…………映像が途切れて、ようやく意識が戻ってきた。
身体の感覚が戻ってきたのを確認して、俺は大きく、大きく息を吸い込んだ。
「なっっっっっっっっげ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
俺の叫びは局長室に響き渡りビリビリと大気を揺らした。
「うるさいわね。目覚めたと思ったら」
「いやでも……」
「鑑賞会と言ったでしょう?」
「そうですけど……」
「ほら……ながい……」
俺と同じく目覚めていたララは青ざめながらぼやいている。
こどもの感覚かと思ったのに……マジで長いじゃねぇか……。
「え、てか……なに、五分とかって言ってませんでした?」
「言ったわよ」
そう言ってメリアさんは時計を示す。
すると確かにその時刻は鑑賞を始めてから数分程しか経過していなかった。
「そんな……百日間くらい経過したと思ったのに……」
「なんでひゃくにち? マークさんのぼうけんすうじつくらいしかみてないのに」
「……色々あんだよ」
マークことたかしの冒険を主観に近い視点で見させられた。
転生したあいつが悲惨な目に遭いそこから世界を改変して冒険者になり、そして結果的に代償を元に戻す、つまりは普通になるまでの過程を目撃した。
普通代表みたいなたかしが普通になるために奮闘する姿は見ていて心苦しくも胸が熱くなるものだったが……。
「メリアさん、あいつ結局あのあと普通に暮らしたんですよね? そしたら使命は……」
「そうねぇ。そこら辺に関しては本人も交えてお話しましょうか」
「本人?」
「それじゃ行くわよ」
メリアさんは椅子から立ち上がると局長室を出ていった。
「え?」
困惑しながらも俺たちはメリアさんについていった。
メリアさんは転生面談室へと入っていった。
「さ、呼ぶわよ」
「呼ぶってまさか……」
床にある魔法陣に手をかざすと、そこから光が立ち上る。
その光の中からひとつの人影が現れた。
「ん……うおっ! なにこれ!」
聞き覚えのある声……やはりそうだ。
「たかし! たかしじゃないか!」
「え……先輩!? じゃあここ……あの時の!?」
そこにいたのはあの時転生したたかしだった。
「てかこの姿……俺のもとの身体じゃん……」
見た目も転生後のマークのものではなく転生前のたかしのままだ。
彼は自身の身体や周囲を見回して確認する。が、メリアさんの顔を見つけた途端その顔は青ざめた。
「あっ……!」
「……やってくれたわね」
メリアさんは小さく呟いた。
「待ってくださいよぉ! 使命だって不明瞭だったしそんなこと言われても困るっていうかぁ」
「……それは確かに。いいサンプルにはなったわね」
「で、ですよね……」
ほっと胸を撫で下ろすようにたかしは安堵する。
「じゃあベナルティの話をするわね」
「きいいぃてないんですけどおおぉ!」
安心も束の間、たかしはベナルティときいて絶叫する。
「使命を果たしてくれると思ったんだもの……心苦しいけどこればかりは仕方ないわね……」
「じゃあペナルティなんて課さなきゃいいじゃないですか!」
「ケジメだもの。仕方ないわ」
「そんな……」
たかしは諦めたように地面に膝をつく。
「じゃあ説明していくわね。まず使命について。これはあなたがガレフの攻略を進めれば自動的に合格になるものだったのだけど、途中で諦めてしまったのよね」
「諦めたっていうか……俺の人生だし保守的な方を選んだというか……」
「勘違いしてもらっては困るのだけど、あなたは使命を持たせて転生させた、のよ? 自由にしろとは言っていないわ」
「それはそうですけど……」
「生き返らせてもらったと浮かれていたかしら? でもそうじゃないの。あなたは命を借りているだけよ」
「……」
黙っちゃった。
「……とはいえ、過酷な運命に身を投じさせたのは事実」
「そうですよメリアさん! たかしの村が襲われた時のあの絶望感といったら……」
「……」
無言の圧力をかけられたので黙ろう。
「なのであなたに課すペナルティはこちらになります」
メリアさんが手を叩くと、たかしの身体が変化する。
「なっ!」
そこにいたのは、たかしのジュダストロでの姿。あのマークだった。
「ペナルティって……これがですか?」
「あなたはジュダストロへ追放します。もう現実の世界には帰れない……」
ペナルティという体裁上厳しい言い方をするが、それはある意味では彼の異世界での安住を認めたということである。
「そんな! 追放ですって!?」
多分マークは表面上の言葉しか理解してないな……。
「……見逃すってことだよ。それにお前、あの時言ってただろ。使命を捨ててでも普通に暮らしたいって」
「見逃してくれるんすか……? え、ていうか先輩見てたの?」
「旅の始まりからなにまで全部見てたぞ」
「ちょ、ずるくないっすか?」
「お前の方がずるいよ。なんだよあんなハーレムみたいな……」
「言わないでくださいよ! 恥ずかしいから!」
「さ、それではマークさん。あなたを再びあちらに送りますよ。……あぁ、もしまたアミィ・ユノンを見かけたら……」
メリアさんはにこりと笑う。
「殺しておいてくださいね」