ノーフを用いて迷宮を探す。
「お、近くにあるじゃん」
最寄りのマークを選択すると、情報が表示される。
今回の迷宮もまた海の環境らしい。
「リベンジ、すっか!」
「今度は引きずりこまれないようにしますから!」
海の中にも魔法生物がいることを意識していなかったのが悪かった。
今回はそこらへんを警戒しつつ進めばなんとかなるだろう。
ナビの示す場所まで走り、洞窟を見つけた。
「準備はいいか?」
「行けます!」
揃って洞窟に足を踏み入れた。
「やっぱり前の場所と似てるな」
見渡す限りの海に、直線に伸びた砂浜。それにより繋がれたネスト。シンプルながら油断ならない場所だ。
「部分的には前の場所と同じネストもあるかもしれませんね。吹き飛びましたけど」
「もうあんなことにはならないから……」
「でもあんな風に攻略するのは許されてないんですね。ルールが提示されてるわけでもないのに……」
「なんというか、全部アミィの手のひらの上って感じで気に食わないよな」
「ヒトを滅ぼす、とか言い出さないだけ良いとは思いますが……」
それもそうだな……。
「とりあえず進もうか」
周囲の海にも気を付けながら進んだ。
ひとつめに突き当たったネストには、背の高く細長い二本の木が伸びており、その根元には二頭の……。
「いやこれ多分前のとおなじネスト!」
アザラカ二頭がまた同じ位置にいるのだ。
前回はあいつらに気づかれて手を叩かれるとフィーナが水中に引きずり込まれた。
なんらかの方法でそれを行ったのだとすればあいつらには明確に敵意があるということになるが……。
「あ、見てください!」
アザラカはこっちに気づいたらしく、首を伸ばしてこちらを見る。
そしてそのまま手を叩き始めた。
「くるぞ!」
周囲を見回すと、水面に泡が立っているのが見えた。
「危ないっ!」
俺は咄嗟にフィーナを抱きなが跳躍し、そのままネストに滑り込んだ。
俺たちのいた場所に太い触手が叩きつけられる。
そのまま立っていたらどちらかは水中に引きずり込まれていただろう。
「危なかったな……」
フィーナをちらりと見ると、顔を赤くしながら俺の方を凝視していた。
「ありがとうございます……!」
お礼を言いながらもフィーナは鼻息荒く俺に抱きついたままだ。
「おい、もう離れてくれよ」
「あっ……はい……」
フィーナは慌てて手を離した。
「それよりあいつらだ……あいつらがアレを呼んだんじゃないのか?」
ニコニコと目尻を垂らしながらこちらを見つめているアザラカを睨む。
「あ、でもノーフの説明にはそんなこと……」
「二度もだぞ! 何かヒミツがあるに違いない!」
俺たちはジリジリとアザラカに近づくが、しかしアザラカたちは逃げる様子も見せない。
笑ったような表情を崩すことも無くただこちらを見つめている。
「なんだよこいつらの余裕は……」
何か策があるとかそういうのじゃない。
純粋な目線が俺たちに突き刺さっている。
「こ、こんなの攻撃できないっすよ……?」
フィーナも狼狽えてしまっている。
「まぁ待て、これがこいつらの作戦だとしたらどうする?」
「作戦ですか?」
「油断させてこっちを攻撃しようって魂胆かもしれないぞ」
「なんと卑劣な!」
フィーナはアザラカに近づいていく。
「あんたらの魂胆はわかってますよ! ほら、正体を表しなさ〜い!」
正面までちかづいてアザラカを挑発しているが、それでもアザラカは動かない。
「なんなのこいつら……」
するといきなりアザラカがまた手を叩き始めた。
「はっ!」
後ろから再び触手が見える。
「こいつぅ! やっぱり呼んでるんだな!」
アザラカの手を掴んで叩くのをやめさせようとする。
しかしその手のチカラは強く、止まることは無い。叩いてるところに手を入れたら痛い目を見そうだし……。
「……でもさ、触手がいくら頑張ってもここまでこられなくない?」
「あ! そうですね! や〜い!」
フィーナが煽ったせいなのか、ざばりと音を立てて触手の根元から大きな何かが浮かび上がる。
「うげげっ!」
それは多くの触手を携えた軟体のバケモノだった。
「なにあれ……オレ触りたくねェっすよ!」
フィーナが弱音を吐くのもよくわかる。
てらてらと艷めく身体は不気味な色合いで、それがぐねぐねとそれぞれが別々の動きをしている。
「くそっ! アザラカたちめ! 厄介なやつ呼びやがって!」
俺がアザラカの方を見ると、さっきまでのニコニコ顔はどこへやら、険しい表情に変わっている。
「はっ?」
アザラカたちはそのグネグネのバケモノに向かって突進していく。
「なんだよこいつら! 俺たちの時とは全く顔つきが違うぞ!?」
「今のうちにスキャンをしてみてください!」
フィーナの言う通りにグネグネをスキャンしてみる。
「えーと……テンタコー……触手を用いて獲物を捕縛して海に引きずり込む……。アザラカとは敵対関係にあり、狩りの邪魔をし合ったり決闘したりする……」
「えっ! じゃあもしかしてあの拍手って……」
「俺たちに合図を出していたってことなのか?」
「アザラカたちは俺たちを守ろうとしてたんすね……!」
今もなおアザラカたちはテンタコーに突進し、頭突きを繰り出している。
柔らかい身体にはあまり効き目はなさそうだが……。
「どうしましょう……手を貸すべきですかね?」
「縄張り争いなら別に放っておいて移動しても良さそうだけど……アザラカには敵意はなかったしこのままやられるのを見ているのも嫌だな」
「じゃあ助けましょうよ!」
「そうだなぁ……テンタコーがどれだけ強いかわからないけど、戦闘を重ねるにはいい機会かもな」
「では!」
俺たちは戦う覚悟を決めてテンタコーを見据えた。