「さて、じゃあ一旦説明させてもらいますね」
ユーリが軽く咳払いして説明を開始する。
「まず、私はナビゲーターのユーリ・インディフィ。よろしくお願いします」
「あ、俺はマーク。よろしく……見た感じ同じくらいの年齢だよな? 敬語じゃなくていいよ」
「そう?じゃあお言葉に甘えよっかな!」
窮屈そうに敬語で話していたユーリは、早速表情を和らげて軽快に話し始めた。
「それにしてもマーク……ふふっ」
「どうかしたか?」
「ううん、ちょっとね。私の幼なじみと名前が似てたから」
「そりゃ面白い偶然だな」
「ね、ふふ」
笑っているはずのユーリは、何故か少し悲しそうにも見えた。
「私ユーリは、交信術士っていうスキルでサポートを行えるの」
「交信術士……それはどういう?」
「触媒を通して通話したり情報を送信したりできるの!」
「……それって、ノーフと違うの?」
「…………」
その言葉をきいてユーリは固まってしまった。
どうやら図星だったらしい。
まぁおそらくノーフは彼女の能力より後に生まれたであろうから、彼女からしたら商売敵とも言える存在なのだろう。
「あぁ、なんかごめん……」
「あ、ううん! 確かにそうなんだけど〜、別の利点もあるからそこをどう伝えようかなって思ったの!」
俺の早とちりだったのだろうか……。でもノーフは確実に彼女の商売の妨げになっているんだろう。
「まず触媒はこれを使うんだけどねぇ……」
そう言って彼女がおずおずと差し出したのは他でもないノーフだった。
「ノーフじゃねぇか!!」
「えへへ……長い物には巻かれろっていうでしょ?」
「確かにノーフは便利だけどな」
「まぁ私の場合は発話か画面がついてさえいれば発動できるのでノーフ以外がお望みならそれもできるけど」
「いや、ノーフで頼む」
「はいは〜い」
くすりと笑いながらユーリは話を進める。
「まずこのノーフでするナビゲートの種類で言うと、マップナビゲートとサーチナビゲート、それと戦闘における有効打の模索だね。これはノーフの機能を用いるけれど、私の声はノーフからじゃなくて念話で直接届けるから常にノーフを操作したり耳に当てる必要もなくなるよ」
「それは便利だ。ノーフって結構起動してる余裕ないんだよな……」
「さらにさっき言ったようにパーティメンバーの斡旋もしてるからね! 同じように依頼をしてくれた人や……まぁその、私のちょっとしたツテの人たちと一緒に行けるよ」
「それが本当に助かる。俺、話しかけるの苦手なんだよな……」
「わかるわかる。私もそう」
「いや絶対違うだろ〜」
和やかな雰囲気にしてくれるのでユーリとはうまくやっていけそうだ。
「それにしてもかなり優秀なサポートだよな。話は聞かせてもらったけど、流石にお高いんじゃないか?」
「まぁ〜そこそこするよね」
「ですよねぇ……」
「そのダンジョンで得たものの30%分の二ーディだよ」
「えっ!?」
「はは、高いよね」
「安いよ!!」
思わず叫んでしまうほどの安さだった。
「だって、え? じゃあもし何の成果も得られませんでしたなんて言ったらタダってこと!?」
「まぁ、そうなるよね」
「それじゃユーリは生活できないだろ」
「んっふふ。それについては大丈夫。そのツテの子たちが優秀だからね」
とはいえもっと取った方がいいような気もする……まぁ利用者的には助かるんだけどさ。
「払う分が無くて泣く泣く戦利品を手放す人も少なくないから、そこは注意してね」
「貴重品拾っちゃうと取捨選択大変って感じね」
「そうそう。でもまぁ払えなくなることは絶対にないってわけ。いいでしょ?」
「乗った! ユーリ! 俺と契約してくれ!」
「よっしゃあ! お客さんゲーット!」
利害の一致した俺たちは硬い握手を交わした。
「……うわき?」
横からカルアがじっと俺の方を見ていた。
「どわぁっ! なにがだよ!」
「……それ」
「握手だろ?」
「……男の人と女の人は、それだけでもなるって……」
「はいはい。そんなことないから」
「あはは、大丈夫だよ。私好きな人いるし」
「え、そうなん? あ、わかった! さっき言ってた幼なじみだろ〜?」
「や〜だ〜」
「……う、うわきだ」
「だから誰に対してだよ……」
「…………」
カルアは何も言わずにこっちをちらちら見ながら去っていった。
「なんだよあいつ……」
