物騒なセリフがメリアさんの口から出たので、周囲が凍りつく。
「え……えぇ? ちょっと笑えないっすよ。あいつは俺を救ってくれた……」
「救った? あなたからスキルと使命を剥奪したんですよ?」
「そうとも言えますが……」
「アミィ・ユノンは危険な存在です。あれがいるせいで多くのニンゲンがガレフへと引き込まれていく。転生者の軍勢でガレフを落とせば終わりなのですが……迷宮化のせいでそれもうまくいかないのです」
「それはあいつが地上に魔法生物が溢れないように……」
「敵の理屈です」
「この……」
「待てマーク。それは分が悪い」
「それでも!」
「はいやめろ。……んー、でも確かにアミィはどちらかというと中立な感じだったよな」
「アミィ・ユノンはこれまでのあらゆる時代に存在してきました。彼女はある意味では、ジュダストロそのものに近い」
「だったら……」
「天界はそれを良しとはしません。魔法生物たちを管理することはあってもそれに蹂躙されることなどあってはならないのです」
「エゴですよ、それは!」
「おいもうやめろって……」
「まぁ、あなたのことは決めた以上の沙汰を下すことは無いですけど、あまりナマイキなことを言うと……」
メリアさんはにこりと笑う。
「す、すみません……」
「わかればいいのよ。でも本当に気をつけて。アミィ・ユノンは底が知れない。一晩で人類を滅亡させられるチカラなんて放置できないでしょう?」
「そう言われるとまぁ……あいつのチカラならやれてしまうような……」
「確実にやれるわ。でも不意打ちに備えられない程の隙があるのが甘いところね。アミィ・ユノンは不滅だけれど転生には時間がかかるの。もし殺せたら特別な報奨を約束してもいいわ」
「うぅん……」
マークは悩んだように唸り声を上げる。
当然の反応だ。彼にとってアミィは恩人である。最初は険悪だったが……人類を護る存在であることも知らされて信用しているはずだ。
そのアミィを裏切り不意打ちで殺すなど……。
「まぁ強制はしないわ。とにかくあなたは追放だから。ジュダストロでその生を全うするのね」
「は、はい!」
アミィのことについては警告程度に話を区切られた。
「じゃ、送るわね。いいかしら?」
「よろしくお願いします! 先輩たちも、ありがとうございます」
「レベッカと幸せにな」
「も……もちろんですよ!」
マークは一瞬驚いていたが、先程見ていたことを伝えたことを思い出したからか照れくさそうに返事をした。
「マークくん、かえるの?」
「お、おう。……話聞いてた?」
「きいてるよ!」
ごめん、多分こいつあんま聞いてなかった……。
「アミィちゃんを、ころすんでしょ?」
嫌なとこ聞いてたなこいつも。
「いやその……それは……」
「マークくん、ひどいね!」
「ひ、ひどくないわいっ! まだ決めてないし! それにそっちが出してきた使命だし!」
「ひどいひどい!」
「ひどくない!」
「じゃあころすのやめてね」
「え、でも……」
「ララ? 勝手なことを言うのはやめなさい?」
「はっ……!」
メリアさんにプレッシャーをかけられてララは固まる。
「ぜったいころしてね」
「こいつ……」
マークは呆れて嘆息する。
「さ、もういいかしら?」
「あ、すみません。お待たせしました」
「じゃあなマーク。おつかれさん」
「ありがとうございます! 死んだはずなのにここまでしてもらえてほんと良かったですよ……」
「はは。そうだよな」
「じゃあ、さようなら。もしまた会う時があれば、そん時はまたよろしくお願いします」
「おーう! またあおうねぇ〜!」
ララが叫びながら手を振っているうちに、マークは光に包まれて消えていった。
「……さて。それでは今日はここまでにしましょうか」
「このまま終わりですか?」
「見た目より結構疲れるのよこれ」
……見た目通りですけどね。
「あなたたちも疲れたでしょう? 時間の流れに関係なく圧縮した情報を送り込んだからね」
「脳みそ焼き切れるかと思いましたけど」
「タイパの時代よ」
そんなんで片付けられていいものか……。
「では俺たち帰りますよ」
「はいおつかれさま。また明日来なさいな。やらなきゃいけないことがありますからね」
「はい!」
俺たちはメリアさんを残して転生面談室を出ると、別室に置いてあった荷物を持って転生管理局を後にした。