「あー……アミィ?」
俺の質問を聞いて表情を曇らせたアミィは、次の瞬間にはいつものにこやかな表情に変わっていた。
「ん〜、なにかな? ソレ」
ここでシラを切るってことは、アミィにとってなにか都合の悪いことがあるのかもしれない。
「もしかして、言っちゃダメなやつか?」
「……まぁ、ねぇ〜。マークくんは……叶えたい願いって何かある?」
その質問が次に来るってことは、やはりアミィは知っている。
知らないふりをして俺の願いを問うのなら、きっと返答次第では教えて貰えないかもしれない。
「……えっと、どうかな。生き返ってまた人生を謳歌できれば……って、何の話だって感じだよな」
「ううん、わかるよ。……そうか。生き返って……ね」
何か考えるようにアミィは頷く。
「結論から言うけど、使命についてはボクは知っているし、キミはそれを果たしていない」
ずばりとアミィが答えを言う。
「えっ」
「でもさ、落ち着いて? 使命を果たして願いを叶えてもらうってことが、そんなに大事なことなのかなぁ?」
アミィは諭すように俺に言う。
「それはどういう? お前のことは信じていいんだよな?」
「それは……どうかな?」
ここに来てアミィはまた意味深なことを言う。
「今になって何言ってんだよ。お前が色々手引きしてくれたから俺は冒険をやめるんだぞ」
「それ自体はいい事だよ。でもキミが使命を果たすためには、もう一度冒険者にならなけらばいけない。それでもキミは、それを選ぶかい?」
「……うぅん」
正直答えを出すには迷ってしまう。
せっかくこれでガレフに潜る必要もなくなったというのにまた入ることになるのか。
「ちなみに、使命ってのは?」
「ガレフで死ぬことだよ」
またあっさりと放たれた言葉は、その軽さにそぐわない物騒なものだった。
「そ、そんな……どういうことだよ」
「言い方が極端だったね。でもそういうことなんだよ。より多くのダンジョンを攻略し、力尽きるまでガレフを探索する。それがキミたち転生者の使命さ」
「そこまで知って……」
「もし! もし、キミがこの先マークとして生きたとしたら! それはそれで幸せな人生を送れると思うんだ。なんならボクがキミを本当のニンゲンに戻してあげてもいい。幻想石は渡してもらうけどね」
「それは本当か!?」
「アミィちゃんに二言はないよ。でもそうしたら、キミは本当にただのニンゲンだ。ボクが戻すのは飽くまでマークくんだからね」
「え?」
「ノーマライゼーションは、もう使えないよ」
「それは……」
言い切られると、少し尻込みしてしまう。
「躊躇うかい? 無理もないか。キミが転生者として与えられた唯一にして絶対の普通でない普通……それがノーマライゼーションだものね」
「な、なんでそんなことまで知ってるんだよ!」
「さぁてね。キミを見ていたからさ」
そう言うとアミィはくすくすと笑った。
本当に、こいつが人類を護ってきたんだよな……?
絶対的なチカラを持つことだけはわかるが、それを無理やり行使しないことに何か意味があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
俺がこれを受け入れても受け入れなくてもいいような言い方さえする。
全てはこいつの手のひらの上なのか?
「……なんか、考えても無駄な気がしてきたな」
ひとつ息を吐いて、アミィを見据える。
「決めたよ。アミィ」
「おっ、そうかい?」
「俺は、ニンゲンに戻るよ」
転生者としての使命を捨て、俺はアミィにそう宣言した。