目の前にいたのは軟泥状の身体を持つ生物……のようなものだった。
動き回っているし時折地面から何かを吸収するような素振りを見せていることから生きてはいるようだが……。
『あいつのことは知ってるか?』
「おそらく、ゲルゲルかと。あまり脅威となる魔法生物ではありませんが、その身体に取り込まれるとすごくもにゅもにゅされてしまうのです……」
『なんだよもにゅもにゅって……』
「あれは……その……ヘンになるから……やです……」
『…………』
ちょっと、見てみたいかも〜……。
「とにかく! 対象を襲うという点では留意した方が良いですね!」
『わ、わかったよ。じゃ、近づいてみるか……』
警戒しながらゲルゲルの前に出る。
こちらに気づいたようで、ドロドロの身体の中に浮かぶひとつの球体が瞳のようにこちらに向く。
「うひぃ……なんかきしょい……」
『ひとまずは様子を見よう。攻撃する意思がないのならば戦う必要もない』
「えぇっ! こんな近くまで来てから言うことじゃないですよぉっ!」
フィーナの言葉通り、ゲルゲルは既に目前にいる。だが襲いかかってくるような気配はまだないのだ。
『あれ……? 大丈夫か?』
フィーナの方を見ると、彼女もまた警戒はしつつもゲルゲルが襲って来ないことに少し驚いている。
「な、なんででしょうか……」
よく見ると、ゲルゲルは小刻みに震えている。
『こいつ……もしかして、俺が怖いのか?』
「それは流石に……」
『わっ!』
「ひゃんっ!」
俺が急に大声を出すとフィーナが飛び跳ねる。
それと同時にゲルゲルも噴水みたいに飛び上がった。
「きゅ、急に大声出すのはナシですよぉっ!オレの耳はビンカンなんですからっ!」
『いや、でも今のでわかった。こいつは完全に俺にビビっている!』
「そ、そうなんですか?」
『見た目は単細胞生物なのにしっかり考えられるんだなこいつ……』
だが話すことはできなさそうだし器用さもなさそうなので結局はあまりやれることは無さそうだが……。
「ほら、もう行きましょうよっ! はやくはやく!」
『おい押すなよ……』
ゲルゲルとはよほど関わりたくないらしく、フィーナは俺を無理やり押し進めさせた。
『でもこの調子なら俺に襲いかかってくるやつなんていないんじゃないか?』
「どうでしょうねぇ。見境なしなのもいますよほんと。オレはね、特別強いわけじゃあないんでそんな風に恐れられたことはないですけど、他にも恐ろしいやつはいて、そんなやつにも無闇矢鱈に噛みつきにいくやつを知ってます。あまり過信しないことですね」
『肝に銘じておくよ』
「あっはは」
普通に返したつもりだったけどいきなり笑われてしまった。
『え、なに?』
「いや、無いじゃないっすか!ふふ……!」
『お前〜!』
「きゃ〜!」
敵地であるというのにおちゃらけた雰囲気になっている。気を引き締めねば……。
『ん、さて。進もうか』
「はぁい」
最初から戦闘は回避出来たもののこの先がどうなっているかわからない。
気をつけながら進もう……。