昨日は結局深夜まで酒場に居た。
フィーナはベロベロのままだったがカルアと飲んでたので置いてきた。
俺ももう眠かったのでシゲルとともに爆睡し、朝を迎えたのだが……。
「……ん、あれ。フィーナいないじゃん」
鍵はかけていたが、合鍵があるはずなので入れるはずだ。
もしかすると酔っ払ったまま酒場で眠ってしまったか?
「世話のかかるやつだな……」
出かける準備を先に済ませてからシゲルを起こしてフィーナを探しに出た。
「おっ、アビー。フィーナを見なかったか?」
廊下に出ると、丁度アビーに出くわしたのでフィーナの行方を尋ねる。
「はっ!? え、え、なに? フィ、フフィフィーナ!? 知らない! 知らない知らない! どこかしらねぇ!」
絶対知ってるだろこれ。
「なんとなくわかったぞ。ありがとうアビー」
「ちょっと待ちなさいよ! なんにも言ってないでしょ!」
「そうだな。お前は何も言ってない。だからカルアには秘密にしとくよ」
「ぐぎぎ……そうはさせないわよ! あの子の邪魔をするのならあなただって……!」
アビーは俺の前に立ち塞がる。
まぁ別に俺もカルアの邪魔したいわけじゃないからな……。
「じゃあもうちょっと後にするよ。また後で」
「えっ、いいの?」
アビーは拍子抜けしたような顔をする。
「なんで?」
「だってあんた、フィーナの主人でしょ? あんなかわいい子といたら少なからず恋愛感情とか……」
「正直無いとも言いきれないんだが……俺には厳しい幼なじみがいてね。あいつに惚れたらそいつに殺されちまう」
「ぷっ。あんたも大変ねぇ」
アビーはそれを聞いて呆れるように笑った。
「フィーナが俺よりカルアを選んでくれるならその方があいつも幸せだろうと思ってる。だから俺もお前に協力する気持ちはあるよ」
「話が早いわね! カルアの初恋だもの、なんとか叶えてあげたくって……」
「でもいいのか? 初恋の相手が女のコじゃ……」
「それは別に良いじゃない。オトコなんて酒場で腐るほど見てきたけど、どいつもこいつも自分勝手なヤツばっかり! 不潔だし野蛮だし!」
ヒートアップしてきて男批判を始めてしまったのでそれを宥めつつ話題を逸らす。
「まぁまぁ、確かにフィーナは献身的で優しいよな」
「そうなのよね! 最初はイジワルしてあげようかと思ったけどかわいく見えてきちゃって……。あの子が妹になってくれれば酒場の看板娘も増えてこの酒場はもっと賑わうんだけどなぁ」
「おいおい。あいつは俺と冒険するんだから」
「へへーん、そんなの知らないもんね!」
アビーは舌を出してからかうように笑った。
「ま、俺の目的も果たせたらそうしてもらった方が良いけどな」
「そういえば、あんたはなんで冒険者やってんの?」
アビーは今更俺の話を聞きたがった。
別に隠すようなことでもないので打ち明けることにした。
「……俺は、ヒトになりたいんだ」
「へぇ、ヒトに? フィーナと同じ種族なのに?」
「いや、俺はもともとヒトなんだ。呪いでこうなっている」
「あ、そうだったの!」
アビーは驚いたようにまじまじと俺を見回す。
「よく出来てるわねぇ」
「ニセモノではないから……」
もとの顔をベースに毛が生えたような感じだから多分なんか魂ごとに決まってるんじゃないですかね。
「ガレフにはヒトに戻れる秘宝があるらしくてな。それを探してるんだ」
「だったら酒場で話聞いてみたら? 情報が集まる場所だからね」
アビーは思ったよりまともに答えを出してくれた。
「その秘宝について聞いたことあるのか?」
「ん〜、それについては知らない。でも毎日冒険者が来るから、それらしいものを見聞きしたことがある方も来るんじゃないかしら」
「ありがとうアビー! それじゃあまた酒場で聞き込みをさせてもらうよ」
「んふふ! こっちもお客さんとして来て貰えるなら大歓迎よ! あたしの方でもきいといてあげるから、何かわかったら教えるわね」
機嫌が良くなっているアビーは頼りになるな。
今度何かお礼をしようか……。
「あ、そういえばフィーナは結局どこなの?」
「ご想像通りだと思うけど? 昨日の夜、カルアが持って帰ってたから」
「…………」
そういうこと……だよな?
