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はんせいしなさい

「うぅ……ね、ねむ……」

家に着くと、急激に眠気が襲ってきた。

さっきまで普通にしてたのが嘘みたいだ……。

まぁ普通の人間が体感する数日の情報を五分間で体験したのだから今俺の脳みそはとんでもないことになっている可能性がある……。

メリアさんのことだからしっかり対策してるだろうけどね。

「おうちかえれたぁ! きゃはー!」

ララはなぜか逆に元気になってる気がするが……。

「お前眠くねぇの?」

「ちょっとつかれたけど、まえにもやったからだいじょうぶ」

慣れるもんなんだな。

「ひさしぶりにおうちにかえれたきぶん!」

「実感湧かないけど一日も経ってないわけだからなぁ……」

「ひゃくにちはいいすぎだけどね!」

「いやそれがなぜか言い過ぎじゃない気もするんだよなぁ……」

不思議な確証があるが同時に深く言及すべきでない気もする。

「さて、それじゃあ俺は寝るから」

「えぇ〜? まだあかるいけどっ?」

「関係ない、寝る」

「あそぼうよぅ!」

俺の手をぐいぐい引っ張ってアピールするが、この眠気の中で遊ぶなんて……。

「……いや、そうだな。遊ぶか!」

「うやったぁ〜い!」

ララは嬉しそうに飛び跳ねる。

「じゃあ俺隠れるから」

「かくれる?」

「かくれんぼ。知らない?」

「なにそれ?」

「オニと隠れる側に別れるんだ。基本的にオニはひとり。隠れる側を全員見つけたら勝ち。俺たちはふたりだから一体一の真剣勝負ってわけだな」

「しんけん……しょうぶ……!」

お、興奮してきたな。

「でもオニってなに? おにいちゃん?」

「このくだり前もやったから」

「しらないよぉ!」

「オニってのはな、悪い子どもを食べちゃうんだぞ。だから見つかったら……」

「きゃあぁぁー!」

ララは甲高い声を上げる。

「てなわけで全力で隠れるように」

「よーし!」

ララは早速駆け出そうとしたが、重要なことを言ってなかった。

「待て待て。まずは俺が目隠しして十秒数えるから。それでな、もーいいかい? ってきくぞ。隠れられていなかったらお前はまーだだよと言え。準備が出来たらもーいいよと、そう言うんだ。そうしたら、オニがお前を食べに行くから」

「みつかんないもんっ!」

「はいじゃあ隠れろ! いくぞ! じゅ〜う!」

「わっ! わわっ!」

目を手で覆い、カウントダウンする。ララが慌てて遠くへ行く音が聞こえた。

「もーいいかい?」

「まだっ! まだだよ〜!」

再びカウントダウンをしてききなおす。

「もーいいかい?」

「もういいよーっ!」

反響する音が聞こえた。十中八九風呂場にいるだろう。

だが、俺がなんのためにかくれんぼを選んだかおわかりだろうか。

この遊びは必然的にオニとサバイバーが離れるのである。

つまり、今俺が何をしていたとしても奴には見えないのである。

さて……邪魔者も消えたところで昼寝でもするか……。

俺はタオルケットを腹に掛けて床に寝転がった。

疲れていた身体はすぐに眠りへと落ちていった。



「……すん……ぅう……ぐすん」

ぐっすり眠っていた俺は、近くで聞こえる音に覚醒させられる。

「んあー?」

「ぐすん……えぐ……」

目を開けて音のするほうを見てみると、ララが泣いていた。

「おいおい! どうしたんだよ!」

「どうしたじゃなあいぃ!」

俺をぽこぽこ叩きながら泣き叫びはじめた。

「いてっ! なんだよいてっ! 話さなきゃわかんないだろいてて」

「なんでねてるのぉ!」

「……それはだな。お前が見つからなくて……」

「……さがしてたの?」

「う……うん」

ララが怪訝そうな目でじっと俺の目を見る。

「……ほんとに?」

「……ごめん、ララ。眠くなっちゃったんだ」

「だったらはじめからいってくれたらよかったのに!」

「言ったしぃ!」

「いってないもん!」

……あれ? 言ってなかったっけな……わかんなくなってきたぞ。

「……あんなふうに、さみしくさせるなんて」

ララはまたじんわりと涙を流し始める。

「ご、ごめん……悪かったよ」

「わるいよ! だから……ねむいなら、いっしょにねよう」

「え」

「ねむくてそんなわるいことしちゃうんでしょ? だったらねればなおるよね」

「それはそうだけど……許してくれるのか?」

「かなしくなっちゃったけど、あたしがわがままいっちゃったからって、わかってるから……」

そう言ってララは目線を下げる。

「ほんとにごめんララ!」

俺はがばりとララの肩を抱く。

「お前はそんなに自分のことを責めていたのに、俺は……!」

「もういいんだよ」

「ララあぁっ!」

「よしよし」

なんか逆転してません?

「ふぅ、それにしても悪いことを考えてしまったもんだ。もしケガでもしてたら大変だったな……」

「はんせいしなさい」

「はい……」

ララは落ち込む俺のブランケットをめくると、それに滑り込んできた。

「じゃあ、ごめんなさいはここまで。おやすみなさいしよ」

「お、おう。おやすみ」

なんかこいつ、鑑賞会前より精神的に成長しているような気がするな……。以前だったら半日は泣き続けるくらいじゃないか?

そう考えると転生補佐官をやらせているのもこいつのためってことなのかな……。

あーもうだめ。思考するチカラも無くなってきた……。

ララは体温が高いから隣で寝られるとさらに眠気が増してくる。

抑えきれない睡魔に流されるように俺は再び意識を手放した。

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