「お、次のネストだ」
少し進むとまたネストが見えてきた。
今回のネストには何も無い。
泥沼が広がっているのみだ。
「なぁんだ。またなんもナシですか」
だが、泥沼の中から時折水泡が上がってくるのに気づいた。
「待て! フィーナ!」
「へ?」
声をかけた時にはもう既にフィーナはネストに足を踏み入れてしまっていた。
「あっ! な、なんかが足に!」
そう言ったかと思うと、フィーナの下半身は一気に泥沼の中に沈んでいった。
「のわぁっ! な、なんですかこれぇ!」
「大丈夫かフィーナ!」
とはいえ迂闊に近づけない。幸いまだ上半身はそのまま出ているので通路から様子を見る。
「ど、どうしましょう……ずっぽしですこれ……」
身動きは取れそうにないが、今のところそれだけのようだ。
「何かに引っ張られたのか?」
「はい。なんか、手みたいな……んっ……」
「ど、どうした?」
突然フィーナは上擦った声を上げる。
「あ……は……っん」
どこか恍惚とした表情の彼女は、見ていて何か良くないことを想像させる……。
「おいヘンな声出すなよ……」
「いやこれ……あっ! ちょ、ちょっと! そ、そこは違うじゃないですか!!」
急にフィーナが慌てたような表情に変わる。
「ま、まって! ん……あ、ああぁ! い、痛……いたただたっ!」
「何が起きてるんだ! やばいのか!」
「ぐぅぅ……も、もう……むりぃ……!」
「どうしようマイマイさん! フィーナが何かに食べられているのかもしれない!」
「いや……その……た、たぶん……違うんじゃない?」
なぜかマイマイは少し顔を赤くして言いづらそうに否定する。
「なんで!? あんなに苦しそうにして!」
「そ、その……え、えっちなことされてるんじゃないの?」
マイマイは恥ずかしそうにそう言った。
「え、えええ……えっちなこと!?」
まさかそんな! あの沼の下で……!?
「おいフィーナ! お前今……そ、そうなのか!?」
「ち、違いますからぁっ! 助けてくださいよぉ!」
「……マークさん、そんなの素直に答えるはずないよ」
「そうなのか……くそ、一体どうしたら……」
と、そこでふとあることを思いついた。
「そうだフィーナ!上半身が空いてるだろ! 首輪だ! 首輪を起動しろ!」
「あっ……あっ……く、くびわっ……で、すね……」
吐息を漏らしながらフィーナがぎこちなく首輪に手を伸ばす。
「ああっ! そ、そこっ!」
でもそれどころじゃなさそうだ。
「首輪のボタンを押せれば……」
「がんばれナっちゃん! 耐えて!」
「う……うぅ……」
かろうじてフィーナは首輪のボタンを押す。
「うあああぁぁっ!」
フィーナ久々の人狼化です。
大きくなったことで泥に埋まっていた下半身は泥ごと隆起した。
「行きましょう! はやく!」
俺たちは沼に潜む何者かに捕まらないように素早くネストを駆け抜けた。
「ふぅ……ふぅ……あぁいたかった……」
子どもの姿になってしまったフィーナは足を引きずりつつ歩を進めている。
「フィーナ……その……大丈夫か?」
「だいじょうぶですけどいたかったですよぉ……」
「ナっちゃん……大変だったね……」
「うぅ……はじめはきもちいとおもったのにぃ……」
これはきいてもいいものか……でも気になるし……。
「な、なぁ……沼の中で何されたんだ?」
「ちょっとマークさん! 乙女にそんなこと……」
「え? なんでですか?」
フィーナはマイマイの言葉に逆に疑問を抱いたように彼女に問い返す。
「え、だって……それは……」
『はいはーい、さっきの魔法生物の詳細わかりましたぁーっ』
そこにユーリの通信が割り込んでくる。
「ユーリィ、言って大丈夫なやつ?」
『え、なんで? んーとね、さっきのはマッドージっていう魔法生物でね、沼に対象を引きずり込んでマッサージしてくれるんだよ』
「えっ」
「あしのうらぐりぐりされて……すっごくいたかったんですから!」
……あぁ、なるほど。
「よし、元気になったところで次行こう」
「お〜」
「え? な、なんなんですか〜!」
勘違いがバレるのも恥ずかしいので足早に次のネストを目指した。