しばらく移動して、ようやく地図上の動かないマークのところへ近づいた。
「おーい! フィーナ! いるかぁ!」
が、返事はない。
「大丈夫ですかね……姐さん、何か悪いものでも食べたんじゃ……」
「食べた、ならいいけどな……食べられた、だったら最悪だぞ……」
「マークが残ってるなら生きてるはずよ。大丈夫」
「……無事だといいけど……」
マークの位置からして、茂みの中にいるはずだ。
他の生物に見つかりにくいため無事であるとは信じたいが……。
「ここだ」
マークの目の前まで来た。
そこにはやはり背の高い草があり、その中は見えない
「大丈夫これ? 居たとしても虫に刺されてそう」
「この中にいるっていうなら行くしかないけど……」
少し嫌だけど俺たちはその中へと足を踏み入れた。
中は陽の光が届かないせいか薄暗く、意外に深い。
「あれ……」
不思議な感覚がした。
この感覚……似ている。あの時の感覚と。
「もしかしてこれ、ダンジョンじゃないか?」
「……そう、なの?」
「あたしダンジョンに来ちゃったの? やっだ〜! 戦うのなんて野蛮できら〜い!」
数秒後、入口に封印がされる。やはりそうだ。
ここは森のダンジョンのようである。
「あれ? でもフィーナが入っていたとしたら入口には既に封印がしてるはず……」
「入った本人が救援を求めている場合は規定人数まで入れるよ」
「ということは、フィーナが助けを求めている!?」
「まぁこの状況じゃそうでしょうね。気づいたらダンジョンの中なんて……」
「はやく……助けに行かないと……!」
カルアがすぐに走り出す。
「おい、危ないって!」
通路に並ぶ木の隙間から、太い丸太が勢いよく飛んできた。
「あっ!」
カルアはそれをアクロバティックな跳躍で躱し、見事に着地する。
「……罠がある。気をつけて」
「お、おう」
道中、多くの罠に遭遇した。
竹槍が敷き詰められた床や、イガグリの降ってくる場所、転がる巨大どんぐりにアレの敷き詰められた落とし穴など……どれも直撃を喰らえば致命的な罠ばかりだ。
しかし隠されているものを見つける能力に秀でたシゲルがいるためどれも回避することができている。
「なんだよここ……魔法生物はあんまりいないのに罠だらけじゃねぇか……」
「ナワバリ、みたいなものですね」
シゲルが口を開く。
「罠にかかった獲物を捕食するボスのような存在がいるのでしょう。そいつはひとつのネストだけでなくこのダンジョン全体をナワバリにして罠を設置している……おそらくフィーナさんもその罠に捕らわれて……」
「じゃあ食べられちゃうってこと!?」
「大変……」
ふたりは動揺するが、どこにそのボスってのがいるのか……。
「なぁ、そいつはいったいどこにいるんだ?」
「罠の先にいると思います。このダンジョン、ネストが連なっていますがそれには法則があるような気がしてなりません。地図を見てください」
「法則……?」
ノーフのマップを開く。
このマップには入ったネストは色つきで、入っていないネストも隣接している場所に限り灰色で表示される。
「入口はここで……」
「今はここね」
現在表示されている地図は、コの字型になっている。スタート地点は左上からで、現在は左下にいる。
ただ、行っていない地点がコの字の内側の全てに表示されている。
「通路はコの字型にしかなかったはず……ということは、コの字の内側にも同じようにネストがあるんだ」
「そうかわかったよ! このダンジョン、渦巻き型をしているんだ!」
「おそらく、その通りかと。そしてその渦の中心にこそ、それはいるのでしょう」
シゲル……引き渡すのが惜しくなってきたぞ!
「ねぇ、わざと捕まってみたらどうかな? 勝手に巣に運んでもらえるかもよ?」
「それは得策ではないかもしれません。ワタクシも保証があるわけではありませんが、この巣の持ち主は身動き取れぬよう拘束してから運ぶはずです。そのような状態では抵抗もできません」
「なるほど……そうよね」
「とりあえずは進むしかないってことか」
「幸い邪魔をする魔法生物はいないようですし、各ネストも小さいです。ひとつずつ確実に進めば問題ありません」
「ねぇマーク、このシゲルさんは一体何者なの?」
「俺が知りたいよ……」
「さ、早いとこ姐さんを助けに行きましょう!」
「おっ、そうだな!」
今はとにかくフィーナのもとへ向かわなければ!