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三姉妹の酒場

俺もシャワーやら着替えやらを済ませてから食事のために酒場を訪れることにした。

「あ……ご主人様、来たんですね!」

フィーナが俺を見つけてこっちに駆けてくる。

「お、おぉ……」

彼女は姉妹たちと同じ制服を着ていて、いつもとまた違ったキュートな雰囲気だ。

昨日着ていたカルアの私服もガーリーで良かったが……やはり制服はいい……いいよ……。

「な、なに黙ってるんですか……ヘンでしたか?」

フィーナがもじもじとスカートの裾を弄りながら俺を見る。

「いや! 違う! 俺は今、モーレツに感動している!」

食いつくわけにはいかないが、それくらいの剣幕で俺はこの情熱を伝える。

「わっ! そ、そんなに……?」

当の彼女はぽかんとした顔をしているが、制服の持つ魔力を何もわかっていないのだ。

「わかってないわねぇフィーナ。この服を着れば魅力三割増よ?」

そうそう。流石アビーはよくわかっている。

「フィーちゃんは……もともとかわいいから……十五割増し……」

どういう計算方法でそうなんねん……。

「えへへ……でも嬉しいです。オレ、そんなふうに扱われて来なかったから……」

フィーナは恥ずかしそうにしているが、にやけた口許が戻らない様子だった。

「フィーちゃん……ずっとひとりだったってきいた……。これからは、カルアたちがいるから……だから、ひとりじゃないよ」

カルアがフィーナの手を握りながら激励する。

「カルちゃん……オレ、ほんとに嬉しいよぉ」

「カルアも……友達、いなかったから……」

「酒場にはそーいう目で見てくるようなやつばっかしかいないからね。フィーナみたいなカワイイおともだちはいなかったのよ」

カルアはフィーナのことをそーいう目で見てたような気もするが……まぁ男のソレとは違うしいいか。

「……ていうか、アビー結局働くのか?」

思えばアビーは部屋で休むからフィーナが出ることになったわけだ。

当たり前のように三人で働いているから聞きそびれていた。

「ちょっとね。フィーナに少し仕事を教えなきゃいけないから。流石にいきなりやれなんて無茶でしょ? 落ち着くまでは三人でやればいいと思って」

「これがなかなか手際が良いのね。あんたたちも嬢ちゃんを見習ったらどうだい」

カウンターからアルコさんが姉妹をからかう。

「あたしらはフツーに仕事できてるも〜ん」

「カルアも……できてる」

胸を張っているけどカルアは結構ミスが多いんだよな……。

「さぁ、そろそろ酒場が賑わってくるよ。気を抜くんじゃないよ!」

アルコさんの言葉を皮切りに、三人はそれぞれの配置につく。



日も沈み、灯りに導かれるかのように冒険者たちは癒しを求めてこの酒場に集ってくる。

今日もまた一組、二組……あっという間に酒場は冒険者たちでいっぱいになった。

「御新規オーダー! フィーナ! 飲み物いって!」

「はいぃ! あっ! これどっち……あっ、あっあっ!」

「はい慌てないっ! ひとつずつ確認して〜!」

「……おかわり、する……?」

「お待たせしましたぁ〜っ! あ、違う?」

「フィーナ! それはあっち!」

「す、すみませ〜ん!」

「……おさわり、だめ……!」

「こらぁ! 今カルアに手出そうとしたやつ! 誰だァ!」

……賑わってるなぁ。

ガレフの探索に来ている冒険者は一癖も二癖もある人物たちばかりだと思っていたが、案外そんなこともない。

そこらへんの村人と変わらないような格好の人もいればどこかの貴族みたいな人もいる。

中には物々しい装備で身を包んだ廃課金者みたいなやつもいるし、見るからに魔法生物感丸出しの人外ヘッドも見受けられる。

せっかく酒場にいるんだ。

もし共闘できるような人がいれば、その方が都合が良い。

これだけ人がいるならば誘いに乗ってくれる人はひとりくらいはいるかもしれない。

……とはいえ、自分から話しかけるのも勇気がいるな。

「お兄さん、ひとり?」

思案しながらカウンターでジュースの入ったグラスを傾けていると、不意に誰かから声をかけられた。

「あ……」

持ち前のコミュ障を発揮してしまい、うまい返事が出来なかったが、俺の隣にはいつの間にかひとりの女性が座っていた。

「ふふ、いきなりすみません。でもひとりで飲んでるから、もしかするとなにか困っているのかと思って」

「あぁ……う、うん」

「その様子だと、周囲とあまり馴染めてないんじゃないですか?」

「き、傷つくなぁ……でも確かにそうだよ。一応ツレはいるんだけど、そいつが明るいから任せっきりだ」

「あ、お連れさんいらっしゃるんですか! じゃあ私の出番じゃないかなぁ……」

「えっと……なんか、用があったんですか?」

「用ってほどじゃないんですけどね。ちょっとした商売をしているんです。擬似的にパーティを組んでもらってダンジョン探索をナビゲートするっていう……」

「それだ!」

願ってもない! 内気な俺にぴったりの斡旋商売! しかもダンジョンのナビゲートのおまけ付き!……というかこっちが本体か?

正直金が欲しいわけではないのでナビゲートがあればとても助かる。

フィーナやシゲルは森では活躍するだろうが他の場所では常に一寸先は闇の状態で探索しなければならないのだ。

「是非お願いしたいです! えっとあなたは……」

「ユーリです!」

彼女はにこりと笑いながら名乗った。

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