「ひとりだと思ったけどアップダウンシスターズとは知り合いなんだね?」
「あぁ、さっき一緒にダンジョンボス倒したんだ」
「えっ!」
「な、なに?」
「あの子たち、ダンジョン探索なんて行くの……?」
「成り行きでな。だから迷惑かけた俺のツレが今日は一緒に働いてる」
「あ〜、あの獣人さんがあなたのお連れさんなんだぁ。……ほんとに斡旋いる?」
「いるいる! ふたりでダンジョン行って一度も踏破できなかったんだよ!」
「それならまぁいいけど……じゃあとりあえずノーフにマークさんのこと登録するからね」
「頼む」
色々と手続きしていると、カルアがフィーナを連れてきた。
「押さないでよ〜」
「……ほら、あれ……」
フィーナの背に隠れるようにしながらカルアが俺たちを指さしている。
「……ナンパだよ……いいの?」
「いや多分違うと思うよ……。ご主人様はそんな度胸ありませんから!」
おい。
「あはは。面白い獣人さんだ。マークさんのお連れさんってことは一緒に契約ってことでいいんだよね?」
「契約?」
「あぁ。パーティメンバーが必要と思ってな」
「う、うわきもの〜!」
急にフィーナが叫び出した。
「……ね、ほら」
カルアは後ろで勝ち誇ったような顔をしている。
「な、なんだよ急に……」
「オレを差し置いて他のコとダンジョン行くなんて……あ、あんまりですよぉ!」
フィーナは今にも泣き出さんばかりの声で俺に縋り付く。
「ちょ、落ち着けって! 言っただろ? 一緒に契約って」
「どーいうことっすか?」
「メンバーが増えるだけだ。お前を置いてくなんて言ってない」
「なぁんだ……オレ勘違いしちゃいました」
「そーいう時も……あるよね」
お前が悪いんだが……。
「そういえばフィーナがいる場合は支払いはどうなるんだ?」
「そのままだよ。パーティメンバー毎じゃなくてパーティ毎に30%もらうの。あなたたちが二人組のパーティだとすると、それと別に二人組のパーティがいてその人たちとくっついてもらうと四人組のパーティになるでしょ? その時の報酬の支払いは四人で30%じゃなくて二人組と二人組のパーティがそれぞれ30%ずつ支払うって感じ」
「なるほど……なんとなくわかったような……わからないような……」
「まぁ使ってみてよ! そしたらわかるよ!」
「変な人と一緒になったりしない?」
「それもまたダンジョンの厳しさってことで」
「ダンジョン関係ないじゃん……」
「じゃあとりあえず決まりってことで! ダンジョン探索行く時は少し前にでも予約してくれればなんとかするから!」
「お願いするよ」
俺との契約を終えたユーリはほくほく顔で去っていった。
「これでダンジョン探索が楽になればいいが……」
「でも大丈夫なんですか?」
「なにが?」
「ご主人様が探してる秘宝なんて、30%だけでも相当高くなるんじゃないですか?」
「……しまった」
そう簡単に見つかるとも思ってはいないが確かにずっと彼女にお願いする訳にもいかなさそうだな……。
「まぁ踏破に慣れるまではお願いしようぜ。俺たちまだ二人で踏破できたことないんだし」
「それもそうですね……」
少し気まずそうにフィーナが肯定する。
「じゃあ明日からまたダンジョン行くけど、お前今日どのくらいまで働くの?」
「あ〜……朝まで働くつもりでした……。そっか、明日は今度はオレが大変なんでしたね……」
「いいよ。明日は休もう」
「え?」
「ずっと連れ回しちゃってたからな。たまには休みの日があってもいいだろ」
「で、でも!」
「俺も明日は一度村にでも帰るよ。しばらく顔出してなかったしな」
「確かにそうですね……じゃあ明日は村に帰りましょう! いや〜楽しみだな〜」
「お前は寝てろよ……」
「え、連れてってくれないんですか!?」
「ゆっくり休んでもらおうかと思ったんだけど」
「馬車で寝ればいいじゃないですか〜ね〜連れてってくださいよ〜」
「わかったわかった。お前が来たいなら来ていいから」
「うやった〜い! じゃあ今日は頑張って終わらせちゃいますから!」
やる気を出した様子でフィーナがスキップしながら仕事に戻っていった。
「……ずるーい」
俺に文句を言いつけながらカルアもそれに続いて持ち場へ帰っていった。
パーティメンバーのあてもできたし俺もそろそろ部屋に戻ることにした。
フィーナは今日は朝まで帰ってこない。
待つ必要もないし眠ってしまおう。