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手がかりを求めて

早朝の暖かい日差しが気持ち良い。

平原には涼しげな風が吹き、鳥の囀る声がどこからか流れてくる。

まさに絶好のピクニック日和。

お弁当でも持って散歩したい……ところなのだが、今はそれどころではない。

こんな美しい朝の時間に、焦燥感に駆られながら相棒を探すハメになるとは……。

「んー、どうしよう。何かてがかりは……」

「ダンナ! そういえばコノハヅクの擬態を見抜いた板みたいなのって、こういう時には使えないんですか?」

「あ、ノーフ? フィーナに使えるかな……」

「フィーナは冒険者登録してないのよね?」

「そうなんだよ。ノーフも持ってない」

「それだと彼女自体を探すのは難しいけれど……あの子ってカントリカントよね。カントリカントをレーダー機能で検索すれば見つかるかもしれない」

「使えるなぁノーフ」

早速レーダー機能で魔法生物からカントリカントを指定してみる。

軽快な音を立てて地図上にマークがいくつも表示される。

「結構いるな……」

「カントリカントは各個で動くことも少なくない。独立したマークもフィーナとは限らないわ」

しかし逆に言えば遠くない位置にある孤立した個体はフィーナである可能性は高いかもしれない。

「とりあえず、手当り次第に当たるしかない!」

近隣のポイントにナビを設定してそこに向かうことにした。



「……んぁ? ヒトか……?」

地図上のマークに近づいたところで、声が聞こえてきた。

どうやら地図で示されていたカントリカントがこちらに気づいたようだ。

「はずれか……」

「おいおいおいおい、出会って早々ハズレはないんじゃねぇのかァ?」

ガサガサと音を立てながら草むらの中から獣型のカントリカントが出てきた。

「ヒトの方から来てくれるたァね。冒険者が増えて狩りがしにくくなっちまったが、好都合だ。ひっさしぶりに女のコ喰いたかったんだよなァ〜」

カントリカントは下衆なことを言いながら舌なめずりする。

「……ん? お前、ヒトじゃないな」

どうやら俺が同族であることに気がついたらしい。

「残念ながらお前に喰わせる子たちはいないよ」

「ふゥん、じゃあそいつはお前の獲物ってわけか。なるほどなるほど……」

ふむふむと頷くように頭を上下させている。

「生意気だなァ!」

しかし次の瞬間、不意をつくようにカルアたちに飛びかかってきた!

「やめろよ」

俺をそっちのけで彼女たちに突っ込むものだから側面は隙だらけだった。

走るカントリカントの横っ腹に蹴りを入れると、唸り声を上げながら地面に転がった。

「て、てめェ……やろうってのかよ……」

腹を抑えながら俺を見上げて威嚇している。

「お前から仕掛けてきたんだろう」

「ダンナ、こやつに姐さんのことを訊いてみたらいかがです?」

「それは確かに……」

「あァ?」

「カントリカントの女の子を見なかったか?」

「バカかてめェは! 喧嘩売られた相手にそんなこと教えるかよ!」

タイミング的にご最もですがな。

「……ちがう」

「は?」

「……もう、終わってるよ」

いつの間にかカルアは無防備に寝転ぶカントリカントの後ろに回っており、その首筋にナイフを突き立てていた。

「なっ、なな……」

「……答える?」

「お、お前みたいなちんちくりんにやれるってのかよ!」

「……うん」

カルアは顔色ひとつ変えずにナイフの先端を肩口にあててゆっくりと押し進める。

ぷつりと小さな音がして、カントリカントの肩が跳ねる。

「いってぇ! いてェよ!」

「……動くなよ」

そう言うとカルアは再びナイフを首の前にあてがい、カントリカントを脅す。

「ひいぃ〜! な、なんなんだよお前はァ!」

「ちょ、お姉さん? カルア怖くない?」

「怖いよ?」

そんな当たり前みたいに言われても……。

「わかった! まいりました! オレが悪かった! すみませんでした!」

彼は両手を上げて降参の意を示した。

「カルア、もういいって」

「……ん」

服についた汚れを払いながらカルアがこちらに戻ってきた。

「それで、さっきの質問。カントリカントの女の子を見た? 見てない?」

アビーが尋問を開始する。

「……見た」

「おおっ! 手がかりか!」

「それはいつ、どこで?」

「……明朝のことだ。このあたりでふらふらと足取りのおぼつかない人型のカントリカントの女を見かけた。当然声をかけたが……」

カルアがギロリとカントリカントを睨む。

「ひっ! いや! なんもないっすよ! 声をかけても眠たそうに目をこすってそのまま歩いていったんだって!」

カントリカントはビクビクと平原の先の方を示す。

「あっちか……」

ノーフを見ると、動かないマークがひとつある。

「もしかして、これがフィーナかもしれない」

「えっ! 見つかった?」

アビーがノーフを覗き込んでくる。

「あいつが言った方向には何個かマークがあるけど、こいつは動かないんだ。もしかすると寝てるのかもしれない」

「寝てるだけなら、いいけど……ケガしてたら……やだ」

「そうだよ! はやく行こう!」

「へへ、じゃあオレはここらで……」

カントリカントは逃げるように反対方向へ駆けていった。

「アレ、良かった?」

「あの様子じゃ冒険者が襲われても撃退できるだろう。ヒトも喰えてなさそうだし、追いかけて殺すほどではないだろ」

「じゃあいっか」

「それより今はフィーナだ! 早く行かないと!」

「そうね!」

俺たちはレーダーの示した場所へと急いだ。

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