翌朝目覚めると、俺の布団がやけに膨らんでいることに気づいた。
「……これは」
なんとなく予想はついた。
というか布団が膨らんでいるのに俺には布団がかけられていないのだ。
少しだけ布団をめくってみると、ぼふりとシッポが顔を出す。
「はいはい……寝てるね……」
仕方ない。昨日は疲れただろうし、すぐにでも寝たかったろう。
なんでかはあえて言わないけど多分お風呂入ってないよこいつ……。
「ま、仕方ない。今日は村に行かなきゃならないし、準備しちゃうか」
眠っているフィーナを起こさないように音に気を使いながら着替えを済ませた。
「う……ふぅぅ……ん……」
朝八時を回った頃、俺は既に準備を済ませてコーヒーを飲んでいると、フィーナのいるベッドの方から声が聞こえてきた。
「あ……もう、明るくなってる……」
布団から顔を出したフィーナは陽の光を浴びて寝ぼけた声を上げる。
「おはようフィーナ。昨日はお疲れ」
「はっ! ご主人様! もう起きてたんですね!」
俺が声をかけるとフィーナの背が伸びる。
「もう八時過ぎだからな。急げとは言わないから、ゆっくり支度するといい」
「わかりました! ……あ、そうだった」
何かに気づいた様子のフィーナは急いでシャワー室へと駆け込んで行った。
「よっし! 準備出来ましたよぉ!」
フィーナはすっかり元気そうに準備の完了を告げる。
「それじゃあ……転移魔法でガレフの外に出てそこからは魔導車でマロンに向かうぞ」
「はい!」
早速転移魔法を発動させてガレフの外へ出る。
『……ついたか』
久々に穴の外に出たが、やはりアミィの言った通り俺の身体はもとの骨と皮に戻っていた。
「あ〜、ご主人様のホネ……」
フィーナがうずうずとしながら俺を見ている……。
そういえばこいつにはホネを買い与えたことがあったな。ま、まさかこいつ……俺のホネを狙ってたのか……?
『おい、なんだよ……』
「あっ……な、なんでもないですよ」
図星だな……。
『まぁいいや。それより近くに魔導車があるらしいが……』
あたりを見回すとそれはすぐに見つかった。
複数人が乗り込めるバスのような形の乗り物だ。
大人数が乗り込むことになるが、その行先にはしっかりとマロンの村も入っているようだ。
『よし、行くぞ』
俺たちは魔導車に乗り込み発車を待つことにした。
「別にオレの背中に乗ってくれてもいいんですよ?」
『流石に遠いって。しかもお前疲れてるだろうし』
「数十キロ走るくらいなんてことはないですよ!」
『速度もあるしさぁ』
「この乗り物、そんなに早いんですか?」
『いや、知らない』
「え?」
『乗ったことないもん』
「な……なんかすみません」
謝るなよ……。
『まぁちょっと乗ってみたい気持ちもあるしな。見せてもらおうか。魔導で動く車の性能とやらを』
自動車の三倍くらい速かったりしてな。
『間もなく発車のお時間です。走行中は大変危険ですので必ず席に座るようにしてください。間もなく発車のお時間です』
「あ、ついにですか!」
待つこと十数分。アナウンスの声が車内に響く。
走行中は危険だから座れ……か。
まぁ当たり前の注意ではあるが、やはり揺れるのだろうか。酔い止めとかないからなぁ……。
あ、今の俺ってそういうの何にも感じないんだった。便利だけどちょっと悲しいよな。……はやくニンゲンになりたい。
「あの……! キ、キケンなんですか?」
フィーナが不安そうに俺に尋ねてくる。
『あぁ。決まり文句みたいなやつだろ。言わないと文句言う客もいるからさぁ』
「そ、そうですか……」
ちょっと緊張してるみたいだ。
『大丈夫だって。なんなら掴まっててもいいから』
「本当ですかっ? 本当ですねっ!?」
フィーナはがしりと俺の腕にしがみつく。
そこまでしなくても大丈夫だろ。
『それでは発車いたします。座席のベルトの着用をして手すりに掴まってください』
『お、出るみたいだぞ』
「ひぃ〜こわいよ〜」
フィーナはもう俺の肩に顔を埋めてしまっている。
そんな彼女には見えていないだろうが、景色がゆっくりと後ろへ流れていく。
ついに走り始めたようだ。
『ほら、大丈夫だ。景色が綺麗だぞ』
「ほんとうですか……?」
フィーナが顔を上げると、魔導車はいきなりスピードを爆発的に上げ始めた。
顔を上げてしまったフィーナは前に押し出され、全面のシートに顔面を打ち付けてしまった。
「う……うわあぁぁ……だ、だまされたー!」
ぶつけた箇所を手でおさえながらフィーナはガタガタと震えている。
『わ、悪かったって……俺もこんな速いと思わなかったんだって……』
なだめてやるも、猛スピードで走る魔導車の車内は強い振動が常に発生しており、それに晒され続けているフィーナはもはや聞く耳も持てないらしい……。
「ぬおおぉ……せ、世界が……ひとつになる……」
もはや言ってることの意味がわかんないもん。
『ほ、ほら外の景色を……』
そう言いつつ外を見るも、早すぎて色のついた線が流れていくようにしか見えなかった。
『はっや……』
行きにあれだけ時間をかけた片道だったが、ほんの数十分で村に到着してしまった。
「あ……あれ? 止まった?」
『……もうついたんだとよ』
「えー!」
魔素ってほんと便利だな……。
まぁ時間が短縮されるなら願ってもない事だ。
俺たちは久しぶりにマロンの村に訪れるべくその魔導車を降りた。