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水球の試練

湿原を進んでいくと、再びネストに行きあたる。

しかしこのネストには何もないようだ。

「ここは何も無いけれど……道が二手に分かれているねぇ」

右と左、どちらにも通路が伸びている。

三人なので分断する訳にもいかない。

どちらか片方を選ぶしかないだろう。

「どうする?」

「マップ見たらどう? ユーリィ〜」

『はいは〜い! 右はしばらくして行き止まり、左はそのまま奥に続いてるよ』

「よし、じゃ〜右だ!」

マイマイはユーリが行き止まりとした方に行こうと言う。

「えっ、道はないんじゃ?」

「甘いねぇマークさん。行き止まりにはお宝が眠ってるモンなんだよぉ?」

「そ、そうなのか?」

「……たぶん」

根拠には乏しそうだが、確かに秘宝を探している俺はくまなく見ていった方が良さそうだ。

「よし、右に行こう」

「りょうか〜い」

俺たちは右の通路へ向かった。



ユーリのナビ通り、その通路の先にあったネストは他の通路へつながらないものだった。

「何かあるかもしれないし、入ってみようよ」

マイマイが先導して俺たちはネストへ足を踏み入れた。

だが、その瞬間にネストの入口に大きくて太い植物が現れる。

「なっ!?」

「これ、閉じ込められちゃったんじゃないですかぁ!?」

振り向いた先にそんなものがあって驚く俺たちとは対照的にマイマイは平然とした顔をしてそれを見ている。

「これは罠だねぇ」

見りゃわかる。

「……ってことは」

再び振り向くと、そこには泥でできた水球のようなものが浮かんでいた。

「なにあれ」

「多分敵だよね。倒したら開くみたいなそういうギミック」

「じゃあ早速攻撃します!」

そういうとフィーナは無謀にもその球に向かって走っていく。

「あ、迂闊に……」

フィーナは剣を抜き水球を切り裂く。

だが水であるからにはなんの手応えもない様子で剣はその水球を通り抜ける。

「だめですねぇ」

苦笑しつつこちらに向き直るフィーナに、突如水球が飛びつく。

「わぶっ……!」

フィーナの頭が水球で包まれてしまった!

「おいこれ! まずい!」

フィーナはもがいて水球を取り外そうとするが、腕は水球を通り抜けてしまうため動かすことが出来ない。

「がぼごぼごぼぼぼ!」

「取れないみたいだ! ちくしょうどうすれば……」

「てーーいっ!」

いきなりマイマイがフィーナの頭を掴むと湿った足許に押し付ける。

「わぶーーっ!」

「な、なにやってんだよ!?」

そしてマイマイは素早く頭を掴み上げた。

「ぶほぉっ!」

泥だらけの顔面だが、泥の水球は取れている。

どうやら水球は地面の泥と同化して頭から抜けたようだ。

「ごほっ! ごほ! は、はぁ……はぁ。あ、ありがとうございます……マイマイさん」

「よかったぁとれて」

「危ないところでした……」

水球は消えたわけだが、ネストを封じた植物はそのままだ。

『まだだよ! うしろ!』

ユーリの声を聞き後ろを振り返ると、先程の水球が三つ浮かんでいた!

「何かいるな!」

俺は足許に広がる泥に向かって剣を振り下ろした。

大きく泥のしぶきがあがって前方に飛び散る。

すると、水球の後ろの方にその飛沫が引っかかった。

「見えないけど実体はある感じ?」

「ジヴルくん……なわけないか」

「つまりあの後ろにいるんですね!?」

そう言うとフィーナはまた走り出そうとする。

「おいお前は……」

「さっきは情けなかったですけど! 位置さえわかればやれますよ!」

フィーナは高く前方に跳躍して全ての水球を飛び越える。

そして飛沫が不自然に浮かんでいる箇所に向かって天から剣を振り下ろす。

その瞬間、金属と金属がぶつかり合うような高い音が周囲に鳴り響く。

「あああぁぁぁ〜〜」

フィーナは剣から伝わった振動で全身が震えてしまっている。

「大丈夫? 硬かった?」

「硬いです……なんですかこのカチコチ……」

「そっか。じゃあ、マイマイの出番だね」

何か策があるのだろうか?

マイマイは突然脱力したように肩の力を抜くと、ふらふらと踊り始めた。

「え、なに?」

「アンヘルス……ダ〜ンス」

……何か変わったんだろうか。

「さぁ今だよ! 剣を振るんだナっちゃん!」

「ナっちゃん? あ、オレのことですね! えぇーい!」

フィーナが剣をぶん回すと、今度は何かを斬るような音が周囲に響いた。

そして、水球はきれいさっぱり消えた!

「あ、やったんですかね!?」

入口の植物も消えて、ネストの中央には宝箱のようなものが現れた!

「オ、オレ……何かを殺したんですか……?」

「仕方のないことだよナっちゃん。敵対する者に関してはマイマイたちには救えない」

「覚悟はしているわけですが……正体もわからないものを殺したってなると、少しイヤですね……」

「水に精霊が宿った者だったのかもしれないぜ。そしたら殺したってよりかは水を斬り飛ばしたから霧散した、みたいな」

「だ、だって……はじめのあの硬さも、斬った時のあの感触も……」

フィーナはちょっと涙ぐみながら主張し始める。

「……あまり深く考えるな。お前はよくやった。それだけだ」

「……はいっ!」

「じゃあ〜気になるオタカラのチェック、いいすかっ?」

マイマイが宝箱の前でぴょんぴょんと跳ねる。

「よし、そうだな。いいな? フィーナ」

「はい!」

空元気か、考えを改めたか、フィーナははっきりとした声で返事をすると宝箱の方へ歩み寄った。

「中身は何かな? どきどき」

俺たちはその箱を開けた。

中には金属製の枠にオパールの埋め込まれたブローチが入っていた。

「おっ! いいものだね! これは報酬金のアテになるぞ〜!」

「ここで得たものの売値の30%を払うんだよな? この場合どうなる? マイマイか俺がこのブローチをもらうとしたら、もらった方がその30%を払うってことだよな?」

「それであってるよ。あと、マイマイは基本的にほしいもの以外はもらわないから」

「え?」

「マイマイは楽しんでやってるからね。ユーリィに頼まれて来てるから報酬も払う必要ないし〜」

「いいのかそれで? こっちだって助けてもらってるのに……」

「楽しいからって言ったでしょ? お互い助かってるよねぇ」

「マイマイがそれでいいならいいけど……」

遊び人のくせに謙虚なんだなぁ……。

「さ、じゃあ進もうか。まだ先は長そうだよ〜」

「お、おう」

楽しそうに進むマイマイの後へ続いた。

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