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排他的な民族

クリフが先頭に立ち、俺たちを先導する。

「もう少し、もう少し」

そう言いながらてちてちと足を動かす。

このエリアは見晴らしが良いのだが通路を示す茂みがそこかしこにあるせいでかえってネストと通路が区別しづらい。

こいつらの案内がなかったらそのムラには辿り着くことはできていなかっただろう。

「ネスト内の茂みにはあまり近づかないでくださいね。危ない目にあいますから」

さらっとシゲルがフィーナの肩に乗ってついてきていた。

「お前まだいたのか」

「そんな……せっかくですし居させてくださいよ」

「そうですよ! シゲルさんも役に立ちたがっていますので、オレが肩を貸して差し上げたのです!」

そういえばフィーナと少し状況が似てるな……恩返ししたいやつばっかりだな。

「まぁ、逆に危ない目に遭わせてしまったら嫌だから何かあったりすぐに逃げろよ」

「そんな! あなた様を見捨てるようなことをしほと言うのですか!」

「でもそんな相手にはどうせ太刀打ちできないだろ」

「それでも! でございます! 隠れて生きる我々ですが、恩人のピンチに目を瞑っているなど情けないことこの上ありません!」

シゲルは鼻息荒く持論を語る。

「頼もしいな。小さいけど」

「それは……褒め言葉ですな!」

こいつにとってはそうなるのか。

「あれ、オレたち、住んでる!」

突然止まったかと思うと、ミノーたちはぴょんぴょん跳ねながらアピールする。

気づけば俺たちはネストに足を踏み入れていた。

ここはそのネストの中央で、しかし彼らの言うようなムラなどどこにも見当たらない……。あるのは地面に敷き詰められた枯葉の山だけだ。

「どこにあるんだ?」

「ここ! ここ!」

ミノーが大きく跳ねると、枯葉の山に飛び込んだ。

そしてそのままその中へと埋もれてしまう。

「おいおい何やってんだ……」

そして、そのまま枯葉の山は動かない。

「あれ? 今そこに飛び込んだよな?」

「もしかして……文字通り飛び込んだんじゃないですか?」

「なに?」

「こういうことです!」

フィーナもその枯葉に向かってジャンプする。

「おい下のやつらつぶれちゃうぞ!」

フィーナの身体が枯葉の山に触れると、その身体は地面に激突するのではなく、その地下へと沈んでいった。

「あっ! これ、そういうことか!」

どうやらここからトンネルのようになっているらしく、フィーナは身をもってそれを示してくれたらしい。

「……と、俺も行かないとな」

シゲルも一緒に落ちていったためこの場にいるのはもう俺だけだ。

フィーナがしたように枯葉に向かって飛び込むと、吸い込まれるように地下へと身体が滑っていった。



その中は勝手に身体が下へと運ばれていく滑り台のような構造になっていた。

うねうねと伸びるコースは何度も身体を揺さぶりながら下層へと俺を連れていく。

「うわあ〜! スライダーだ! たのしー!」

ひとりではしゃいでいると、ぼふりと衝撃を受ける。

いつの間にか下層に到着したらしく、両手を上げて楽しんでいる姿のままの俺に周囲の視線が刺さる。

「……んん、さて、武神が到着したよ」

頭の上の手を大袈裟に動かして胸の前で腕を組む形に動かす。

それをみたミノーたちはミノの下から目を輝かせていた。

「ブシン! ブシン! オレたちのブシン!」

そう言いながらミノーたちは俺の手を引く。

地下は篝火で道が続いており、真っ直ぐに伸びた通路の両側面に複数の扉があった。

これが各個体ごとの住居用の部屋ということだろうか?

だが俺はそのどの扉にも案内されず、真っ直ぐに奥へ奥へと連れていかれる。

「おいお〜い、どこまで連れてくんだよ〜」

そしてとうとう突き当たりまでくると、両開きの大きな扉があった。

ミノーの一部がその扉を開き、俺を中へと引き入れる。

宴の会場にでも連れていかれるのかと思ったが……そこは祭壇のような場所だった。

「え?」

急に手を引く力が無くなったかと思ったら、ばたりと扉が閉められた。

いつの間にか部屋の中には俺以外誰もいなくなっていて、俺はひとりその部屋に閉じ込められてしまった。扉はこちら側には取っ手がなく、押しても開かない。

「なに、これ?」

「ご主人様〜! ご主人様〜!!」

扉の向こうからフィーナの声が聞こえる。

「あ、フィーナ? なんか閉まっちゃったみたい。開けてくれる?」

「助けてくださ〜い!」

俺の言葉を聞く余裕もない様子でフィーナの懇願が響く。

「どうした!?」

「あ、あっ! やめてくださいってぇ!」

「フィーナ!?」

「ブシン、ここに祀る! ムラ、護られる! お前、ブシンじゃない! お前、ナベにする!」

「ひぃ〜! そんな、そんな数で引っ張られたら動けないですよ〜!」

ズルズルと身体が引きずられる音がして、それは遠ざかっていく。

「いやあぁ! ご主人様ああぁぁあぁあ!」

悲痛な叫び声が反響して、それもやがて聞こえなくなった……。

「おいおいマジかよ……フィーナが食われちまうよ!」

扉をドンドンと叩くも、誰もいないらしい。いたとして開けてくれる様子でもなかった。

どうやらあいつらは神がこの祭壇にいれば勝手にムラが護られると思い込んでいるらしい。

そしてフィーナは俺のツレであるにも関わらず敬うこともせずナベにしようとしている。

……そうかよ。こいつらは結局自分たちの都合しか考えていない自己中心的で排他的な民族だったってわけだ。

なんか、段々腹が立ってきた。

もてなすような雰囲気で飯も用意せずに人柱にする気満々だったってわけだ。

「あいつら……!」

あんなやつらが作った扉だ。そんなに強固なわけでもないだろう。

俺は首輪のスイッチを押して人狼に変化する。

「覚悟しろよおおおぉぉぉお!!」

俺が扉を思い切り蹴ると、轟音とともに扉は通路へと吹っ飛んでいった。

「フィーナに手を出しやがったら、絶対許さねェからな!!」

通路の先にいるであろう奴らを目指して部屋を飛び出した。

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