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居候

「ルルーさんおかえり……って、ヴィヴィ?」

館に入ってすぐに、少年がルルーさんを出迎える。

「あらいっくん。お出迎えありがとうございます」

「あ、息子さん?」

「わっ! しゃ、喋った!?」

「あぁ、ごめんなさい。私喋れるの」

「……息子、に見えますか?」

「え、違うんですか?」

「……」

ルルーさんは腕を組んで圧をかけてくる。

……確かに母親という年齢ではないか。

「あ! も、もしかしてお姉さん?」

「ふふ、そう見えますか?」

嬉しそうだ。

「ち、違うって! もう! ルルーさんは僕の保護者! 初対面の人にそれやるのやめてよねっ」

「お姉さんなのに……」

「ま、まぁどっちでもいいわ。いっくん……っていうの?」

「あ、やめてください。その呼び方ができるのは私だけです」

「そうですか……じゃあなんて呼べばいい?」

「ジェイクだよ。よろしくね、えっと……」

「ニャコよ。今日からここで一緒に暮らすことになったの」

「ふぅん……えっ!?」

「家族が増えます。やりましたねいっくん」

「いや……まぁ……」

「あら、嫌なんですか?」

「嫌じゃないよ! ただ、ちょっぴりいきなりだったから……」

「ごめんなさいねニャコさん。いっくんは私とふたりっきりになれなくなると思って少し寂しいようです」

「違うからっ!」

「照れなくてもいいのに……」

「はぁ、もうほんとに冗談かわかんないんだけど、ニャコさんがここに来るってのはほんとなの?」

「それは本当ですよ。なぜなら彼女は……あのマークさんのような転生者なのだから」

「ええっ!?」

「ん? 誰?」

「以前いたという方のことです。あなたたち転生者との交流は魔法研究に大いに役立つ……なので手中に収めておきたかったのです」

「正直ね……」

「目的を隠しても仕方ありません。ただし、ここに住むからにはただのビジネスパートナーというよりはもう少し踏み込んだ関係を目指していきたいのですが……構いませんか?」

「それは……むしろお願いしたいところだわ。シンジと離れて寂しいし……」

「あなたの飼い主ですか……好きな人と離れるのは辛いですね」

「えぇ……」

「私もいっくんを置いて任務に行く時、どんなに辛いか……!」

「ああはいはい」

「ほんとですよいっくん?」

「わかってるよ。……僕だってひとりは寂しいし」

「やっぱりそうですか! それじゃあ今日は一緒の布団に……」

「そーいうのはいいからっ!」

「あはは、仲がいいのね」

「えぇ。かわいくて仕方がないのです。いつかはあなたのお腹も撫でさせてもらいますよ」

「そ、それは……考えておくわ」

「ふふ、まぁそう構えなくてもいいじゃないですか」

ルルーさんからは偽りのない好意を感じる……。

ここも私の居場所になってくれるだろうか……。

「あ、ニャコさんは部屋が欲しいですか? 自由にどこにいてもらっても構いませんが……」

「贅沢は言えないわ。それに私は人間だった時の記憶はない。ヒトみたいにあれこれ置きたいものもなければ欲しいものもないわ」

「あらあらそうですか。それならいいですけど……」

「ニャコさん、僕んとこ来なよ」

「いっくん! 彼女は女の子と一緒なんですよ!」

「あ、そっか……ごめんニャコさん」

「ううん、 別に私は構わないわ。それとも一緒に寝る?」

「……ニャコさん。いっくんに魅了をかけたら許しませんからね?」

ルルーさんが微笑んだままこちらを睨みつけてくる……。

「魅了? ニャコさんはそういう能力なの?」

「驚くことに食らった相手をトリコにしてしまうとか……。まだ試していないようですが強力ですね」

「心を操っちゃうって……なんか怖いね」

彼の言う通り。この能力は自分で使うのも怖い……。試しに使ってみようなんて軽々しく思えないほどに。

「ま、その時がきたら使いましょう。それまでは魔法の訓練でもしたらどうです?」

「魔法も使えるの!?」

「そう……らしいの。それもまだ試してないけどね」

「伸びしろがたくさんありますよね。訓練しがいがありそうです」

「……ニャコさん、ルルーさんの訓練は地獄だから……」

「にゃっ!?」

「そんなことないですよぉ」

その優しげな笑顔とは裏腹にジェイクはビビり散らかしている……。

「お、お手柔らかに……」

「あなた次第ですね」

「ひぃ……」

「さ、それではご飯にしましょうか」

ルルーさんとジェイクの生活に私が加わることになった。

まだ来たばかりなのだから慣れるはずもないのだが……この広い屋敷に二人で暮らしてきたというのもなんとなく信じ難いくらいだ。

信用はして良さそうだが、逆に私が信頼して貰えるくらいの成果を残せるようにならなくては……。

まだ自分の能力についても何もわかっていない自分が少し情けないが、きっとこれからだ。

そう信じて私はソファの上で丸くなる。

明日から……また新しい生活が始まるのだ。

先行きは不安ばかりだが、きっと悪いようにはならない……何度もポジティブとネガティブを繰り返していくと、次第にうとうとと意識が溶けていく。

シンジ……私は絶対に使命を果たして帰るから……。

その決意だけを鮮明に胸に抱き眠りについた。

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