酒場に到着した俺たちは、そこで待っていたユーリと合流する。
「やぁ〜おつかれ! まぁ座りなよ!」
テーブル席を取っていてくれたので、俺たちはユーリの前の席に座った。
「で? 今回の冒険、なかなかだったでしょ?」
「なかなかなんてもんじゃねぇぞ! 俺の望んでいたものが手に入ったんだからな! 改めて礼を言う! ありがとうユーリ!」
俺はユーリに頭を下げる。
「たまたまじゃん。そんな改まることないんだって」
笑いながらそれを受け流すが、この溢れる感謝は伝えきれそうにない。
「とりあえず食べようよ。疲れたでしょ?」
「……注文?」
カルアがとことことこちらに近づいてきた。
「……フィーちゃんは、カルアのものなので」
じっとユーリを見つめた後に、カルアは忠告するように彼女に言う。
「あ、あはは。なんで?」
「一緒にご飯食べるだけじゃないか。なぁフィーナ?」
「ご、ごめんねカルちゃん。やだったらオレ、席はずすから……」
「……ご、ごめん。カルアが悪い……。冒険者なら、当たり前のことだし……」
そう言ってカルアは申し訳なさそうに目を伏せる。
「な、なにこの甘酸っぱい子たち! え、そういうことなの? そういう関係なの!?」
威嚇されてたユーリは気にする様子もなくきゃーきゃー騒ぎ始める。
「あれ、でもフィーナちゃんってマークさんのことが……」
「わー! そんなことないですよー!」
「……別に、それに関しては仕方ないと思ってる。でも、マークは他に好きな人いるし……」
「そうなんですよ……で、でも! カルちやゃんのことはご主人様がいなくたって関係ないですからね!」
「……すきってこと?」
「あっ……その、ちがくて……」
「……ちがうの?」
「…………」
フィーナは顔を赤くして黙り込んでしまった。
「はい、じゃあ注文いい?」
「む……今、いいトコだったのに……」
「悪い悪い。でもこっちも腹ぺこなんだ」
「そうそう! カルちゃん、この話はまた今度……」
「……それで、何頼むの」
表情の変化はわかりにくいが多分不機嫌な感じになりながらカルアは注文を受けた。
「もうちょっと見ててもよかったんじゃない?」
「あそこから長いんだよこのふたりは」
「助かりましたよぉ……」
「っていうかいい加減認めたらどうだ? その方がお互いに幸せだろ」
「そしたら、冒険できなくなっちゃいますから……」
「……もしかしたら、もうしなくてもいいかもしれないだろ」
「そ、それは……」
「なになに? もう冒険者やめちゃうの?」
「俺の目的はヒトに戻ることだったんだが……さっき手に入った幻想石があればそれが叶いそうなんだ。だから……」
「なぁるほど。確かにね、ガレフは危険な場所だし、冒険者続けるくらいなら平和に暮らした方が良いものね」
「……どうしたらいいかな。俺、まだ迷ってるんだ」
「迷ってるって、何にさ?」
「簡単に終わりすぎじゃないかって。タセフィ区を抜けてスカイライ区に行くことをひとまずの目標としてたから、それすらせずにってのはあまりに早いんじゃないかって……」
「いやいや、目的のための目標でしょ? だったらもう目的は果たしてるんだからスカイライ区に行く必要もないじゃん。幸せに暮らしてハッピーエンド。それでよくない?」
「もしそうなら……それでいいんだが……」
「なんで迷ってるのよ」
横から飲み物を運んできたアビーが口を挟む。
「アビーか。きいてたのか?」
「盗み聞きしたわけじゃないけど……目的、果たしたんだってね。ひとつ言わせてもらうわよ」
咳払いしたあと、アビーは語り始める。
「いい? 冒険者には明日があるだけ幸運なのよ。毎日来てくれてたけど、ある日突然来なくなった人も数えられない。その大半は目的を果たしたからじゃない。……命を落としたからよ。運が良いだけ。こんな場所にいて無事で居られるのは……。だからあたしは戦うのもイヤ。殺すのも、殺されるのも……。こんな場所にいたらおかしくなってしまうから、だから、早く抜けた方が良いよ」
「アビー……」
「お得意様がいなくなっちゃうのはそりゃこの店にとっては痛いわよ? でも、どうさ居なくなるならまた会いに来てくれる状態で居なくなって欲しいじゃない。……だから、また会いに来てよ。今度はお嫁さんと一緒にさ!」
「お、お嫁って……気が早ェよ」
「その時は私も呼んでよね〜。長い付き合いってわけじゃないけど、お祝いはしたいからさぁ」
「まだ学生だし大分後だっての」
「あ、じゃあするって認めたってことだ!」
「茶化すなっ!」
「……そっかぁ……じゃあ、もうオレも……」
「もしかすると、お前ももう俺についてくる必要は無くなるかもしれないな……」
「そんな顔したってしょうがないでしょー? もしかするとまだおわらないかもしれないし、もしそうなってもあんたはウチで引き取る約束なんだから!」
「そ、そんな約束しましたっけ……?」
「今決めた!」
「カルアとのことはもう完璧公認ってこと?」
「……そうじゃなかったらあの時一緒に働いてないっての。もうこの子は立派なウチの看板娘なんだから、逆にあんたには渡さないわよ?」
「はは、そりゃ惜しいことしたなぁ」
「……お待たせ」
カルアも食事を持ってやってきた。
「あれ? 多くない?」
「お母さんが、サービスだって……」
「マーク! あんた水くさいね! 聞こえてんだよこっちは!」
カウンターの方から大きな声が聞こえた。
「やめないでなんて言うつもりはないわよ。……おめでとう、マーク」
そう告げるとアビーもカウンターの方へ戻っていった。
「……ごゆっくり」
それについて行くようにカルアも戻っていく。
「名残惜しくなっちゃった?」
「……なるさ。短い間だったけど、こんなに良くしてくれるんだからさ……」
酒場のみんなのサービスに、目頭が熱くなるのを感じた。
「冷めないうちにいただこう」
俺たちはその料理をとことん味わい尽くした。