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サンドイッチ!

用意した材料をパンに挟みやすいように切り分けて、各々の好きなように挟む。

そして用意しておいたイースのシロップをかければ……。

「よーし! サンドイッチの出来上がりってわけよ!」

「うわあい!」

切って挟んだだけなのだ。いくら料理が不得手だろうと失敗のしようがない!

ララも満足そうだしこれはうまく乗り切れたんじゃないか。

「早速食べてみようぜ!」

「うん!」

レタスっぽい葉野菜があったのでそれをパンの上に乗せ、ティアンのスライスとベージの切り身をその上に乗せてまたパンで挟んである。その上からイースのシロップがかけてあるわけだ。

大きく口を開けてかぶりつくと、その全てが調和した味となって口内に楽園が築かれる。

葉野菜の苦味、ティアンの辛み、ベージの塩味、そしてイースの甘み。それらがパンという舞台の上で華麗なダンスを踊る。

咀嚼する度にあらゆる味が舞い、喉を通る度に至福の時間が訪れる。

「うぁ……あぁ……」

脳内に弾けるようにその味覚の洪水が押し寄せ、感想と裏腹に声が出てこなくなる。

数秒の後、我に返るように息を吸い、叫ぶ。

「うまああぁ!」

と、同時に隣からも轟音が響く。

「うががああぁぁあ!」

これはもはや感想ですらない。

「サンドイッチがここまでうまくなるとは……食材が違えばこうも変わるということか。いや! 俺の選んだ組み合わせが良かったんだ! そうに違いない!」

「そうかな」

「違いない!!」

根拠の無い疑念よりもこの味を信じよ!!

「でもほんとにおいしい! サンドイッチ!」

「な! これはマジで……俺の知ってるサンドイッチじゃない。なんならパンの時点でちょっと別物だもんこれ」

「やっぱりしょくざいなんじゃ」

「違うね!!」

まぁ……多少はね? そういうのもあるかもね? このパンも柔らかさと風味が実に際立っていてあっちの世界では極上レベルのものだよ。それにあの見たこと無かった野菜たち。ティアンは玉ねぎよりシャキシャキ感が強めで辛みは強すぎず甘みの垣間見える爽やかな風味だし、ベージはもう説明不要に美味いしイースはシロップにしたらあのとんでもない甘さは控え目になってそのうえでコクのある味わい深いものになって……って、やっぱこれ食材が良いのでは?

「……違う! やっぱ組み合わせが良かったんだよ!!」

「そんなにいわなくてもわかったよ。えらんだのおにいちゃんだし」

「だろ!?」

「うん。すごいね!」

「ははは。それほどでも〜」

もしかして俺、料理の才能があるのかもしれない!

「じゃあこんどはおりょうりつくってね」

「えっ、今作ったろ?」

「……きっただけじゃなかった?」

鋭いじゃんなかなか。

「わかったわかった。でも美味かったろ?」

「それはほんとだね!」

結果良ければってことで勘弁してくんないかなぁ……とはいえ、こんなに面白い食材があるとなると料理に興味が湧いたのも事実だ。

「この世界のこと学ぶ一環に食材のこと学ぶのも悪くないな」

「そしたらおいしいものいっぱいつくってくれるもんね!」

「つ……作れたらな」

調理の方にはしっかりとした自信は無いが……作れたら確かに生活の質は上がるよな。

「ん……ぁ。おなかいっぱいたべたらねむくなってきちゃった」

「俺は全然……ってそうか。お前は俺と違って勉強してたんだっけ」

「そーだよ」

「じゃあ今度は俺が勉強する番かなぁ。お前は先に寝てていいよ」

「えーやだ」

「なんでだよ」

「……あたしもべんきょうする」

そう言うとララは俺の腕に組み付いてきた。

「お前はもう頑張っただろ」

「あたしがおしえてあげる! せんせーだから!」

さっきの設定まだ生きてたんですか。

「というかララせんせーはお料理のことだから他は無理っしょ」

「……」

あ、黙っちゃった。

「気持ちは嬉しいよ。でも今日はもう寝なよ。俺は寝すぎたからちょっと取り返したいだけ」

「むー……ん」

だがまだララは食い下がる。

「あ……もしかして怖くて眠れないとか?」

「ち、ちがうもん!」

そう言うとララは俺から離れる。

「じゃあ大丈夫だな?」

「……ぬぬ」

認めたくないこと同士が葛藤しているらしく、唸るのみとなってしまった。

でもこれを鎮めるには方法はひとつだよな。

「わかったわかった。俺も寝るよ」

「え、でもおべんきょう……」

「そんなんいつでもできらァ。俺ァもう眠いんだよ。ふあああ」

わざとらしくあくびをしてみせると、それを見たララは納得したように笑う。

「なぁんだ。そうだったんだね」

「うんうん。そうそう。身体綺麗にして寝ようぜー」

「うんー!」

寝てばっかになってしまったが仕方ない。こうでもしないとこいつは勝手に抱え込むからな。

それにそうそう転生者も現れないだろうから、まだまだ時間はある……かもしれない。

「明日はとりあえずメリアさんに会いに行かなきゃならないし、夜更かしするのもよくないよな」

「ちこく……ダメ、ぜったい」

「そうだな。よし、じゃあ今日はもう寝ようぜ」

マークの冒険を見届けた長い長い一日……まぁその時間は五分だけだったけど……その一日がようやく終わった。

これからこんな日常が待っているというわけか。

先は不安ばかりだが、こいつといる日常は悪くない。仕事をうまく進めるためにも学んでいくぞ!

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