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物理的ケモノ鍋パーティ

通路を真っ直ぐに駆けて行くと、フィーナたちの姿を見ることなく入口まで来てしまった。

「あれ、いない……」

ここを登った可能性は低い。恐らく通路側面の無数の扉のどれかに入ったのだろう。

だがその扉はどれもほとんど同じもので、どの部屋が何の目的に使われている部屋かなどの目印は見た目からはわからなかった。

「どうすんだよ……手当り次第に開けるしかないか?」

だが俺が扉を開けて既に姿がなかったことを考えれば、あの祭壇の近くの部屋に入った可能性が高い。

そう思った俺は再び通路を奥まで走り、その付近の扉を手当り次第に開けていくことにした。

「フィーナ!」

名前を呼びながら扉を開ける。

最も近いところにあった扉の部屋は、生活感はあったが誰もいなかった。

「ここじゃない!」

すぐに閉めて次の扉、次の扉と開けていく。

しかしそのどれもが同じような部屋ばかりだった。

「じれったいな……!」

そんな時、少し先の方の扉が僅かに動くのを見た。

「なんだ?」

「だ、旦那〜!」

おそらく俺を呼んでいるであろう声もして、やはりというかあのもさもさの草毛が顔を出す。

「あれは……シゲルか!?」

小さい身体で頑張って扉を押し開けたらしい。

その僅かな隙間故に奴らには気づかれなかったのかもしれない。

「シゲル!」

「はっ!旦那!」

シゲルがこちらに気づいた様子で、思わず気が抜けたのか扉から手を滑らせてしまう。

「うわっと! ……ぐぇ!」

閉まる扉に挟まってしまい苦しそうな声が聞こえる……。

「大丈夫か?」

「うぅ……ワタクシよりも……姐さんを……」

姐さん……フィーナのことか?

「フィーナは無事か?」

「急がなければ無事でなくなります! はやく、この中へ……!」

俺はシゲルを掴んで肩に乗せると部屋の扉を開け放った。

「待てぇええぇえい!」

俺の声が響くと、ワラワラと群がるミノーたちが一斉にこちらに振り向く。

部屋の奥にはグツグツと煮えたぎる鍋があり、その周囲をたくさんのミノーたちが囲っていた。

「フィーナ! フィーナはどこだ!?」

「こ、来ないでください!」

フィーナの姿は見えないが、声は返ってくる。

恐らくミノーたちに囲まれて見えないのだろう。

しかし、その声は何故か俺を拒絶していた。

「どうしたフィーナ!」

「だめなんです……もう……」

まさか……既にフィーナは捌かれてしまっているとでもいうのか……!?

レベッカの時のことを思い出して頭に血が上っていくのを感じる。

「お前ら! フィーナに何した!」

ミノーたちが俺の怒りを受けてタジタジと後ずさる。

その隙間から、フィーナのシッポが見えた。

「なんだ、いるんじゃないか!」

俺はミノーたちなど踏み潰す勢いでフィーナに駆け寄る。

しかし、そこにいたフィーナは……。

「いや……いやですぅ……来ないでくださいぃ……」

泣きながら俺を見つめるフィーナには、あるべきはずのものがなかった。

「くっ……遅かったか……!」

複数のミノーに拘束されたフィーナは、身動きが取れないらしい。じたばたと手足を動かして抵抗を続けているようだが、鍋に入れやすくするためかその装束は全て剥ぎ取られていた……。

「見ちゃやですぅ……ううぅぅう〜……」

涙と羞恥で真っ赤になった顔を隠すこともできずにフィーナは嗚咽を漏らす。

そうは言っても……こいつらから目を離すわけにもいかないしさ……。

「え、えぇ〜い! お前ら! よくもフィーナをこんな目に!」

「服! 食えない! とる! アタリマエ!」

「そうじゃないだろ! こいつを食うのは間違ってるんだよ!」

俺の言葉を聞いてもミノーたちは首を傾げている。

「……肉、食う。アタリマエ。オレたち、フツウだ。ブシン、何を食べる? 肉、食うなら、同じだ」

「いいや違うね! フィーナは俺のモンだって言ってんだよ!!」

「ご主人様……!」

それを聞いたフィーナが嬉しそうに呟く。

「ブシン、祭壇に、いればいい。他は、いらない」

「お前らが決めていいことじゃねぇんだよ! お前らを守ってやる義理も何もなくなった! 何ならこのムラぶっ壊してやろうか!」

俺が怒りに任せて怒鳴るようにそう言うと、ミノーたちは狼狽えたように顔を見合わせる。

「ブシン、いかっている。まずい」

「腹ペコ、イライラ。ナベを食わせる。きっと良くなる」

「それだッ!」

ミノーたちは勝手な結論を出してフィーナに調味料を揉みこみ始める。

「やぁ〜っ!ぴりぴりするよぉ〜!」

「こいつら話が通じねぇ……あ〜もう! やる! いいなフィーナ!」

「んん……んっ! だめですって、ば……!」

それどころじゃなさそうなのでもうどうなっても知らない。

俺はフィーナに引っ付いているミノーたちを剥がしては鍋の中に放り投げた。

鍋に入れられたミノーたちは阿鼻叫喚しながら鍋から這い出てくるが、それ以上抵抗する気も無い様子で床に伸びる。

片っ端からミノーをぶん投げてやったので既にほとんどのミノーは身体から湯気を立ち昇らせながら床に重なってしまった。

その残ったミノーの中に、見知った格好のやつを見かけた。

「……クリフか? お前、俺を騙したんだな」

「ちがう! ブシン、祀った! 間違ってない!」

クリフはこの期に及んで自らの主張を正義とばかりに声を荒らげる。

もはやこいつらには罪悪感というものはないらしく、自分たちの都合しか目についていない。話をするだけ無駄だろう。

「煮込まれる立場になってみるといい!」

俺はあっさりとクリフを掴み上げると、ぼこぼこと沸騰している鍋に投げ入れた。

「あつっ! あつつ! なにをする! ひぃっ!」

こういうやつは自分がやられるとうるさいんだ。

結局残ったやつらも全員鍋にぶち込んで、床には茹でられたミノーの山が築かれた。

「ふぅ……」

軽くても数が多かったのでなかなか骨が折れた……。

「うぅ……」

近くで呻き声が聞こえる。

ふと横を見ると、裸のまま身体を隠して潤んだ瞳を向けるフィーナがいた。

「あ……」

「服、返してもらうように言いたいです……」

「う、うん。そうだな……」

こっちの目のやり場にも困るしね……。


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