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スカウト

後ろを振り返ると、そこには穏やかな表情のお姉さんが立っていた。

「……あなた、ただのヴィヴィじゃないですよね」

……気づかれている。

門番たちはなにもわからないようだったが、この人は違う。

「……わかるのね」

「あら、やっぱり。喋れるなんてなかなか賢い魔法生物じゃないですかぁ。……それで、争うために来た訳じゃないですよね? わざわざアンシェローの門の前に来るってことは」

「察しがよくて助かるわ。私、ただのヴィヴィじゃないの」

「えぇ。それはわかります。ただのヴィヴィは喋りませんし」

「どうやら私、もとは人間だったらしいの」

「……ほう。もしかして、あなた、前世の自分に特殊な能力を教えてもらったりしてませんか?」

「な、なんでそれを!?」

「やはり、転生者なんですね。あなたも」

「あなたも? 私の他にも誰かいるの?」

「もういませんよ。彼は使命を放棄してこの世界で生まれた村で幸せに暮らしています。……別に悪いことじゃないですよ。彼が言うには、その使命っていうのはほぼ果たすことなんてできないらしいので」

「果たせない? じゃあ私も……」

「それはわかりません。ただ、あなたが望むのなら私はその使命を果たす手伝いをして差し上げましょう」

「え、いいの!?」

「はい。転生者の使命はガレフの攻略。私たちと利害が一致しています。……ただ、こんな小さな冒険者ははじめてですけどね」

「悪かったわね……」

「別に責めてはいません。むしろ私は期待しているんですよ。あなたがどんな能力を持っているのか」

「……そんな大した能力じゃないと思うけど。相手を魅了することができるらしいわ。ずるいわよね」

「魅了……すばらしいじゃありませんか。それがあればどんなカタブツでも意のままに操れるということですよね?」

「……そうかもしれないけど」

「良心が痛みますか?」

「……」

「冒険者には泣き言は禁物です。これからあなたが飛び込む世界は、家暮らしのペットには想像もつかないほど過酷なものですから」

「やっぱりバカにしてるわよね?」

「いえいえ。ただ、覚悟はしておいて欲しいので。はいやりますと言われてすぐに戦場に立てるものではありませんから」

……物腰は柔らかいが、この人はかなり優秀な人なのかもしれない。

挑発に乗らずにうまく従った方が良さそうだ。

「私、自分の使命と向き合うためにここに来たの。チカラを貸してくれるっていうのなら。なんでもするわ」

「……今、なんでもっていいましたね?」

「あ、その……まぁ……」

「その言葉、しっかり最後まで貫いてくださいね」

「……はい!」

「いい返事です。ではついてきてください。私はルルー。これからよろしくお願いします」

「あ、私、ニャコです……よろしくお願いします!!」

「あぁ、別に無理に敬語を使えとは言いませんよ。自然体でどうぞ」

「え、いいの?」

「ええ。その方が伸び伸びと所属していただけるので」

「わかったわ。これからよろしく、ルルーさん」

「はい。さて、それでは早速手続きといきましょうか」

アンシェローへ通されて、隊員になる手続きをした。

喋るヴィヴィを見て周囲は驚いていたが、皆恐れるのではなく興味津々といった様子だった。

……変わり者が多いみたい。

研究室の人達も、是非検体になってくれと言ってきたが、当然ながら丁重にお断りさせていただいた。

「気に入りましたか?」

「……まぁね」

私が過ごした街での生活とも、シンジとの生活とも違う。

心の奥底から言い表せない感情が湧いてくる。

私、ここでの生活に期待しているのかも。

「ありがとうルルーさん。私、しっかり働くから」

「検体になりますか?」

「ならないってば!」

ルルーさんは優しく笑っている。

良い人だな……。

「さ、それじゃ帰りましょうか」

「え?」

「おうちに帰るんですよ」

「寮があったりするんじゃなくて?」

「ありますけど、あなたの寮はありません」

「隊員になったのにだめなの?」

「だめというか不要です」

「それは、私がヴィヴィだからってこと!?」

「そういう意味ではありません。もう既に手配してあるから、ということです」

「え?」

「あなたは、私と暮らすんですよ」

「えええええ!?」

いくら良い人だからって、いきなり同居!?

「ちょ、ちょっといきなりそんな……」

「いきなりじゃないです。もう決めていましたから」

さっき会ったばかりなのに!?

「……まぁ、ルルーさんとなら心配いらないと思うけど。頼りになりそうだし」

「あらあら。嬉しいことを言いますね」

「……だって、他の人と明らかに違うでしょ」

「ま、そうですね。私はアンシェローの中でも精鋭に位置づけられていますから」

ルルーさんは誇らしげに言う。

「それじゃあ文句はないですね。まぁ文句があっても連れていきますが……家に向かいましょうか」

「お、お願いします……」

ルルーさんに連れられてフリディリアの街中へと出ていった。

それから十数分ほど歩くと、大きな館が見えてくる。

「ここですよ」

「で、でっかくない!?」

「でっかいですよ。でも持て余してるんです。ちょうど良かったですね」

「なんか、申し訳なくなってきた……」

「あ、爪とぎだけは規定の場所でしてくださいね。喋れるんですからそれくらいはわかってくださいますよね?」

「も、もちろんです……」

多分この言いつけを破ったら酷い目にあうだろうな……。

「それじゃあ入りましょうか」

ルルーさんに促されて館に足を踏み入れた。

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