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湿地帯のダンジョン

「じゃあとりあえず入ろっか」

マイマイの声掛けで俺たちはダンジョンへと足を踏み入れる。

ダンジョンの入口に封がされる音を聴きながら奥へと進んだ。

「今回はぁ……湿地?」

足許の悪い道が続いている……。

ねちねちと水気の悪い地面は、時たま足を呑み込み引き抜くのに苦労する。

「厄介な足場だな……」

幸いというか、周囲の植物は背が低く見晴らしが悪い訳では無い。

「周囲に警戒しつつ足許にも気をつけないとな」

「わかりました!……でもこれ、やですね……オレのシッポが……」

フィーナのシッポは泥に触れてしまっている。あれは確かに気持ち悪そうだ……。

俺のシッポはフィーナのものより控えめなのでつくことはないが、シッポがあるという感覚を味わうとあれが泥に塗れているというのは確かにやだよな……。

「上げといたらどうだ?」

「ずっとなんて無理ですよ……装備にくくりつけるなんてもっと無理ですし……」

つまりフィーナはここでは湿地面に両脚とシッポの三点が常についた状態になる。

この中では一番機動面で不利だな。

「危なくならないように固まった方がいいかもねぇ」

「そうだな。なるべくまとまって進もう」

俺たちは列になって進んでいった。



最初のネストがみえた。

そこには複数体の魔法生物の影が見えた。

「あ、敵か?」

その魔法生物は四つん這いの爬虫類のような生物たちだった。

「一見して大人しそうだが……」

「……倒すの?」

「危害を加えてこないなら特には……」

俺がそう言うとマイマイは少し意外そうな顔をした。

「あ、マークさんもそっち派なんだぁ」

「そっち派?」

「マイマイもね、なるべく戦わずに済めばいいなぁって。このリボンもおともだちになった魔法生物にもらったんだぁ」

彼女は頭に着けたかわいらしいピンク色のリボンを示しながら言った。

「魔法生物に?」

「うんー! ドラジェちゃんっていうの!」

「なるほど……っていうかそのリボン、めちゃくちゃ強くない?」

「なんかそうらしいよ」

「なんでそんなものが……」

「ドラジェちゃんダンジョンボスだったみたいだから」

「ダンジョンボスと仲良くなったのか!?」

「そうだよ」

可能なのか……。

「でもさ、ダンジョンボス倒さなくても踏破にはなるの?」

「なるみたい。見てこれ、マイマイの」

マイマイは既にスカイライ区への入場の条件を満たしているようだ。

「マイマイさん強いんだなぁ」

「ユーリィの依頼のおかげだよぉ」

どうやらマイマイは彼女とよく組んでいるようだ。ツテってのはこのことか。

用意が早かったのにも納得だ。

「じゃあマークさんといる時は率先して攻撃しないようにするからね」

「ありがたい。それじゃああいつらは……」

ちらりとネストの方にいる魔法生物を見る。

四匹の群れ。どことなく間抜けそうな顔をしてのんびりと沼に浸かっている。

「なんだ。あんまり凶暴そうではないよ」

「待って」

マイマイが呼び止める。

「見た目はあんなだけど……どうかな?」

「確かに……それで何度か痛い目を見てるしな」

「なんかワニっぽいしね」

「確かに……いきなり噛みつかれたら厄介だ」

……そうだよな。あまり害を為さなそうなやつにほど気をつけるべきだ。

高難易度ダンジョンだし……。

『目前の標的、サーチしたよ! カミクダイルだって』

「なんか怖い名前だな……」

『……』

「あれ、それだけ!?」

『んーとね! 近づくと噛む!』

「よかった近づかなくて」

『……』

「おーい?」

なんかラグがあるな……。

『そんなわけで、遠くから攻撃するか避けて通るのが無難だよ』

「どうする?戦わずに済むならその方が良いけど……」

「もちろん避けて通る! 噛まれたら痛そうだし!」

……多分痛いで済まないよ。

マイマイはカミクダイルのいるあたりから少し離れたあたりを歩き始めた。

……だが、そのうちの一匹がマイマイの方へ向かう!

「あ、危ないっ!」

問答無用のひと噛みがマイマイに迫る!

がぶり!とマイマイは足を噛みつかれた!

「マイマイっ!」

「えい」

マイマイは噛み付いて動けないカミクダイルの頭に短刀を突き刺した。

しばらくじたばたした後カミクダイルは噛みついていた口を解放して動かなくなった。

「痛覚どうなってんの!?」

「あ、いたいいた〜い」

マイマイは今更になって噛まれていた足を押さえながらゆるい声を上げる。

わざとらしいが……鈍いだけなのか?

仲間をやられたカミクダイルたちは恐れをなしたのか俺たちを避けるようにネストの反対側へと移動していく。

「正当防衛だ……仕方ないよな」

「ごめんねワニさん……」

マイマイはカミクダイルの亡骸を少し撫でる。

「……よし、行こう!」

これもまた自然の摂理……そう割り切るしか命を奪うという行為を正当化することはできそうにない。

俺たちは再び歩みを進めた。

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