それからどれほど経ったろうか。
私は、シンジの家に世話になって暮らしていた。
シンジの両親にもお世話になっているけれど、喋れるのはシンジだけとのヒミツだ。
「ニャコ。今日も遅くなるから……」
最近、シンジの帰りが遅い。
日中ヒマだから早く帰ってきて欲しいものなのだけど……。
「うん。気をつけて行ってね」
「ありがとう。行ってくるね」
私の頭をひと撫ですると、シンジは部屋から出ていった。
そして、シンとした部屋の中に私だけが残される。
拾われた身だから、贅沢は言えない。言えないけれど、なんとなく心が締め付けられるような気持ちになる。
「私も……外に行きたいな」
窓の外を眺めていると、ついそんな言葉が口から出た。
もう出たくもなかった外に、自ら憧れてしまっていることに困惑した。
だが、それは紛れもない事実で、シンジへの恩義をもってしても退屈に勝ることはなかった。
「……あれ」
そんな時、不意に頭の中に何かが浮かんでくる。
はじめはモヤモヤとした認識しづらいものだったのだが、それが徐々に声のようなものであると理解できるようになった。
『……きこえる?』
きこえる。今はもう、はっきりとその声が聞こえるようになった。
「だ、誰?」
『私はあなた。正確にはあなたになる前のあなた』
「どういう意味?」
『そのままよ。前世っていうものがあって、あなたが生まれる前にあなただった存在が私なの』
「……ふぅん。それで? 何の用なの?」
『あなたに私の記憶を……と言う展開だったはずなんだけど、記憶の共有はしないことにしたの。だから飽くまであなたはあなた。私は私というわけね』
「じゃあ何のために来たの? まさかそれを言う為だけに来たんじゃないわよね?」
『大切なことを伝えなきゃいけないの。あたにはやるべきことがある。そのためにこの世界に生まれたの』
「私が……? それは何?」
『この世界にある大穴、ガレフに行って冒険して欲しいの』
「は?」
『ガレフに行って冒険して欲しいの』
「いや、きこえたわよ。でもそういう話じゃなくて……なに? 冒険? 何を言ってる?」
『戦うのよ。この世界で』
「あのね……私はヴィヴィよ? 戦うなんてそんなことできるわけが……」
『それは私もそう思ったわ。でも、あなたにはすごい能力がある。正確には私がつけてもらったんだけど』
「能力? ……もしかして、私が喋れるのって……」
『そう。私が頼んでそうしてもらったの』
「……ふぅん。詳しく聞いていいかしら?」
『もちろん。あなたにはその能力以外にも能力があるはずなの』
「え、ほんと? 私これ以外わかんないんだけど」
『あなたは魔法を使うのが上手いらしいわ。だから非力なニォ……ヴィヴィでも大丈夫』
「魔法……使い方がわからないけれど、本当なの?」
『それに関しては誰かから学べるらしいから後でも大丈夫かもね。そして最後に、あなたのスキルについて』
「スキル?」
『あなたに与えられた特殊な能力のことよ。スキル名を唱えながら特定の手順を踏むことでスキルが発動するわ』
「そんなものがあったのね……それで? それはいったいなんなの?」
『……ゴロニャーム』
「な、なに急に……」
『それがスキルの名前よ』
い、一瞬ふざけてるかと思ってしまった……。
「な、なによそのスキルは……」
『これを使えば相手をトリコにできるらしいの』
「トリコに……? 愛してしまうってこと?」
『そういうことね』
「強力ね……でもそれって戦いに使えるのかしら?」
『戦いにっていうよりかは一緒に戦ってくれる人を作るのに使えるっぽいの。あなたもそういう使い方をするといいわ』
「なるほど……そういうのもあるのね……」
スキルの使用方法を声の主に教わった。
「じゃあ、これを駆使してガレフで戦うのが私の使命ってこと?」
『そう。それを果たせば私はどんな願いでも叶えてもらえるの』
「……あなたが?」
『あなたでもあるのよ』
「待って。それじゃあ私が頑張ってもあなたは頑張らないんじゃないの?」
『今ここで話している私とあなたは同じ存在なのよ? こうして対話することができてるのは今だけ。もう一度あなたがその命を全うした時には私の記憶を思い出すだけよ』
「……はぁ、もうわけわかんない。でもそれならやる価値はあるってことね」
『そういうことよ。だから頑張りましょう。かわいいからきっと上手くいくわよ』
「自分に言うことかしらねぇ……」
その声の主の言うことはイマイチ信用出来ないが……喋ることができる以上はそのスキルや魔法が使えるということも信じられないわけではない。
ただ……もしガレフに行くとなるとかなり壁は大きいだろう。
そもそも私はヴィヴィなのだ。
まだシンジ以外の人間と話したこともない。
私のような愛玩動物が交渉を持ちかけたところで上手くいくのだろうか……あ、それをスキルでなんとかすればいいのかな。
先行きは不安ばかりだが、とりあえずはやってみるしかないか。
ひとまずは勝手に外に出る訳にもいかないし、シンジと話をしてみよう。
彼が帰ってくるまで使命について考えながら待つことにした。