「ふふっ、なに赤くなってんのよ! あんたまさか……」
「ちっ、ちちちちがわいっ!」
「あははは! わっかりやす!」
「し、仕方ないだろ。俺まだ十六なんだし……」
「あら? 年齢のせいにするの? ふーん。じゃあ、お姉さんが大人にしてあげよっか?」
いきなりアビーが俺を廊下の壁に追いやり片手を壁につけて密着する。
「は……はっ!?」
「わからない? どういう意味か?」
「いや……でも、その……俺にはレベッカが……」
「ぶっ……くふ、あはははは! そっかぁ! レベッカっていうんだその子! あ〜面白い。マーク、あんたも結構カワイイじゃん」
アビーはスっと俺から離れるといきなり笑い出した。どうやら騙されたらしい。
「あっ! くそ〜! やられた!」
というか、不可避ですよこんなの。
「まぁその子にもこういうことがあるかもしれないし、あんまり待たせない方がいいわよ。女のコは男のコと違って引く手あまたなのよ!」
「でもあいつはな〜」
「そう言ってるやつほど相手がいなくなって後悔するのよね〜。ふふ、あんたもそうならないといいけど」
アビーの言うことも一理あるな……。少し日が空いてしまったし会いに行きたいところだが、一週間目まではここにいたい。
「でもヒトに戻らないとあいつにも合わせる顔がないな」
「えー? その顔も結構イケてるけど?」
「あぁ……実は俺、ガレフを出ると骨になっちゃうんだ」
「はァ?」
「初めてお前に会った時、仮面してたろ? あの下、骨」
「あはははは! またまた! そんなことある!?」
アビーは手を叩きながら笑い出した。
「あ、冗談じゃない。ほんとほんと」
「え……マジ?」
反応からして冗談だと思ったっぽいな……。
「ヒトなのか人狼なのか骨なのかはっきりしなさいよ!」
「いや、ヒト一本でいきたいよ俺だって。そのためにだなぁ……」
その時、ガチャりとドアの開く音がした。
「……ん、うるさい」
ドアから出てきたのはカルアだった。
「あ、カルア! どうだった? ねぇねぇ!」
単刀直入にアビーが尋ねた。
「どうって……なに?」
キョトンとした顔でカルアが答える。
「……え?」
「えっと……えっちなこととか……」
「……な、何言ってるの……ばか?」
「ばかじゃないわよ! だって、あの子は?」
「……あの子?」
話がうまく噛み合っていない。
それも当然、この場にはフィーナがいなかったからだ。
「え、カルアお前ひとり?」
「……当たり前。さっき、起きた」
どうやら昨晩仕事を上がらせてもらったカルアは、部屋に戻って眠っていたらしい。
だが、アビーの目撃証言と食い違う……。
「カルア。アビーが言うには昨日、お前がフィーナを持ち帰ったという話だったんだが……」
「……その手が、あったか……」
この様子ではどうにもフィーナは持ち帰られていないようだな。
しかしでは、フィーナは一体どこへ……。
「なぁ、外へ出た可能性はないか?」
「その可能性はあるけれど、目的も無く夜の間に出歩くかしら?」
「……フィーちゃん、かなり酔ってた……もしかすると、目的なんて……」
それを聞いて一同は青ざめる。
「まずいまずいまずい! あいつから目を離すんじゃなかった!」
「……カルアが、ちゃんと送るんだった……」
「嘆いてる暇はないわよ! 探しに行かないと!」
俺たちは急いでギルドを飛び出した。