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違和感

残るネストはあとふたつ。

うちひとつはボスのいるネスト。

……だとすると、その前のネストは前回のように準備エリアになっている可能性がある。

その答えを示すかのように次のネストが見えてきた。

『はいみんなおつかれ〜。ボス前のセーフネストだね!』

どうやら間違いないらしい。

『ヒーラーモルフォ探してね』

回復するやつか……正直負傷がないから必要は無いが……。

「たすかりますぅ」

こいつには必要か。

そこらへんの草を切るとひらひらと赤い羽根をはためかせながらヒーラーモルフォが飛んできた。

「ほらフィーナ、この鱗粉を受けるんだ」

「ありがとうございます……あぁ、これききますねぇ……」

フィーナの身体は子どもの姿からもとの姿に戻った!

「あっ! これも戻るんですね!」

「色々な悪い異常も取り除いてくれるよ」

「これならもうすぐにでも戦えます!」

「まぁ急ぐなよ。油断は禁物だ」

少しばかり休憩を入れてから、通路を進む。

前回同様に両開きの扉がそこにはあった。

ボスのいるネストもまた広間のようになっているらしい。

「ボスはみんな部屋の中にいるのか?」

「そうみたい。ボスってだけあるよねぇ」

果たして今回はどんな相手か……。

一呼吸置いてから扉に手をかける。

「開けるぞ」

「はい!」

ゆっくりと扉を開き、中へと足を踏み入れた。



……入った。はずだ。

俺たちは確かに扉を通ってネストに入ったのだ。

「……え?」

そこに広がっていたのは、タセフィ区の平原だった。

「なんかの間違いか? 俺たちまだ攻略してないもんな」

振り返ってフィーナたちに同意を求める。

「え? もう攻略は終わったじゃないですか!」

「そうだよぉ。無事に踏破、よかったよかった」

しれっとそんなことを言っているのだ。

「何言ってんだよ。今部屋に入ったばかりで……」

「じゃあノーフで確認すればいいよ。ほら、星増えてない?」

マイマイに言われた通りにノーフを確認してみると、ボスダンジョンをクリアしたことになっている。

「あれっ!?」

「逆になんで憶えてないんですか?」

「そりゃ……だってほんとに……」

「あ、あの攻撃喰らったからかも……」

マイマイが何かを思いついたかのようにそう言い出した。

「え? 俺なんかなったの?」

「頭に強い衝撃を受けた様子でした……多分その時に記憶が飛んでしまったのかと……」

心配そうに俺の方を見ながらフィーナが説明する。

「まじか……せっかくのボス戦だったってのに微塵も憶えてないぜ……」

「まぁ〜終わったからさ、もう一安心だよ」

「そ、そうか……」

若干腑に落ちないところはある。

あるにはあるが……こいつらがこう言うんだから本当なんだろう……。

「じゃあ、ちょっとここらで休んでかない?」

「え?」

「疲れちゃったもんー。帰る前にちょっとだけ付き合って」

「わ、わかったよ」

転移魔法でギルドまですぐに戻れるが……とりあえずマイマイが用意してくれた簡易的な座椅子に腰掛ける。

「おつかれ〜……じゃあ、死んで?」

一息つこうと力を抜いた瞬間に、マイマイが短刀を振りかざして襲いかかってきた。

「あっぶな! なにすんだよ!」

間一髪のところで座椅子から転がりその刃を避けた。

「フィーナ! 逃げるぞ!」

フィーナに声をかけて乱心のマイマイから逃げようとしたのだが……。

「あなたの言うことはききません」

「……は?」

「逃げてばかりで恥ずかしくないですか? 戦いもしないで偉そうな口きかないでください」

……な、なんだこの言葉のナイフは……。

泣いちゃうだろ!

「フィーナ? なんでそんなこというの?」

彼女の表情からはいつものような明るい様子は感じられなかった。

……というか、こいつらどうかしてる。

或いはやはり……この場所自体がおかしいんだ。

だがどう打開するっていうんだ? こいつらもこの景色も現実にしか見えないし……。

「つかまえ……た」

思案しているうちに、マイマイが後ろに回り込んでいたらしい。

がしりと身体を掴まれて、短刀が脇腹にあてられる。

「おいおい……」

「じゃあ、さようなら〜」

そう言うとマイマイは短刀を押し込みはじめる。

「くそっ! 迷ってる暇はない! 一か八か、ノーマライゼーション!!」

短刀が俺の腹を抉るより前に、俺はノーマライゼーションを発動させると、目の前全てが真っ白な光に包まれていった。


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