翌朝、目を覚ますともう既にフィーナは着替えまで済ませていた。
「ふぁ……おはよう。早いなお前は」
「遠吠えをすると起こしてしまうので我慢しておきましたよ」
「それはありがたい。連日壁を叩かれるのは嫌だからな」
まだ日が昇って間もない時刻だ。
今日こそダンジョンを攻略するために、店に寄って装備を整えて……それからルルーさんに連絡しよう。
寝起きから準備を整えて廊下に出る。
「あ……おはよう」
そこにはパジャマ姿の眠そうなカルアがいた。
「またお前かぁ〜!」
狙ってるんじゃないかってくらい毎回カルアと鉢合うな……。
「はっ……! フィーちゃん……やっほ」
フィーナを見つけたカルアは三度となるそのセリフをフィーナに投げかける。
「はいダウトー! お前ちょっとはセリフ変えろ!」
「ぎ……ぎく……」
俺が指摘してやると、何故か動揺を口に出しながらカルアがたじろぐ。わかりやすいやつだ……。
「どうせお姉ちゃんも近くで見てるだろ! おーいアビー!」
「み、みてないわよっ!」
俺が適当に声を上げると物陰の方からアビーの声が聞こえた。
こいつもわかりやすいな……。
「はい、バレてるから。集合」
アビーはしぶしぶといった様子で顔を出す。
「たまたまよ! たまたまいたの!」
「三度目だぜ」
「く……」
わかりきってるのにやけに抗うな……。
「べ、別にオレ、怒ってなんかないですよ? むしろ声掛けてきてもらえて嬉しいですし……」
「フィー……ちゃん……!」
カルアが嬉しそうにフィーナの手を握る。
「あー……いや、手を握ることに関しては……」
「……いや?」
カルアがねだるようにフィーナの顔を覗き込む。
「いやじゃねェっすけど……」
フィーナも突っぱねることはできずに恥ずかしそうに曖昧な返事をする。
「さ、そろそろ寝るわよ……もうあたし限界」
アビーがあくびをしながらカルアに撤収指示を出す。
「ん……眠い……寝る」
そう言いながらカルアは部屋に戻ろうとしたがフィーナの手を握ったままなのでフィーナはずるずると引きずられていく。
「おーっい! そいつは返せ!」
「……バレた」
カルアは悔しそうな顔をする。
「当たり前だろ……っていうかお前も抵抗しろよ」
「いや……なんというか、断りづらくて……」
気持ちはわかるが……。なんかカルアの雰囲気には色々と流されてしまう。
「フィーちゃん……今日もがんばって、ね」
カルアはやわらかく両拳を構えてフィーナを鼓舞する。
「あ……はい! がんばりますよっ!」
根は良い子なのもしっかりわかるから余計にな……。
「じゃあ俺たち行くから。おやすみな」
「……ん。おやすみ……マーク」
「お、名前覚えてくれたんだ!」
「……しらない」
そう言うとカルアは逃げるように部屋に入っていった。
「はは、あいつも意外とカワイイとこあるじゃん」
俺がそう言うとフィーナがじとっとした目でこちらを見ていた。
「な、なんだよ」
「べつになんでもないですよ〜」
拗ねたみたいな言い方をしてさっさと行ってしまう。
「ちょ、待てよぉ」
朝から慌ただしく宿を下った。
「お、早いですねぇ。何か必要なものがあるんですか?」
ビニィさんの許を訪れると、早朝にも関わらずビニィさんは棚を整理しながら爽やかに汗を流していた。
「ビニィさん、ここって武器とか防具はあるんですか?」
「もちろん! なんだってありますからね! 何が欲しいんですか?」
「えぇと……」
俺は今必要なものをリストアップしておいたのでそれをビニィさんに伝えた。
「え……? そんなにですか」
「色々と使い方が変わるんです。なので……」
「わかりました。ご用意しましょう」
ビニィさんはすぐさまそれを揃えてくれた。
「ご主人様、これオレのですか!」
フィーナはそれを見て嬉しそうにシッポを振る。
「丸腰で戦わせててごめんな。あれじゃあ戦いもクソもねぇもんな……」
「でも、こんなにたくさん……」
フィーナに宛てたのは数種類の武器だ。
それぞれの形態に合わせたものを用意したので数は多くなった。
「持てそうか?」
「それは全然大丈夫ですっ! でも……」
フィーナはお金を使ってもらうことを申し訳なく思っているようだ。
「だからいいんだって。逆にもっとなんでも買ってやりたいとこだぜお前にはよぉ」
「えへへ、そんなことないですよぉ」
照れくさそうにしているが決して驕らない。こいつの良いところだ。
「じゃあビニィさん、これ全部お願いします」
「ありがとうございますっ!」
ビニィさんは素早くそれらを包んでくれた。
「また来ますね」
たくさんの装備品を抱えて俺たちは一度宿に戻った。
「よし、こんなものか」
今買った装備品をお互いに付けてみる。
形態変化した時に邪魔にならない大きさ、位置に着目して構想を練っておいたのでおそらくばっちりだろう。
「んーっ……ここ、ちょっとキツい……」
そこがそんなに出てるのはちょっと予想外だった。
「ともあれ大丈夫そうだな。よし、今度こそしっかりダンジョンに挑めそうだ!」
「ですね!」
ふたりで気合いを入れると俺たちはタセフィ区へと繰り出していった。