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チート疑惑

『ナビを終了します』

ナビの示した先には洞窟がぽっかりと大きな口を開けていた。

『え、この規模の洞窟が出たり消えたりするの?』

「そうなんですよね」

『不思議〜』

「それで、どうしますか? 準備は大丈夫そうですか?」

『ここまで来て帰るってのはないよな』

「では!」

フィーナが人の姿に戻る。

『よし、行こうぜ!』

俺たちは洞窟の中に足を踏み入れた。

数秒の後、入口は魔法陣で封をされる。

入った直後は暗いが数歩のうちに周囲の景色が認識出来るようになった。

『これは……』

一定間隔で響く水音、青空に愛らしい声を上げて飛ぶ白い鳥、そして目の前に一直線に伸びている通路は砂浜だった。

『海だ!』

「な……なんか、ヘンなニオイがしますね」

『俺は磯のニオイも感じられないが、それこそが海の象徴だよな』

「この地面も、なんか靴の中に入ってきてじゃりじゃりしますよぉ……」

どうもフィーナは海は慣れていないようで困惑したような顔をしている。

『前に海もあるなんて言ってたじゃないか』

「何回か来たことはあるんですが……ヒトの姿で来たことはなかったですよ」

『まぁその格好じゃあね』

フィーナはショートパンツとスニーカーという動きやすい格好をしているものの、獣の姿よりも運動能力で劣るのは明らかだ。

『ヒトの姿のままでもメリットがあればな……』

「そ、そんなこと言わないでくださいよぉ……」

露骨に悲しそうな顔をされたので深く言及しないことにしておいた。

『それにしてもこんな開けた感じなのにちゃんと前のダンジョンみたいな配置になってるんだな』

まっすぐに伸びる砂浜なんて普通じゃあまり出来ないカタチだ。以前のダンジョンよりも見晴らしがかなり良いので点在するネストもいくつか見えている。

ネストも砂浜でできているので大小様々な小島が繋がっているようにも見える。

『でもこれ泳げるのかな』

「泳ぐことはできるかもしれませんが程遠くない距離で壁にぶつかると思います」

『まぁそうだよな……』

というか泳げたところで水棲の魔法生物の餌食になるだろうけど。

『まずは目の前のネストを目指して歩くか』

「わかりました!」



少ししてネストが目の前に迫る。

背の高く細長い木が二本生えている。

それの前に二匹の魔法生物が座り込んでいる。

『なんだあれ』

魔法生物たちは水に適したようなてらてらと反射する灰色の身体を持ち、手はヒレに、足は尾ヒレになっていた。

「ちょっとカワイイですね」

フィーナがくすりと笑う。

『……そういえばさっきノーフのアイコンに便利そうなモノが……』

"スキャン"と書かれたアイコンを選ぶと、カメラが起動する。目の前の魔法生物にかざすとその情報が表示された。

『アザラカ……のんびりとした性格ながら強靭な外皮を持つため生存能力が高い。その巨体は水中では俊敏に泳ぐため狩猟能力も高い……なるほど。見た目はあんなだけど結構すごいやつらなんだな』

