平原に出て早速ルルーさんに連絡をとる。
「あー……すみません。ルルーさん、こちらはマークです」
『……おはようございます。そちらから連絡をしてくるということは何か緊急の要件ですか?』
「あ、緊急ではあるんですがぁ……昨日のことでもありましてぇ……」
『はっきりしないですね。何があったんですか?』
「それが……俺、カントリカントになっちゃいました」
『は?』
「いやその……」
『フィーナさんと交際したってことですか?』
「あいや、そういう比喩的な意味ではなくて……」
『……ちょっと待ってください』
通信が切れてから数分後、ルルーさんが転移魔法でこちらにやってきた。
「お待たせしま……」
俺の姿を見て言葉ごと固まる。
「あ……はは……」
ルルーさんは頭を抱えながらようやく動き出した。
「その……意味がわかりません」
「えっとですね……アミィにやられました」
「あっちについたんですか!」
アミィの名を聞いてルルーさんは噛みつきそうな勢いでこちらに問い詰める。
「あ、いや……そうじゃないです」
「では、なんですか?」
「強すぎるからダメだって……」
「詳しく教えてください」
俺はあの日のことをルルーさんに説明した。
「……ダンジョンをぶっこわしたんですか?」
「えぇ、まぁ……」
「正攻法以外で挑むとペナルティありの強制退出……これは新しいデータですね。再現性は低いですが……」
「でもこの身体、ガレフの外に出ると戻っちゃうらしいんです。ダンジョンの中にある秘宝には人間に戻れるようになるのもあるんだとか言われて……それを探したいです」
「なるほど……しかし、あなたを雇った理由はあの身体の強靭さを見込んでのことです。外でそれが発揮できるのならガレフから這い出てくる魔法生物の迎撃にあてた方が有益ではないかと思いませんか?」
「それは……」
俺が返答に困っていると、ルルーさんが少し笑いながら肩を叩いてくる。
「冗談ですよ。あなたがここでそれを探したいというのなら止めはしません。それはそれでアンシェローにとっては有益ですしね」
冗談がわかりづらいんだよこの人……。
「それで? あれから三日経ちますが……いくつのダンジョンを攻略したんですか?」
「あ……」
「ん? 憶えてないんですか? それならノーフを見れば……」
「その……ひとつも、クリアできてないんです」
再びルルーさんが固まる。
「俺の慢心のせいです! あの身体が強すぎたから、装備も整えずに挑んで大変な目に逢いました……」
「あまりここをなめてはいけませんよ。数多の冒険者が肥やしになってきたんですから」
「肝に銘じています……」
「ま、わかっているのならいいですよ。一朝一夕で攻略できるほど甘いものでもないですしね」
「今日は新しい装備を買ってもらったので攻略が捗りそうです!」
フィーナがルルーさんにアピールする。
「浮かれている時も危ないですよ」
「う……わかりました……」
撃沈。
「さて……私も今日はギルドに行く用事があったのでここら辺で失礼しますよ」
「あ、はい! わざわざ来ていただきありがとうございました!」
「いえ。それでは」
ルルーさんはギルドの方へ去っていった。
「いやぁ……怒られるかと思いましたが、案外あっさりしてましたね」
「正直契約解消まで視野に入れてたよ俺は……。あの身体も失ってダンジョン攻略も果たせてないんだから……」
「でもご主人様にしかできないことがありますから!」
「スキルがあるのは確かだが……イマイチぱっとしないよなこれ」
「そんなことないです! 最高です! 素敵スキルです! むしろ素敵すぎるです!」
「そんな持ち上げてくれなくていいって……しかもお前このスキルあんまりよくわかってないだろ」
「え……えっと……光って煙が出るやつですよね……」
この間使った時気絶してたもんな……。
「それのどこが素敵スキルなんだ……」
「あの……暗いところで便利ですしぃ……そのぉ……煙なんかは……えっと……」
冷や汗をかきながらフォローしてくれているが、そもそもスキルの効果自体を履き違えているからなんの意味もない。
「あのな、俺のスキルはそんな曲芸みたいなもんじゃないの」
「も、申し訳ありません……」
「まぁお前の前で使ってないから仕方ないけどさ」
「あの、ノーマライゼーションッ!……ってやつですよね。かっこい〜」
フィーナは手を上にふりふり上げながら笑っている。
「……バカにしてる?」
「め、めめ滅相もございませんっ!」
フィーナは慌ててひれ伏すように謝罪する。
「いや別にそんな怒ってるわけじゃないけど……お前にも知っておいた方がいいかな」
「はい! 知りたいです!」
「そのノーマライゼーションってやつはね、普通にするスキルなんだよ」
「フツー?」
「多分お前が見たのってアミィに身体変えられた俺が使った時のでしょ? あの時ってカントリカントの身体が俺の普通の状態に設定されちゃったから何にも発動しなかったの。だから例えば……」
俺は首輪のスイッチを押して人狼に変身する。
「わわ、それを使っちゃうと反動が……」
「ノーマライゼーションッ!」
俺がスキルを使うと身体は一瞬にしてカントリカントの人間形態に戻る。
「えっ、戻ってる!」
「そう。こんなことも可能だったわけだ。その他にも普通ではないものにならなんだって使える……ハズだ」
「すごいじゃないですか! まさに変身に打って付けの能力! 天才! かっこいい!」
「はは、照れるな」
「オレにもなんかあればなぁ……」
「お前がいてくれるだけで俺は助かってるよ」
「そんなことないですよねぇ!」
「いやいやあるって」
「いやいやいやぁ!」
謙遜しつつも嬉しそうだ。
「よし、今度こそダンジョン攻略しようぜ」
「はいっ!」
ノーフを起動してダンジョンを探し始めた。