転移魔法を使ってガレフの外までやってきた俺たちは、あえて魔導車に乗らずに歩いて帰ることにした。
「いい天気……これはホンモノの太陽ですね」
「あっちのニセモノもほとんど変わらなかったからなぁ。改めて魔素のすごさを思い知る……」
「地上ではまだあんまり使われてないんですよね?」
「時間の問題だと思うけどな。ルルーさんのいるアンシェローが研究してるから、この先もっと便利になるだろう」
「そうしたら、移動もきっともっとラクになりますよね!」
「そうだなぁ。前にも言った気がするけどアミィテレポートがもっと範囲を広げられたらめちゃくちゃ便利だよな」
「そうですね。……そうしたら、すぐに会いに行けるのに」
「まぁ距離もあるから、あんまりガレフに行ってやることはできないかもなぁ」
「そ、そうなんですか!?」
「なるべく行くから心配すんなよ」
「も〜」
いつもと変わらない調子の会話。それも今日までだろう。違う道を歩むことを決めた以上、それは揺るぎない事実だ。
「…………」
「…………」
おそらくフィーナも同じことを思っているはずだ。
魔導車に乗らずに行くことに黙って同意したのも、別れを引き伸ばしたかったのを察してくれたからに違いない。
「……こうしてると、今までのこと、思い出すな」
「初めて会った時、ご主人様、オレのことすごく疑ってましたもんね」
「そりゃそうだろ。記憶に無いんだもん」
「あれは寂しかったなぁ」
わざとらしくそんなことを言われると謝らざるをえない……。
「悪かったよ」
「ふふ、気にしてませんよ。嬉しさの方が全然おっきいですから」
「……それからは、お前に支えられてばっかだったよ」
「えーそうでしたか? オレ、ずっと足引っ張ってばっかだったじゃないですかぁ」
「お前がいなきゃ、俺は絶対にここまで来れてない。それは本当だよ」
「……ご主人様。オレ、うれしいです。最後の最後まであぁやって悩んでましたけど……オレにもここまで頑張ってきた価値が、少しでもあったんだなって」
「お前って謙虚だよな。村を護ってた時点で、とっくに恩返しなんて終わってんのに」
「そんなことないんですよ! オレは生涯をかけて……う、でもそれじゃあ……これからは……」
「だからいいって。十分すぎるから。何度命を賭けたんだよお前は」
「オレなんかの命……」
「そんな軽いもんじゃないって」
「そ、そうですか……? 仲間から嫌われて、ヒトからも嫌われて……誰にも愛されないオレになんか……」
「お前が冒険中に出会った者たちは、どうだった?」
「んん……それは……」
言い淀むのも当然で、冒険中フィーナは暖かいヒトたちに触れてばかりだった。
そもそも魔法生物が生きるにはガレフの方が適していたのだ。
地上に来ていたフィーナは運悪く冷たい迫害に触れていただけだ。
「お前は何も悪くない。全部周りが悪かったんだよ。だから、俺のためにお前に長い時間を使わせてしまったこと……逆に申し訳ないよ」
「そんな! やめてくださいよ!」
「フィーナ。お前はいいやつだよ。幸せになってほしい」
「……ありがとうございます。本当は、ご主人様といられたなら……」
「あ、それはほんっとうにごめん……」
「…………うぅ」
フィーナは残念そうに肩を落とす。
俺だってなぁ……。
「絶対……絶対会いに来てくださいよ! 約束なんですからね!」
「わかってるよ。お前のこと、忘れるはずない」
「ならいいです! ふふふふ!」
全部終わったら、またフィーナに会いに行こう。
こいつが恩を返して、俺が返さないわけにいかないものな。
「よーし、じゃあご主人様! オレの背中に乗ってください!」
フィーナは久々に獣の姿に変身する。
「おっ! 乗せてくれるか!」
「素肌で風を切るのは気持ち良いですよ〜!」
俺がフィーナに跨ると、フィーナは草原を駆け出した。