「のんびりした性格ってことは、こっちには攻撃してこないですかねぇ?」

『いや、狩猟の対象と見られたらまずい。警戒はしておくべきだ』

「わかりました……!」

俺たちは警戒しながらゆっくりとアザラカに近づいていく。

やつらも俺たちに気づいたようで、首を持ち上げながらこちらをじっと見つめる。

いきなり両者ともに手を叩き始めた。

「えっ! な、なんですか?」

『わからん……』

歩みを止めて様子をうかがうも、あちらからこっちは何かしかけてくる様子はなさそうだ。

「なんだ、なんにもないじゃないですか」

フィーナが胸を撫で下ろしたと思ったら、いきなりその姿が消えた。

『フィーナ!?』

隣を振り向くと、海の中に沈んでいくフィーナの足が見えた。

「がぼごぼぼ……」

水面に泡と飛沫を立てながらフィーナがもがいている。

『おい大丈夫か!』

フィーナは頭から何かに水中に引きずり込まれているらしく、足をばたつかせているものの顔が上がってこない。

『これはまずい……』

急いでフィーナの足を掴み引っ張る。

しかし強い力で引き返されてなかなか上げられない。

『外套をはずしたらフィーナの足がちぎれてしまいそうだ……どうしたら……』

迷った挙句に、俺は外套を脱いだ。

「あああああぁぁぁああぁぁあああっ!!」

フィーナを引っ張るのではなく、水面に思い切り拳を打ち付けた。

爆音を上げて海が空中に浮かぶ。

周囲のネストも巻き込んで、あたりから一瞬全てが消えた。

砂浜も海も空に舞い、雨のように降る。

海の中や砂の中にいたであろう魔法生物たちもぼとぼとと落ちては砂や水に埋もれていく。俺もこのままだと埋もれてしまいそうだ。

空中にフィーナを見つけたので飛び上がってキャッチする。

「ご、ご主人様……!」

フィーナを受け止めた後も俺の身体は上昇を続ける。

打ち上げた周囲のものが落下し終わる中で、ようやく俺の身体は上昇を止めた。

『衝撃に備えろよぉ!』

「ちょ……ちょ、ちょっと……やだ! やだやだやだやだっ!!」

やだといわれても仕方ない。落下は加速度を受けてさらに速度を増していく。

「い、やあぁあぁあああぁぁああっ!!」

悲鳴を上げ続けるフィーナの身体は飛んでいってしまいそうなくらいだがなんとか固定して吹き飛ばないようにする。

ようやく地面が近づいてきたので着地の姿勢を取る。

フィーナに負担をかけないように注意を払いながら足でしっかりとその衝撃を受け止める。

周辺の地面は再び吹き飛ぶが、俺たちはなんとか地面に着地する。

『……ふう』

片手に握りしめておいた外套を再び羽織りフィーナを下ろす。

「ふうじゃないですよおぉぉおっ!!」

涙とヨダレでべしゃべしゃの顔のままのフィーナが俺の身体をぽかぽかと叩く。

『おいおい。溺れそうになってただろ』

「助け方がダイナミックすぎるんですよぉ!」

周囲を見回すと、もはや迷宮はその姿を完全に変えてしまっていた。

各地のネストや通路はもはや元の姿を見る影もなく散らばり海の中に盛り上がった砂浜が無造作にあるのみとなっていた。

『やりすぎたかなぁ……はは』

「やりすぎだねぇ!!」

俺の言葉を肯定するような声が急に聞こえる。

『え、今のフィーナ?』

フィーナの方を見るとふるふると首を横に震る。

「も〜!これじゃあ迷宮も何もないでしょ! 全部台無しだよっ!」

いや、やっぱり聞こえる。

『おい誰だ!』

「おろろ、ボクのこと憶えてない?」

『憶えてないというか姿が……いや、その声、喋り方、まさか……!』

突然空から少女が現れる。

「はぁい! 呼ばれて飛び出て、アミィちゃんだよ〜!」

そこにいたのはジェイクとともにいた、あの魔法生物と関わりのありそうな少女だった。

『……いや、呼んでねぇし』

「まぁそうだけどね」

アミィはあっさりと認める。

「はい、今回なんでボクが現れたか、わかる?」

『え、知らないけど』

「キミに悪気が無いことはわかっているんだ……だから、今回は警告で済ませるよ」

アミィが表情を曇らせながら言う。

「あのね……ネスト壊したらだめでしょ〜!! セオリーってものをわかってない! 漫画やアニメの主人公たちが削岩機持ってダンジョン進む? 魔王城をロケットランチャーで吹き飛ばす!? そんなことしないでしょっ!」

『それはそうだけど……って、お前、なんでそんなもののことを……』

「とにかく! ダメったらダメなの!」

重要なことなんだけど……口を挟む隙もなさそうだ。

「というわけで! キミは今回ペナルティを受けてもらいま〜す!」

『は? 警告って言ったよな!?』

「やっぱ気が変わったの〜」

というかそもそもなぜアミィが出てきてそんなことを告げるのかわからない。

「ちょっと待ってくださいよ! ご主人様はオレを助けるために……」

フィーナが俺をかばって前に出る。

「それで? 助けるためにダンジョンぶっ壊したの?」

「それは……」

「あのねぇ。理由は関係ないんだよ。ガレフに来たからにはしっかりルールに従ってもらわないとさ」

『それだよ。ルールってなんだ? そもそもなんでアミィが出てきてそれを言うんだよ?』

「それはボクがアミィ・ユノンだからさ」

『答えになってないだろ……!』

「まず! ガレフに来ちゃうからにはキミたちヒトもひとつの生態系として入ってもらってます! ダンジョンの中の魔法生物を狩りにくるからには狩られる役にもなってもらってるんだよ。ここまでわかる?」

『それはわかるけど……』

「キミはズルい! その身体じゃ絶対負けないしダンジョンのカタチも変えちゃうし!」

『そんなこと言われても……』

「だから、奪っちゃいます」

『は?』

アミィが手を前にかざす。

『お、おいおい! 何しようとしてんだよ!』

「キミのチカラは強すぎる。だから修正しちゃうんだよ」

『なんだよそれ……お前なんなんだよっ!』

「アミィ・ユノンだけど?」

何食わぬ顔でそう答えるこいつには、もう何を言っても無駄だと思った。

「チーター……って、キミならわかるでしょ? 最近多いの。誰かが手引きしてるんだろうけどさぁ。せっかく上手く調整してるんだから水を差さないでほしいよね」

まさかこいつ……あの天使たちのことを言っているのか……?

「また挑戦してよ。今度はしっかりキミの実力でさ!」

アミィの手から光が放たれると、周囲は全てその光に包まれていく。

『わっ……な、なんだよこれ』

「眩しくて……なにもみえないです」

「じゃ、まったね〜」

その声を最後に俺の意識は途切れた。

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