視界から色が消えるみたいに、絶望が目の前を染める。
自分が叫んだ声がやけに遠くに聞こえる。
護れなかった。
その後悔と自分への怒りでどうにかなってしまいそうだ。
急速な吐き気に襲われて、地面に吐瀉物をぶちまける。
「う……がはっ!」
喉が焼けるように熱い。
熱くて、熱くて、本当に焼けてしまいそうで、そして……気づくと、声が出なくなっていた。
この感覚……どこかで?
いや、知ってる。ごく最近まで、俺はずっとそうだった。
『おいおい……マジか……』
怒りが魔素に影響したのか、俺の身体はあの忌々しい骨と皮の化け物になっていた。
『今更だよ……この身体なら、間に合ったかもしれないのに!!』
地面を踏みつける。
ネストにヒビが入り、そこら中に散らばっていた木の葉が全て舞い上がる。
『あああぁぁぁああぁぁぁあああ!!!』
コノハヅクはフィーナの身体からクチバシを抜き、一目散に空へ飛んでいく。
そこには抉れた傷跡から血を流し、ぐったりと横たわるフィーナが残されていた。
シゲルはそれに寄り添うように身体を揺さぶっているが……喉を貫かれたのならば生きていることはないだろう。
「ダンナ! ダンナっ! そんな姿になってるけどダンナですよね!? なにしてるんですか! はやく姐さんを!!」
シゲルが俺に声をかけてくる。
だが、今更してやれることなんて……。
『ごめん、フィーナ……俺が油断したばかりに……』
「何諦めたようなこと言ってるんですか!」
『無理だよ……死んでしまったら、もう二度と目を開けないんだ』
「死んでないんですって!」
『……え?』
その言葉の迫真さからしても、それは出任せではなさそうだ。
俺はすぐに外套を付けてフィーナに駆け寄る。
『フィーナ!』
「ん……んぅ……」
なんと、フィーナの喉には首輪がしてあったため、コノハヅクに貫かれていなかったのだ!
「あれ……オレ……」
頭に手をあてながらフィーナが周囲を見回す。
俺を見つけると、驚いたように飛び起きる。
「ご主人様!? その姿は!」
『なんか、またこんなんなっちゃった……』
「なんでそんなことに……ってて……」
フィーナは傷口を抑えながら苦痛に顔を歪めた。
『悪かった、フィーナ。一度帰ろう。その身体ではとても戦えないだろう』
「いえ! 自分、やれますっ!」
そう言ってフィーナはびしりと敬礼をする。
『……そのままでもか?』
何も隠さずに敬礼をしているあたり、きっともう自分がどんな格好をしているかも忘れてしまっているのだろう……。
「ぉわああぁぁあああっ!!」
慌てて身体を隠すが、やはりこのままでは探索は続けられないだろう。
『よし、一度戻るぞ。いいな?』
「は、はい……でも、また踏破できないなんて……」
『関係あるもんか。命より大事なものはない』
「わ、わかりました……すみません」
『謝ることはないって。な。ほら、行くぞ!』
そう言うと俺は転移魔法を発動させてギルドへと向かった。
ギルド周辺の平原に転移したわけだが……また身体に違和感がある。
「……あれっ! なおってる!」
「あっ!ほんとですね!」
どうやらあの転移魔法を用いたことであの身体はアミィに見つかったらしい。
何も言いに来ないあたり、あーいうイレギュラーな場合については見逃してくれる様子だ。
「怒りを起点にして変身できるとなると万が一の時には役に立ちそうだが……」
「アミィさんにペナルティ課されるのも怖いですしあまり使えそうにないですよね……」
ただ、非常事態には有効かもしれない。
どうしても危ない時には使った方がいいだろう。
「よし、じゃあギルドへ向かうぞ」
俺は外套でフィーナに身体を隠してもらい、再び彼女を背負いギルドへ向かった。