「ただいま……って、ニャコ? なんか、雰囲気が違うね」
帰って早々に玄関に待ち構えていた私を見て、シンジが話しかけてきた。
「……大切な話がある」
「わかった。……部屋に行こうか」
私の雰囲気から何かを察したのか、シンジはそれだけ言うと部屋への移動を促した。
「……私、わかったの」
部屋に入ってすぐに、本題を切り出す。
「わかったって……なにがさ?」
「私がなんで喋れるのか」
「えっほんと!?」
「うん……今日ね、声がきこえたの。昔私だった人の声が……」
「きみだったって……それはじゃあ、前世ってこと?」
「そう……らしいわね。私はよくわからないけれど、生まれ変わった後にこの姿になったらしいわね」
「それで、その声が何を言ったの?」
「私には使命があるって。それを果たさなきゃいけないらしいの」
「使命って……そんなに大袈裟なものなの?」
「ガレフで戦ってこいって……」
「ガレフへ!?」
シンジがそれを聞いて驚いた声を上げる。
無理もない。ガレフというのはこの世界に蔓延る魔法生物がやってきたという大穴だ。
私もその魔法生物の一種なのだが、私たちのようなヒトと共存するような種はガレフから漏れ出た魔素の影響で後天的に魔法生物へ変異したらしい。
この街フリディリアは魔法生物研究に長けた機関、アンシェローがある。それ故に人々の噂話がそこかしこで聞けたのだ。
「ニャコが戦うなんて、そんなの無理だ!」
「私もそう思った。でも、私には喋れる他にも特別なチカラがある。それを使えば……」
「そんなこと言ったって! そしたらニャコはここからいなくなるってことでしょ!?」
「……そうなる。でも、必ず戻ってくるから」
「ニャコは……ニンゲンじゃないんだ。一緒にいられる時間は限られてるんだ。せっかく会えたのに……そんなの……」
「シンジ……でも、あなたも私に構ってばかりいられないでしょう? あなたも大きくなって、忙しくなっているのに、私に気を使わせないようにしている。……わかるわよ。私だって、呑気に家に寝かせてもらってるだけじゃない……」
「それは……」
「……これでよかったのよ。もともと私は、ここに居させてもらえただけでも幸せだった。だから、私は行かなくちゃ」
「嫌だよそんなの! ニャコは……ぼくの家族じゃないか……」
「シンジ。私もこんなのおかしいって思うわ。だっていきなりすぎるじゃない。ただのペットの私が冒険だなんて。……でも、不思議なチカラがある時点で、こうなることは必然だったのかもしれない」
「ニャコにしか……できないこと」
「うん。私のチカラだから出来ることが、きっとある」
「……わかったよ、ニャコ。でも、きっと帰ってきて。信じてるから」
「……うん」
シンジはなんとか折れてくれた。
私自身、まだどうしたらいいかわからないけれど……決心が鈍らないうちにこの家を出ることを決めた。
翌日、私は決断通りに家を出た。
シンジは少し悲しそうな顔をしていたけれど、昨日話をしたからか手を振って送り出してくれた。
シンジのお母さんたちには上手く言っておくと言ってたけど……ちょくちょく顔を出した方がいいだろうな。
しかし、ただのヴィヴィである私がここよりずっと離れたガレフに行く方法を見つけることが、まず困難だ。
もし手がかりがあるとすれば……。
「アンシェロー……」
魔法生物の研究機関のあるアンシェローは、私に興味を示してくれるかもしれない。
そうしたらきっと、有利な条件を得られるかもしれない。
そう思った私はアンシェローを訪れることにした。
フリディリアの面積の多くを占める巨大な施設。
緊急事態対策機関として様々な分野を備えるアンシェローは、巨大な門を隔てて居住区と隣接している。
そして今、私はその門の前に立っている。
普通に暮らしていたらこの門の中に入ることは無いのだが、目を引くその門は、観光名所にもなっている。
ヴィヴィである私がこんな場所にいるのも少し人目を引くものであるが……私はひとまず門番に近づいてみた。
「……ん? なんだこの子。入りたいのか? でもヴィヴィとはいえ通すわけにいかないからなぁ。ごめんなぁ」
そう言ってやんわりと身体をおさえられて外へ押し出されてしまった。
……どうしたものか。
「……あらあら?」
そんな時、門に近づいてくる人影が私を見て声を上げた。