜んでいる。

それ自体は別に悪いことではない。

言うなれば魔法生物たちにも俺たちと同じような暮らしがありある種の生活を営んでいるわけだ。

だから、冒険者たちがガレフに進行し、宝を奪いに行く行為は略奪に近い。

アミィが忌避しているのはその部分だろう。

彼女も人間に迷惑をかける魔法生物に対してはどうすることもできないと思っているだろうが、人間がそれと同じことをするな、と。そう言いたかったに違いない。

「では、頼みましたよ」

呼び出された宿屋にてルルーさんが俺に真剣な眼差しを向ける。

『……はい』

それをわかっていながら、今回俺はガレフに潜ることになる。

一体そこがどういう環境で、どんな生命が育まれているのか。それを見定めなければ……。

「アミィの言ったことならば、あまりお気になさらずに。ガレフに生息する魔法生物には意思疎通の可能な種はそこまで多いわけではありません。襲われたら、簡単に命をくれてやるわけにもいかないでしょう?」

『では……俺たちが干渉しなければ相手も被害を被ることはないのでは?』

「それは確かにそうですが、だからといって魔法生物の蔓延る場所を放置しておくわけにもいきません。共存というのは完全な平和が保証された時にしか成立し得ないのです。逆にいえばどちらかが脅威と感じたならば、互いにそれを弾圧しなければならないこともあります。見逃してやる、などというのは完全なエゴです。余程余裕がある時にしかそんなこと言っていられませんよ。そもそも……」

『ああっ……その、すみません。わかりました』

またルルーさんの長い話が始まってしまいそうだったのでとりあえず話を切らせてもらう。

「……まぁ、気をつけてくれたらそれで良いです」

『それで……ガレフにはどうやって移動を?』

「ここからそんなに離れていませんので徒歩で移動してもらいます」

『そんなこと言ったって……普通に数十キロはあるとききましたよ?』

「あなたの身体ならば大した距離ではないでしょう?」

ルルーさんはあっさりとそう言う。

『え、俺チカラ解放してもいいんですか?』

「ガレフの中ではそのチカラは大いに役に立つでしょう。あなたをスカウトした理由ももちろんそのチカラですから。あまり生態系に甚大な被害を与えさえしなければ大抵のことは大目に見ましょう」

いいのかな……。

「あ、でも人里から一キロは離れたところで解放してくださいね」

流石にそうしないとまずいか。

『じゃあ、行ってきますよ。……と言っても何をするのかイマイチわかんないんですけどね』

「それに関しては到着後にお話しましょう。外套をはずしてもその首輪だけははずしてはいけませんよ」

『わかりました』

「では後ほど」

ルルーさんに軽く会釈して俺はその場を後にした。



『さて……』

村から出て徒歩で歩くこと数十分。流石にもう見回す限りには人里は見えない。

『えー……マークです。今からこれはずすんでよろしくお願いします』

『了解しました。お気をつけて』

通信機を介してルルーさんの応答が聞こえたのを確認して外套をはずす。

『ぐ……っ!』

久々にチカラが開放されると、自分の内から湧き上がるとてつもない魔素に身体が弾け飛びそうになる。

深呼吸をしてそれを抑え込む。

息を吸って吐く度に周囲の草花が吹き飛んでいく。

『うぅ……ああああぁぁああぁあ!』

俺を中心として円形に地面が抉れて剥き出しになる。

『……ちょっとこれ、加減とか考えてる場合じゃないかもな……逆の意味で』

自分が強すぎる。これでは脅威と思われても当然かもしれない。

『……ふぅ、仕方ないか』

俺は掴んだままにしておいた外套を再び羽織る。

『……えー、こちらマーク。あの、やっばりあれつけておきます』

『どうしてですか?』

『話し合いが通じる相手にはこの姿は刺激が強すぎるからです』

『なるほど。飽くまであなたは対話をしにいくのですね』

『申し訳ないですけど、とりあえずはこのまま行かせて欲しいです』

『わかりました。身体は丈夫なままですので死ぬことはないでしょうが、もし危なそうなら迷いなくその外套を外してくださいね』

『ありがとうございます。それではまた』

通信を切ってから、移動手段をどうするべきかと思い出す。

『あー……流石に遠いよな』

そう思ったところで、後ろから声が聞こえてきた。

「おぉ〜い! ご〜しゅじんさまぁ〜!」

『この声は……!』

後ろを振り返ると獣の姿をしたフィーナが走ってきた。

「置いてっちゃうなんてひどいですよぉ! オレだって今まで村を護ってきたんですからねぇ〜!」

そしてあっという間に俺の前までたどり着いてしまう。

『来ちゃったの?』

「オレはいつだってご主人様にお供いたしますよ!」

『ありがたいけど……危ないからなぁ』

「いいんですよっ! 今まで散々危ないこと乗り越えてきましたから!」

フィーナは牙を見せて笑った。

『まぁいいけど……今ちょっと問題があってな』

「あ、なんとなくわかりましたよ? 足が無いんですね!」

『察しがいいな』

「それなら丁度良いじゃないですか! オレに乗ってください!」

『え、大丈夫?』

「ホネと皮でできたご主人様なんてわけないですよ!」

そう言って頼もしく笑うがちょっと煽られてる気もするな……。

『お前がそう言うなら頼むよ。実は結構困ってたんだ』

「おまかせあれ!」

乗るように背をみせるフィーナに応えてゆっくりと跨る。

「うおっ」

『だ、大丈夫か大丈夫か?』

「ちょっとびっくりしただけっす! さぁ〜行きますよ〜!」

フィーナはすぐさま体勢を整えると走り出す。

風を切って景色がどんどん後ろに流されていく。

『速いなお前!』

「伊達に草原駆け抜けてないですからねっ!」

地平線の先が、唐突に無くなる。

『あっ! まさかあれが……?』

「見えましたね! ガレフの大穴です!」

実際に目の当たりにすると、それは大穴というにはあまりにも大きい。

もはや穴なんて言葉では片付けられないくらい大きなものだ。

『え……これ、どこからどこまで?』

「ん〜とにかく大きいですね」

『向こう岸も霧で見えないし穴の中もほとんど見えない……』

「準備は良いですか?」

『お、おうっ!』

怖気付く気持ちを抑えつつ、気合いを入れるべく一声吠える。

果たしてこの先に待つものは……。

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